小いもの衣被ぎ、わさび海苔和え
今日から9月になります。9月といえばお月見ですね。お月見には団子や芒(すすき)とともに里いもを供える習慣があり、このことから十五夜を芋名月とも言います。
この時期は里いもが収穫される時期でもあり、感謝と来年の豊作祈願も兼ねて里いもを供えますが、その際の料理に衣被(きぬかつ)ぎがあります。衣被ぎとは平安時代以降、上流の女性が外出する際に顔を隠すために衣を被(かぶ)ったことに由来し、皮を被った里いもの姿をそれにかけた雅名です。
ねっとりした食感でおいしい里いもですが、実は皆同じではなく、親いも、子いも、孫いもと違いがあります。最初に畑に植えた種いもから出た芽が成長したものが親芋で茎の真下にあります。子いもはその親芋の横から出た芽が成長したもので、孫いもはさらに子いもの横にできます。親いもは大きく、子いも、孫いもは小さくてころっとした丸い形です。
私たちプロは子いも、孫いもを総称して「小いも」と言っていますが、衣被ぎには子いもや孫いもが使われます。
右が子いも、左が孫いも。秋は一年の中で最も大気が澄んで月が美しく見えるそうです。まん丸の中秋の名月に丸い衣被ぎを供えて、丸い気持ちで、今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
「小いもの衣被ぎ」は、野菜料理をおいしくする7要素中4要素をクリア。
旨み ◎塩分 甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・衣被ぎは食べる分だけを蒸す。蒸したものを一度でも冷蔵庫に入れるとねっとり感が失われてしまう。
・塩でいもの甘みを引き出し、いりごまをつけることで油分と食感、風味をプラス。
・しっかりした味がほしくなったら、少量の玉味噌(赤)や大徳寺納豆を裏側から中に埋め込む。淡味2:濃味1くらいの比率で互いを生かす。
・「小いものわさび海苔和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素をクリア。
◎旨み ◎塩分 甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・わさび海苔和えにする小いもは煮っころがしのように濃い味にしない。淡い味で炊いたいもを海苔の旨みとわさびの刺激と風味で供す。
・炊いたいもを煮汁ではなく、土佐酢で和えてもおいしい肴となる。
「小いもの衣被ぎ(右)」
【材料(3人分)】・小いも(直径2.5cmくらいのもの。子いも、孫いもどちらでもよい) 9個
・塩 適量
・いりごま(白・黒)(市販品を軽くいり直す) 適量
・大徳寺納豆(なければ赤の玉味噌) 適量
【作り方】1.小いもは皮ごと水でよく洗ったら、尻の部分を包丁で切り落とす。丸い頭の部分は上から7~8mmくらいのところに包丁の刃を当てて、皮のみを切る感じで一周する。蒸した後、皮をきれいに外しやすくなる。
2.蒸し器の湯を沸かし、クッキングペーパーやガーゼなどを敷いていもを並べて蒸す。
3.いもの大きさにもよるが13~15分を目安に、小いもを1つ取り出し、切り口に竹串を刺して火の通り具合を確認する。
4.柔らかく蒸したら、蒸し器から出してバットなどに移す。触れるくらいの温度になったら、いもの頭の部分の皮をつまむようにしてむく。
5.全部の皮がむけたら、まだ温かいうちに薄く塩をふる。いもの甘みを引き出すくらいの塩でよい。
6.9個のいものうち3個は裏側にスプーンなどで小さな穴を開け、そこに小豆の半分くらいの大徳寺納豆(または赤の玉味噌 「
玉味噌、生姜味噌」参照)を埋め込む。
7.いもすべての頭部分にいりごまを5~6粒ずつつける。普通のいもには白ごま、大徳寺納豆入りは黒ごまにする。
「小いものわさび海苔和え(左)」
【材料 3人分】・炊いた小いも(直径2.5cmくらいのもの。子いも、孫いもどちらでもよい) 9個
・土佐酢 30cc
出汁4:薄口醤油1:みりん1:酢1の割合
・焼き海苔 適量
・わさび 適量
【作り方】1.薄味で炊いた小いもを用意する(下記参照)。
2.1を炊いた煮汁を30ccほどボウルに入れ、好みの量のわさびを溶かす。
3.2に1の小いもを入れて焼き海苔をちぎったものを加えて器に盛る。
※2で煮汁ではなく土佐酢を使ってもおいしい。
小いもの炊き方
【材料(作りやすい分量)】・小いも 15個
・出汁 400cc
・砂糖 小さじ1弱
・みりん 大さじ1
・塩 0.5g
・薄口醤油 大さじ1
【作り方】1.小いもは皮をむき、柔らかくなるまで下茹でする。
2.鍋に出汁を入れて火にかけ、1の小いもを入れる。沸いてきたら調味料を入れて弱火にして10分弱炊き、火から下ろして味を含ませる。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。