プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 夏野菜のおひたし
この連載を始めるにあたり、野菜料理を売りにしているレストランに試食に行ったり、多くの野菜料理の本も見ました。そこで一番目についたのは彩り豊かなサラダ、バーニャカウダ……、同じプロとして、その意図や裏事情、わからなくはありません。
サラダであれば様々な色や形状を揃えやすいですし、何より仕込みも楽で、健康的なイメージが伝わりやすく商売料理にはうってつけです。
そして、サラダといえば美容食、ビタミンが多く食べても太らないというイメージがありますね。しかし、そこには落とし穴があります。ドレッシングには大量の油分が含まれ、期待とは逆に高カロリーになっている場合も。
また、コンビニなどのサラダは大量製造による洗浄の過程で多くの栄養素が失われている可能性もあります。サラダを中心にして、たんぱく質など、他のものを食べないと、ドレッシングの高カロリーの半面、たんぱく質が不足して体温が下がります。サラダを食べると体が冷えるというのはそのためです。そして、脂肪沈着が始まります。
決してサラダを否定しているわけではありません。私も大好きです。ただ、盲目的なサラダ信仰には注意が必要で、上手に見極め上手に食べることが大事です。
さて、ここからは和食の立場からです。和食にはサラダのように野菜を生食する料理は少なく、加熱する場合が多いです。すると、ビタミンが損失する、やはり生で食べたほうがという意見が必ず出てきます。
しかし、「かさ」という視点から見るとどうでしょう。1日あたりの野菜の摂取目標は350g以上と言われ、生野菜だと両手にいっぱい×3という量です。食べきれますか? 加熱すれば両手にいっぱい強。楽勝ですね。加熱によってビタミンが少し失われようと、それを補って余りある量をおいしく食べる、それが野菜を楽しむ料理です。
今回は六雁でも大好評の定番、野菜のおひたしをご紹介します。単純なおひたしとは違い、多種の野菜をそれぞれに調理し、ひたしという形で一体化させます。1種類の野菜のおいしさではなく、複合によるおいしさを作り出しています。
さあ、今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「夏野菜のおひたし」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素をクリア。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・これから注目したいのは、「サラダ以上、煮もの以下」の野菜料理。その代表格がおひたし。
・茹でた青菜を水にさらすやり方があるが、最近の青菜類はあくが少ないのでさらす必要はない。むしろ、水にさらして風味を失うことに注意する。
・青菜のひたしをベースに、季節野菜を生で、揚げて、炊いて、焼いて、酢漬けして、さらに漬けものなども合わせて、複合味のおいしさを作る。
・1種類の野菜のおいしさを味わうひたしの場合は、青菜を調味出汁に漬けないほうがよいが、複合味のひたしの場合は調味出汁に漬ける。それによって素材同士をなじませると同時に、全体としては薄味でも水っぽくならないようにする。
「夏野菜のおひたし」
【材料(適量)】下記の野菜に限らず、自由に組み合わせる。
季節の青菜と定番素材(すべて適量)
・水菜
・三つ葉
・しんとり菜
・しいたけ(焼いて刻む)
・油揚げ(焼いて刻む)
・生姜(またはみょうが せん切りにする)
追加で加える季節野菜(各種料理法で、すべて適量)
・
焼きなす・とうもろこし(焼くまたは茹でる)
・プチトマト
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枝豆・オクラ(ゆでる)
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れんこん・小かぶ(塩もみ)
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甘長唐辛子・蓮いも(8月28日紹介予定)
・パプリカの南蛮漬け(8月26日紹介予定)
下味用出汁、かけ出汁・下漬け調味出汁
出汁180cc・塩0.3g・薄口醤油12cc・日本酒5cc
・美味出汁
出汁4:濃口醤油1:日本酒1:みりん0.8の割合
どちらもかつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でも。
【作り方】1.青菜は適宜切って、それぞれ茹でて冷水に放し、冷めたらざるに上げて水気を絞る。
2.1に下味をつけるため、下漬け調味出汁に漬ける。
3.しいたけと油揚げはそれぞれオーブントースターで焼いて刻んでおく。
4.季節野菜はそれぞれに調理したものを適宜切る。
5.2の青菜を下漬け調味出汁から引き上げ、食べやすい大きさに切って軽く絞る。
6.5をボウルに入れ、美味出汁を注いで混ぜ合わせ、軽く絞ってしいたけと油揚げ、生姜のせん切り(またはみょうがのせん切り)を混ぜる。
7.器に6を盛りつけ、新しい美味出汁をかけ、その上から4の季節野菜を彩りよく盛りつける。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時~14時 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗