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織物好き垂涎の的、インドネシアの経緯絣「グリンシン」とは?

2018.07.20

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随筆家 大村しげの記憶を辿って 第12回 バリ島特別編



かつて、京都の「おばんざい」を全国に広めたお一人、随筆家の大村しげさんをご存じでしょうか。彼女の生誕100年となる今年、大村さんの記述を道しるべに、京都の名店や名所を巡ってきた本連載。今回は、大村さんが晩年を過ごしたバリ島を取材し、彼女を魅了した現地の文化を特別編として紹介します。

大村しげ大村しげ
1918年、京都の仕出し屋の娘として生まれる。1950年前後から文筆をはじめ、1964年に秋山十三子さん、平山千鶴さんとともに朝日新聞京都版にて京都の家庭料理や歳時記を紹介する連載「おばんざい」を開始。これをきっかけに、おばんざいが知れ渡り、大村しげさんも広く知られるようになる。以来、雑誌や著書で料理、歴史、工芸など、幅広く京都の文化について、独特の京ことばで書き残した。1990年代に車いす生活となったのを機にバリ島へ移住。1999年、バリ島で逝去。(写真提供/鈴木靖峯さん)


インドネシアの布の魅力




「わたしは、こどものときから布が好きやった。(中略)おとなになってもいっしょで、珍しい布があると集めるくせがついている」(『京都・バリ島 車椅子往来』中央公論新社)と書いた大村しげさん。1982年にはじめてバリ島を訪れて以来、彼女を虜にしたのがインドネシアの布です。

インドネシアには代表的な布がいくつかあります。そのなか「バリ島、いや、インドネシアの布を言うときに、テンガナン村の経緯絣は、いちばんにあげんならん」(同上)との一文を残しています。インドネシアの絣織物はイカットと呼ばれ、世界的に知られた存在です。そこで実際に当時、大村さんが出かけていた村(※)を訪れてみました。
※著書ではテンガナンと表記されていますが、現在は実際の発音に近いトゥガナンと表記するのが一般的です。


大村しげさんが暮らしていたウブドから車に乗り、2時間ほどでトゥガナンに到着しました。入り口で入村料代わりに寄付(金額は任意)をしたのち、村の中へ。細長い村の地形はわずかながら高低差があり、奥へ行くほど徐々に地面が高くなっていきます。

村の中心に集会場のような屋根だけの建物があって、周囲に民家や土産物店が並んでいました。

大村さんが、訪れていたのがこちら。伝統的なイカット(絣)をいまでも織っている工房兼ショップです。看板らしい看板もないお店なので、興味のある方はこちらの写真を目印にどうぞ。



お店に入ると、店内は布であふれています。奥では機を織る女性の横で、別の女性が糸を草木染めしている作業中でした。イカットを織るための糸は束ねたあと、部分的に括り、染まるところとそうでない箇所を作ります。そうして斑(まだら)に染め分けた糸(絣糸)を機(はた)にセットして手で織るのです。



こちらのおばあさんはなんと100歳とのこと。織っているのは経糸(たていと)が単色のイカットです。緯糸だけを斑(まだら)に染め分けた絣糸を使い、柄の出具合を微調整しながら織るのは、本当に根気のいる作業。

こちらの女性が織るのはさらに高度な経緯絣で、カンベン・グリンシン(ダブルイカット)と呼ばれています。

経緯糸(たてよこいと)ともに絣染めの糸を用いて、柄を出すもので、これがトゥガナンを世界的に有名にしているのです。緯糸を通した後、骨を削ったと思しきピンで、経緯の織り糸を丁寧に調整しながら打ち込む(緯糸を縦方向から押さえつけて織り上げる工程)繊細さは、驚くほかありません。柄によっては何年もの製作期間を必要とするそうです。



大村しげさんは新しいものよりも、古いイカットを好んで集めていたといいます。合成染料を使うイカットがすでに出てきた時代であり、天然染料を好んだことや、観光客向けではなく実際に庶民の暮らしに根付いた布を欲しがっていた様子が著書からうかがえます。

織り手のニー・ワヤン・スディヤティさん。日本の百貨店の招きで、20年前に来日して実演をしたことがあるそうです。

こちらのお店ではジャワ更紗(バティック)も扱っています。ただし、更紗はジャワ島が本場で、こちらのお店は販売のみ。


大村しげさんは、車いす生活になる前はジャワ更紗で着物や丸帯を、車いす生活後はアッパッパを作り、独自のおしゃれを楽しんでいました。本来のジャワ更紗はろうけつ染めで作るもの。ロウで柄を描き、色を染めてロウを洗い流せば、ロウづけした部分だけは色がつきません。これを繰り返すことによって、緻密な柄を染めるわけです。

大村さんの存命時には、ろうけつ染めのほかに、型による精巧なプリント柄のバティックがすでに登場していました。

型染めについて「プリントは表だけしか染めていないので、裏を見ればいっぺんにわかる。ほんまにだまされやすうなってきた」(『ハートランド バリ島 村ぐらし』淡交社)と注意を促しています。

特別に、お店の奥にあるとても古い貴重なグリンシン(経横絣)を見せてもらうことができました。お店の人も確かな製作年はわからず、100年前か、200年前のものでしょうとのこと。
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