なすの利久煮(ごま煮)、唐辛子煮
旧暦9月の三九日(みくんち)になす料理を食べる習慣があったことは「
賀茂なすのぶどう田楽」で述べたとおりですが、なすの旬もだんだん終わりに近づいてきました。なすは旬の終わり、秋になると、おいしいものが出てきます。食べ飽きた頃に出てくるとはなんと皮肉な(笑)。
「秋なすは嫁に食わすな」とは、昔はよく聞いたものです。その解釈には諸説あり、大別すると姑の嫁いびりの言葉であるという説、それとは逆に嫁の体を気遣っての言葉とする説に分けられます。
嫁の体への気遣いという立場をとれば、なすは体を冷やすため、涼しくなった秋に出産を控えた嫁がなすを食べると体が冷えてしまうという心配があったと考えられます。また、秋なすは種が少ないため、子宝に恵まれないという縁起の悪さを気にしたともいわれます。
嫁いびりの言葉だとする立場なら、“秋が一番うまい"なすを嫁に食べさせるのはもったいないということになります。
秋なすとは旬の中でも後半に出回るものを指します。なすは植えて数週間で一番果をつけますが、株が育っていない間は何度か実を取り除いて株を養い、新芽が芽吹く前の9月頃、種が少なく身の詰まった良質ななすが実ります。
また、現在のような促成管理栽培が発達するまでは、夏の暑さはなすにとっても厳しいストレスで、養分を蓄えた実をつけることが難しかった。それが秋になって涼しくなるとアミノ酸や糖が増えておいしい実がなったのです。
お嫁さんに食べてもらうかどうかの話は横に置いて、春先から食卓に上がり始め、もう飽きたかもしれませんが、今の秋なすが特に美味であることは間違いありません。であれば、飽きないように工夫して、野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「なすの利久煮(ごま煮)」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・ごまかすという言葉は良い言葉ではないが、ごまは食材をおいしく化けさせる。ごまを使用した料理に利久の名を冠することがあるが、これは千利休が料理にごまを多用したと伝えられることによる。茶方では利休の名のままでは恐れ多いとして利久の字を当てる。
・香ばしくいり直したごまをすり鉢で軽くすって、なすの炊き上がりに加えることで油分と旨み、香ばしさが加わり、秋なすをさらにおいしくする。
・「なすの唐辛子煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 香り ◎刺激
・電子レンジで下処理したなすを、炊く前にごく少量のサラダ油(ごま油と半々にしてもよい)で炒めることで程よい油分が加わり、さらに赤唐辛子をたすことで味に締まりが出る。
「なすの利久煮(ごま煮)(左)」
【材料(3人分)】・千両なす 2本
・出汁 300cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい
・みりん 小さじ1.5
・濃口醤油 小さじ2強
・すりごま(市販のいりごまを軽くいり直してすり鉢でする) 大さじ4
【作り方】1.なすはヘタの部分に包丁の刃を当てぐるっと1周してガクを除く。深めに刃を入れておくと、食べるときに枝元の部分がすぐに外れて食べやすい。次に縦2つに切る。
2.なすの両面に包丁目を入れる。皮側は細かい鹿の子に、身側は5~6mmほどの深さで縦に3本包丁目を入れる。
3.2のなすを耐熱皿にのせ、全体が柔らかくしんなりなるまで、500Wの電子レンジで90秒(機種、なすの大きさと量によって変わる)加熱する。
4.鍋に出汁を入れて火にかけ、調味料を加える。沸いたらなすを入れて炊く。弱火で静かに2分ほど炊いてすりごまを加え、火から下ろす。一口大に切って器に盛る。
「なすの唐辛子煮(右)」
【材料(3人分)】・千両なす 2本
・サラダ油(ごま油と半々にしてもよい) 少々
・赤唐辛子(輪切り) 少々
・出汁 300cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい
・みりん 小さじ1.5
・濃口醤油 小さじ2強
【作り方】1.なすの下処理は「なすの利久煮(ごま煮)」の作り方1~3に同じ。
2.鍋を火にかけ、サラダ油を少量ひいて、赤唐辛子と電子レンジで加熱したなすを加え、油がなすになじむように炒める。
3.2の鍋に出汁を注いで調味料を加えて炊く。弱火で静かに2~3分ほど炊いたら火から下ろし、一口大に切って器に盛る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。