モロヘイヤの海苔和え、酢のもの
近年、モロヘイヤは美容効果と高い栄養価から、注目されています。オクラ同様、味よりむしろ、くせになるその独特のぬめり感が特徴です。上手に下処理して、おひたしや酢のものなどでぬめり感を楽しみたいものです。
では、プロの料理人が行っている上手な下処理とはどのようなものでしょう。
丁寧な下茹では当然ですが、プロはその後に無理にでも下味をつけようとします。おひたしを例にとれば、青菜などを茹でて冷水に放してさらし、水分を絞った後、調味出汁に数時間漬けて味を含ませるのです。
一見、丁寧な下処理に見えるかもしれません。しかし、このやり方だと、下味はつきますが、素材独自の風味やぬめりなどの特徴は確実に低減します。また、五感では感じられなくとも、素材が持つエネルギーも失われているように感じます。
つまり、手間暇かけたプロのおひたしは、食べる直前にパッと作った家庭のおひたしに負ける場合があるのです。家庭のおひたしは、味はしみていなくても、風味豊かで素材の味がするからです。
私もかつてはこのプロのやり方が優れた手法だと信じて疑いませんでしたが、自身の野菜料理の探求が進むにつれ、考え方が変わりました。
私の野菜料理の現在の到達点の一つの手法を今回はお伝えします。探求すればするほど、自身の至らなさを思い知らされることばかりですが、その高みへの一歩一歩を大切に、今日も野菜料理を楽しみます。
ちょっとしたコツ
・「モロヘイヤの海苔和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素をクリア。
◎旨み ◎塩分 甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・「過ぎたるは、なお及ばざるが如し」。旨みを素材につけることを重視し過ぎて、持ち味、風味を軽視した料理にしない。
・プロの手法の真似が必ずしも優れているとは限らない。調味出汁に漬けて旨みを素材に無理にのせるのではなく、茹でた野菜の水っぽさを調味出汁で洗うことで解決。
・焼き海苔を加えて旨みと風味を足す。海苔は単独で旨み相乗効果(アミノ酸系×核酸系)をなす優秀な食材で、いまひとつ物足りないときに加えると味が決まる。
・「モロヘイヤの酢のもの」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素をクリア。
◎旨み ◎塩分 甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・酢は1種類ではなく、異なる数種の酢(柑橘酢など)を合わせて用いると、深みが加わりコクがでる。
・酸味は突出すると刺激が強すぎて食味を損なうので、他の味(旨み、塩味、甘み、油分)と合わせることで穏やかな丸い酸味にできる。
・ナッツと揚げ湯葉を加えることで旨みと油分、食感を足す。
「モロヘイヤの海苔和え(写真左)」
【材料(2人分)】・モロヘイヤ 1/2束
・塩 適量
・美味出汁 適量
出汁4:濃口醤油1:日本酒1:みりん0.8の割合
・わさび(お好みで) 適量
・焼き海苔 適量
【作り方】1.モロヘイヤは葉と茎を分ける。茎は柔らかい部分のみ用いる。
2.鍋に湯を沸かし、塩を入れ、葉はさっと、茎は柔らかくなるまで別々に茹でる。
3.茹で上がったら冷水に放し、軽く絞って適宜切り、ボウルに入れて美味出汁を全体にかけて混ぜ、再度軽く絞る。茎の部分は叩きオクラのように包丁で細かく叩いて混ぜてもよい。(「
オクラ梅若煮麺」参照)
4.3にちぎった焼き海苔を適量入れ、混ぜて器に盛る。
5.別の美味出汁に好みでわさびを溶かし、4にかけ、ちぎった海苔を少しのせる。
「モロヘイヤの酢のもの(写真右)」
【材料(2人分)】・モロヘイヤ 1/2束
・土佐酢 適量
出汁4:薄口醤油1:みりん1:酢1の割合
・小夏(ニューサマーオレンジ) 適量
・カシューナッツ(他のナッツ類でもよい) 適量
・糸湯葉(なければそうめん) 適量
・揚げ油 適量
【作り方】1.モロヘイヤを茹でて適宜切るところまでは、海苔和えのプロセスと同様に。
2.モロヘイヤをボウルなどに入れて土佐酢を全体にかけて混ぜ、軽く絞る。
3.小夏は適宜切り、ナッツは刻んでおく。糸湯葉を160℃くらいの油で揚げてクッキングペーパーに広げ余分な油を除いておく。湯葉が手に入らなければそうめんを1.5cm程度に切って同様に揚げてもよい。
4.モロヘイヤに3の小夏とナッツを加えて混ぜ、器に盛り、土佐酢をかけて上に揚げ湯葉をのせる。
※小夏が手に入らなければ、柑橘類なしで作り、土佐酢の代わりに柑橘酢を加えた酢を使う。
柑橘酢を加えた酢
出汁6:みりん1.5:濃口醤油0.5:薄口醤油1.5:酢1.5:柑橘酢(すだち、かぼすなど)0.5の割合
※酢に柑橘系の酢を合わせると深みが加わり、風味もつく。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。