ここでしか味わえないひと皿で魅了する 世界一美味しい日本のイタリア料理 第9回(全10回) 特別な日にはエレガントなリストランテの料理、日常では気軽にパスタやピッツァやドルチェ……。ここまでバラエティに富んだイタリア料理を楽しめるのは、世界において日本だけかもしれません。時代ごとのムーブメントを積み重ねながら、確実に進化している日本のイタリア料理。その現在地に迫ります。
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グローバルな視野のもとイタリア料理の道を究めるに従い、独自のスタイルを確立するシェフが出現しています。日本を代表するファインダイニングを率いる2人(
「ファロ」能田耕太郎さん、「アルヴァ」平木正和さん)が今、目指す新境地とは。
ファインダイニングで伝える、海・山・里の声
アルヴァ (東京・大手町)平木正和さん定番の一つ、蝦夷鹿のラグーの手打ちパスタ。ミンチのラグーに軽くソテーしたサーロインをトッピング。蝦夷鹿が雪の中から掘り出したと想像して行者にんにくを添え、パルミジャーノ・レッジャーノのソースで雪を表現。2016年、「アマン東京」の料理長となるため、17年間のイタリア生活を終えて帰国した平木正和さん。
最初に直面したのは、イタリアの食材と日本の食材の違い。そして、イタリアでは当たり前に手に入るものが入らないことに戸惑いを覚えました。程なくして、日本の食材に慣れるために生産地を訪ね、どのように作られているのかを知らなければならないと思うように。
そこから平木さんの“食材ハンター”人生が始まりました。初めは自ら電話をかけて、生産現場を見せてほしいといきなり頼んでいましたが、なかなかうまくいかず、やがて各地方の自治体に相談することで紹介を得られるようになりました。
「私にとって食材を求める旅はまさにバカンス」という平木さん。「生産者さんから直接話を伺うことで、食材の背景が具体的に見えてきます。そこからイマジネーションを広げ、料理を構築していくのです」。月に1度は地方へ出かけ、短い時間の中で何軒も訪ねます。
休日を使って全国各地を訪れ、時には作業もともにする。ある程度量を確保しなければならないホテル特有の事情もあり、実際に採用できる食材は限られていますが、それでも平木さんの中に、食材の知識が確実に蓄えられていきます。
鹿児島県産指宿牛サーロインをふきのとうのクロスタ(ころも)で包んでソテー。そら豆のペースト、旬の野菜とともに。
生の伊勢まぐろと、山菜、香川県産アマン東京オリジナルキャビア。中央は東京うどの角切りとヨーグルトをあえたもの。「最初は点と点だったものが、やがて線となり、私の中で一つの像を結ぶようになっているのを感じています。食材は私にとって料理を生み出すかけがえのない源泉。技術だけではなし得ない世界を作り出してくれます」。
平木さんの料理一皿一皿には、平木さんだけが紡ぐことができる物語が込められているのです。
平木正和さん(ひらき・まさかず)
1999年渡伊、各地のリストランテなどで修業後、ヴェネツィアの5つ星ホテル「ザ・バウアー」に13年間勤務。最後の3年間は総料理長を務めた。2016年に「アマン東京」に勤務し、18年からは総料理長。アルヴァ東京都千代田区大手町1-5-6 大手町タワー アマン東京33階
TEL:03(5224)3339
営業時間:11時30分〜14時(LO)、17時30分〜20時(コースLO アラカルトは21時LO)
火曜・水曜定休
ランチコース9000円〜、 ディナーコース2万3000円〜 要予約
撮影/本誌・坂本正行 取材・文/池田愛美 ※本特集でご紹介するレストランの料金には、別途サービス料がかかる場合がございます。予めご了承ください。
『家庭画報』2023年5月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。