焼きなすの赤出汁、焼きなすと梅豆腐の薄葛仕立て
今日は焼きなすを使った汁ものを2種ご紹介します。どちらも焼きなすを使ってはいますが、一方は武家、他方は公家というイメージで、ある種対照的な汁ものになります。
戦国英傑の一人、織田信長の味覚を揶揄(やゆ)する逸話が『常山紀談(じょうざんきだん)』「五六 坪内某(つぼうちなにがし)料理の事」に残されています。
三好氏に仕えていた坪内という名料理人が織田方に捕らえられたが、その腕ゆえに殺すには惜しいと、信長が試しに料理を作らせる。信長は水臭いと激怒し、即座に処刑しようとしたが、坪内はもう一度だけ料理を作り、それでも気に入らなければ切腹すると申し出る。再度、料理を作ると、今度は気に入られて召し抱えられた。最初は京風の薄味、2度目は尾張から取り寄せた豆味噌を使った濃い味の料理だったという落ちです。
事の真偽はともかく、また、薄味と濃い味のどちらがどうのという話でもなく、料理人ならどちらもおいしく料理できて当然です。
焼きなすの風味に赤出汁味噌の個性を上手に合わせると、相乗効果で強いインパクトの夏らしいおいしい味噌汁になります。
また、絹ごし豆腐に薄葛仕立ての出汁をはって梅肉を留めたはんなりした味に、焼きなすをアクセントとして添えると、全体が引き締まり一つ上級の味わいに。
金子みすゞの「みんなちがって、みんないい」(『私と小鳥と鈴と』)ではありませんが、どちらもよくするのが料理をする人間の腕、今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「焼きなすの赤出汁」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素をクリア。
◎旨み ◎塩分 甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・出汁を通常より濃くひいて用いると、赤出汁味噌は少なめにしても全体としてはバランスがとれる。
・焼きなすは水っぽくならないように味噌汁で軽く下炊きする。
・「焼きなすと梅豆腐の薄葛仕立て」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素をクリア。
◎旨み ◎塩分 甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・アクセントとして加える焼きなすの量がポイント。多過ぎると焼きなすが主張し過ぎ、少ないとアクセントにならない。
・焼きなすは水っぽさを感じさせないように、味をつけた出汁を一度含ませ、軽く絞って用いる。
・味をつけた後にとろみをつけること。手順を逆にすると粘度が増して舌をヤケドすることがある
「焼きなすの赤出汁」
【材料(2人分)】・
焼きなす 2本
・出汁(濃いめのもの) 300cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でも。
・赤出汁味噌 適量
・練り辛子 適量
【作り方】1.鍋に出汁を入れ火にかけ、温まってきたら味噌を溶く。出汁が濃いのでいつもより少なめの味噌でよい。
2.あらかじめ用意しておいた焼きなすは、水分をクッキングペーパーなどで除き、1本のまま切らずに1の味噌汁の中に入れて温めると同時に味を含ませる。
3.なすが温まったら、引き上げて一口大に切る。
4.3のなすを椀に盛り、味噌汁を注ぎ、練り辛子を味噌汁で少しのばした溶き辛子をなすの上に留めて供する。
「焼きなすと梅豆腐の薄葛仕立て」
【材料(2人分)】・絹ごし豆腐(35×40×15mm) 2個
・焼きなす 1/3本
・出汁 350cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でも。
・塩 1g強
・薄口醤油 小さじ1強
・葛粉(葛1:水2を溶く。片栗粉でもよい) 適量
・梅肉 適量
【作り方】1.絹ごし豆腐はあらかじめ常温に戻しておいたものを35×40×15mmくらいの大きさに切る。鍋に出汁(分量外)を入れて火にかけ、薄く塩味をつけて豆腐を入れて温める。出汁がもったいないと思う場合は湯に塩を加えたものでもよい。
2.鍋に出汁を入れ火にかけ、吸いものよりも少しだけ濃いめの味になるよう塩・薄口醤油で味をつける。
3.焼きなすは、水分をクッキングペーパーで除き、一口大に切る。それを小さなボウルに入れ、2の熱い出汁を少量取り分けて加え、味を含ませて下味をつける。
4.2に、水で溶いた葛を少量ずつ何回かに分けて加え混ぜ、薄いとろみをつける。あくまでも吸いものなので薄いとろみでよい。弱火で10秒弱炊いて粉臭さをなくす。
5.椀に1の豆腐を盛り、その上に味を含ませておいたなすの水分を絞ってのせ、4の出汁をはって最後に梅肉を留める。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。