プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 春菊のひたし、春菊と秋野菜の辛子ごま酢味噌和え
情報があふれ、流通が発達し、日本中どこにいても手に入らない食材などないといえる現在ですが、実情は少し複雑なのかもしれません。
関西で暮らしていた人が関東に来て戸惑う食材の一つに、菊菜と春菊があります。こだわりというような強い思いはなくても、慣れ親しんできた菊菜と似てはいても、姿かたちがどこか違う春菊になんとなく違和感を感じるのです。もちろん、関西で流通している品種を手に入れることは可能ですが、需要と供給のバランスが前提ですから、関東では関西の菊菜はあまり出回っていません。
右が関東で主流の春菊、左がサラダ菊菜。関西で菊菜と呼ぶものはいくつかある春菊の種類の一つです。大別すると、関東の春菊は茎が立っている株立ち中葉系タイプで、関西の菊菜は茎が横に張っている株張り中葉系タイプとなります。他にも前者は葉の切れ込みが深いことが特徴で、後者は葉が丸みを帯びて柔らかく、香りも前者より控えめで葉を生食することもできます。
関東の春菊に慣れてくると、用い方次第でその個性が生かせることに気づきました。春菊の葉と茎を分けて使うということです。葉は菊菜と同様に考えてひたしや和えものなどにし、茎はその歯ごたえと食感を生かしてきんぴらや炒めもの、かき揚げなどに用いるのです。これは菊菜ではできない芸当です。
今回は葉の料理から紹介します。料理をする上では、ある特定種へのこだわりというのも大切ですが、その執着が時として、新たな発見や発想を邪魔してしまうことがあります。開かれた心で今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「春菊のひたし」は、野菜料理をおいしくする7要素中4要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・春菊をひたしにする場合、葉と茎では茹で時間が異なる。葉をちぎって茎と分けて、葉はさっと茹でる。
・茎もひたしにするのであれば、葉とは別にして1分~1分半ほど食感を残して茹で、水に放した後、繊維が気にならないように15mmくらいに切って葉と合わせるとよい。
・野菜料理をおいしくする7要素中の油分をたすと奥行きのある味のひたしになる。美味出汁で下洗いした後、新しい美味出汁をかける際にサラダ油などを数滴落とす。
・下洗い後にかける新しい美味出汁にポン酢を加えると(美味出汁1:ポン酢1の割合)味にメリハリがつく。
・「春菊と秋野菜の辛子ごま酢味噌和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・春菊の葉と秋野菜を用いたサラダ感覚の和えものだが、ドレッシングの代わりに辛子ごま酢味噌を用いる。
・おいしいドレッシングの条件は塩分、油分、酸味の3大要素に甘みと刺激と風味。油分を減らしたければ、油分の代わりにアミノ酸などの旨みを追加する。辛子ごま酢味噌は油分少なめでありながら、それらすべてが含まれている。
・生野菜だけでなく、大根は甘酢漬けにしてあり下味の役割を果たすため、素材全部を辛子ごま酢味噌で和えるのではなく、合わせた素材にかける。味に風味の濃淡、メリハリがつく。
「春菊のひたし(左)」
【材料(3人分)】・春菊の葉 1束分
・美味出汁
出汁4:濃口醤油1:日本酒1:みりん0.8の割合
【作り方】1.春菊は葉をちぎって茎と分ける。葉はさっと茹でて冷水に放し、冷めたらざるに上げ水気を絞って一口大に切っておく。
2.春菊の葉を下洗い用の美味出汁で洗う。(「
モロヘイヤの海苔和え、酢のもの」参照)
3.美味出汁で下洗いした後、新しい美味出汁をかける。
「春菊と秋野菜の辛子ごま酢味噌和え(右)」
【材料(3人分)】・春菊の葉 1/3~1/2束分
・コリンキー(6~7cm長さのせん切り) 1/8~1/6個
・大根の甘酢漬け(5mm角×3cm長さ) 長さ3cm
甘酢:昆布出汁(水1L 昆布10g)450cc、酢300cc、砂糖100g
・柿(5mm角×3cm長さ) 1/3個
・梨(5mm角×3cm長さ) 1/6個
・くるみ 適量
・揚げ油 適量
・ざくろの実 9~12粒
・辛子ごま酢味噌 適量
作りやすい分量
玉味噌(白)50g、レモン果汁25cc、ごまペースト小さじ1、練り辛子大さじ1/2弱
【作り方】1.コリンキーは皮を厚めにむいた後、せん切りにする。柿は皮をむいて材料にあるサイズに切る。柿が堅い場合はみりん(材料外)少量をまぶしておくとよい。梨も皮をむいて切る。
2.大根は甘酢漬けにする。大根を「
長いもの白煮」の要領で材料にあるサイズに切って濃度3%の塩水(塩は分量外)に5~10分ほど漬ける。大根がしんなりとなったらざるに上げて水分をきり、甘酢に30分以上漬けておく。
3.くるみは渋皮をむいたものを160℃の油で揚げ、クッキングペーパーに広げて余分な油を除いておく。
4.春菊の葉、コリンキー、大根の甘酢漬、柿、梨をボウルに入れて混ぜ、器に盛る。上から辛子ごま酢味噌をかけて揚げくるみ、ざくろの実を散らす。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時~14時 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗