季節のおばんざい ひじきの炒め煮、おからの酢炊き
料理人は普段自分が食べるものにもすごくうるさいんでしょうね?と、聞かれることがあります。もちろん、そういう人もいるでしょう。私の場合は家内が作ってくれる切り干し大根やひじき、いり豆腐といったおばんざい的なものが大好物です。
私が自分で作ったものより、はるかにおいしいです。出汁も普通、飛び切りの素材が入っているわけでもない。それなのにおいしい。う~ん、なぜなのでしょう? それがおばんざいだからと答えるしかありません。
おばんざいは漢字で書くと、晩菜、万菜などの字もありますが、番菜という表記が一般的です。番の字には番茶、番傘に代表される日常的な、粗末な、といった意味があり、お番菜とは乾物やおから、豆腐、旬の一般的な野菜を使った日常的な惣菜の総称というところでしょうか。
おばんざいは京都の家庭料理ですが、海から遠く、かつては新鮮な魚介類の入手が困難だった京都で、精進料理の影響も受けながら育まれてきました。そのためおばんざいと野菜料理とは極めて近い関係にあります。
昨今、家庭料理だったおばんざいが、お店で出されたり、スーパーマーケットに並んだりしています。それだけみんなが食べたがっているのでしょう。時代が変わっても需要がある料理なのだということです。でも、若い人の中にはおばんざいを上手に作れない人が増えてきました。これもまた時代ですね
読者の皆さまはきっと家庭で上手に作っておられると思いますが、おさらいの意味で随時、野菜料理のおばんざいを取り上げさせていただきます。
おばんざい、家内に負けるかもしれないけど(笑)、今日も野菜料理を楽しみます。
ちょっとしたコツ
・「ひじきの炒め煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素をクリア。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・乾物料理全般にいえることだが、乾物に生の野菜を加えることで、干からびていた(減少していた)乾物のエネルギーも甦り、おいしい料理となる。
・ひじきは砂を含んでいる場合がある。最初の水もどしを丁寧に。
・おばんざいのひじきの具といえば、にんじん、油揚げ、こんにゃくなどが定番だが、それは固定概念に過ぎない。冷蔵庫にある季節野菜を加えれば、新しい“お創菜(そうざい)"となる。
・従来どおりの炊き方もよいが、炒め煮は手軽にでき、軽い仕上がりとなる。
・「おからの酢炊き」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素をクリア。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・ひじき同様、季節野菜を上手に加えて旬の味わいを生かす。
・定番の味つけだと夏場は重たく感じ、箸が進みにくい。酢を少々加えることで軽い夏の味になる。
・ごぼうは、茎ごぼう、若ごぼう、ごぼうと成長の度合いで風味もあくも柔らかさも変わる。同じ笹がきごぼうでも、その特徴、用途に応じて笹がきの仕方を替える。
「ひじきの炒め煮」
【材料(3人分)】・ひじき(乾燥) 50g
・枝豆(塩茹でしてさやから実を取り出す) 30g
「
枝豆のおいしい茹で方、ずんだ和え」参照
・とうもろこし(茹でて実を外す) 20g
・苦うり(縦に2等分して種とワタを除き、4mm厚さに切って少し水にさらした後、塩炒めに) 3cm分
・生姜(粗めのみじん切り) 40g
・白ねぎ(粗めのみじん切り) 3cm分
・みょうが(粗めのみじん切り) 1個分
・ごま油 大さじ1
・みりん 大さじ4
・濃口醤油 小さじ4
・蕎麦の実(素揚げしたもの) 大さじ1
【作り方】1. 大きめのボウル2つに水を用意し、1つにひじきを浸けてもどす。5分ほどしてある程度もどったらひじきをすすぐように混ぜ、両手ですくってもう1つのボウルに移し、さらに5分ほど浸す。最初のボウルの底に砂が沈殿している可能性があるので、ひじきだけを手ですくうこと。
2.十分にもどしたら、そのままざるに上げるのではなく、何回かに分けて両手でひじきをすくってざるに上げる(沈殿している砂が入らないように)。
3.フライパンを火にかけてごま油をひき、水分をよくきったひじきを加えて炒める。
4.ひじきに油が回ったら調味料をすべて加え、混ぜながら炒める。全体に味がなじんだら、生姜、白ねぎ、みょうがを加えて軽く火を通したらすぐ火を消す。
5.苦うりを加えて、さらに枝豆、とうもろこしを加え混ぜて完成。器に盛る際に蕎麦の実を散らす。
「おからの酢炊き」
【材料(作りやすい分量)】・おから 500g
・若ごぼう(普通の笹がき) 50g
・こんにゃく(6~7mm角に切る) 50g
・しいたけ(8mm角に切る) 2個(中)
・にんじん(6~7mm角に切る) 25g
・油揚げ(1cm×1cmに切る) 1/2枚
・出汁 300cc
・サラダ油 小さじ1と1/2
・ごま油 小さじ1と1/2
・塩 3g
・薄口醤油 小さじ4
・みりん 小さじ2と1/2
・酢 小さじ2
・甘長唐辛子(油焼き。1cmに切る)2本 「
甘長唐辛子の油焼、おろし和え」参照
・パプリカ南蛮漬け(赤、橙、黄、緑 それぞれ4mm角のあられ切り) 各4g 「
パプリカの南蛮漬け、白和え、アイスクリーム」参照
・焼とうもろこし(実を外したもの) 10cm分
・枝豆(塩茹でしてさやから実を取り出す) 60g 「
枝豆のおいしい茹で方、ずんだ和え」参照
※甘長唐辛子、パプリカ、焼とうもろこし、枝豆を全部加える必要はない。
【作り方】1.鍋を火にかけてごま油とサラダ油を入れ、ごぼう、下茹でしたこんにゃく、しいたけ、にんじんを加えて炒める。火が通ったらおからを加えてさらに炒める。
2.油揚げを足して出汁と調味料を入れ混ぜた後、中火~弱火で炊く。
3.煮汁が少なくなってきたら弱火にして、酢を加える。全体を混ぜて1分ほど炊いたら、枝豆、焼とうもろこし、甘長唐辛子を加えて火からおろして冷ます。冷めたらパプリカを加えて混ぜる。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。