穂じそのいり煮(佃煮)、しそ味噌
しそは日本料理において欠くことのできないもので、生育の各段階で収穫、活用できることを料理とともにこれまでも紹介してきました。「
青じその醤油漬け」参照「
夏野菜のしそ包み」参照。
今回は刺し身によくついている花穂じその「花穂(はなほ)」が咲き終わって成長した段階である「穂じそ」の料理です。穂じそはしその実、しその穂とも呼ばれ、香りがよくプチプチとした食感が特徴です。カルシウムやビタミンA、鉄などが含まれ、塩漬けや醤油漬け、佃煮などにします。中でも佃煮はご飯の菜や他の料理の香りづけ、調味料代わりにもなり重宝します。
地域差はありますが、穂じそは9月中旬〜下旬が収穫時期です。穂の先に2、3輪花が残って穂自体はまだ緑色のままで、茎が15~20cmに伸びた状態が収穫の目安です。
穂の中には緑色のごまのような実が入っており、食べるとプチッとするくらいがよい状態です。それ以上育ちすぎると実が茶色く堅くなって口に残り、早過ぎるとプチプチ感がたりません。
下処理は、穂がついた茎ごと水で洗い、穂の下から上に向かって指でしごくように実を取ります。その際、指先が紫色になるので、調理手袋またはビニール袋をはめて作業したほうがよいでしょう。
それから、穂じそにはえぐみや苦みがあるのであく抜きをします。鍋に湯を沸かして塩少々を入れ、さっと茹でて水に放し、途中で水を替えて一晩水につけてさらします。翌日、しその実をもみ洗いして水気を十分にきります。このやり方は簡単ですが、水にさらし過ぎるとあくと一緒に香りも抜けてしまう恐れがあるので、注意が必要です。
別の方法は、しその実をボウルに入れ、そこに塩を加えてよく混ぜ、落とし蓋をして一晩おき、水で洗って水気をよくきるというやり方です。
あく抜きが少し面倒に感じられるかもしれません。しかし、高価な割には味が濃くておいしくない市販の佃煮やしそ味噌を買うのではなく、一度自分で作ってみると、その面倒さがきっと苦にならなくなるでしょう。試さなければ、その価値はわかりません(笑)。案ずるより挑戦、是非、野菜料理を楽しんでください。
ちょっとしたコツ
・「穂じそのいり煮(佃煮)」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・一般的な佃煮のように、最初から煮汁にしその実を入れて煮つめていくと、プチッとする食感や風味が弱くなる。そこで、煮汁を合わせてある程度煮つめたところに、しその実を加える。
・下処理したしその実は、水気を絞ったつもりでも、煮つめているうちに水分が出てくる。保存性を高めるためにも、しっかり水分を飛ばす。
・野菜料理をおいしくする7要素の1つである油分を加えると味に奥行きが出る。煮汁を詰めあげる直前にサラダ油を数滴だけ落として全体になじませる。
・「しそ味噌」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・炒り煮にした穂じそを少量の油で炒めた上で、油とも相性のよい味噌を合わせる。甘めがよければ玉味噌を用い、辛口がよければ豊かな芳香を持つ信州味噌を合わせる。
「穂じそのいり煮(佃煮)(右)」
【材料(作りやすい分量)】・穂じそ 3パック(実50g)
・塩 小さじ1.5
<調味料>
・日本酒 60cc
・みりん 大さじ2強
・濃口醤油 小さじ2.5
・水あめ 小さじ2
・サラダ油 数滴
【作り方】1.穂じそは穂がついた茎ごと水でよく洗う。水気をきって穂の下から上に向かって指でしごくように実を取る。
2.しその実をボウルに入れて塩を加えてよく混ぜ、落とし蓋をして一晩ほどおく。翌日、全体をよくもんであくを出した後、ざるに入れて水をためたボウルにつける。水をたしながら両手でよく洗って塩分とあくを流し、水気をよくきったら、しその実を少しずつ手に取り水分をよく絞る。
3.調味料を鍋に入れて火にかける。中火で半分くらいの量に煮つめたところにしその実を加え、全体を混ぜながら煮汁を絡めていく。しばらくすると、しその実の水分が出てくるので、弱火にしてかき混ぜながら煮汁を煮つめて、仕上げにサラダ油を数滴落として全体になじませる。
「しそ味噌(左)」
【材料(2人分)】・穂じそのいり煮 20g
・サラダ油 適量
・玉味噌(赤)またはベジタリアン用玉味噌(赤) 20g
作りやすい分量(玉味噌):
赤だし味噌500g、卵黄10個、砂糖200g、日本酒350cc、みりん100cc
作りやすい分量(ベジタリアン用玉味噌):
赤だし味噌500g、白ごまペースト100g、砂糖200g、日本酒350cc、みりん100cc
※作り方は「
玉味噌、生姜味噌」参照
・花穂じそ 少々
【作り方】1.フライパンを火にかけ、サラダ油をひき、穂じそのいり煮を入れて炒め、油をなじませる。
2.甘めに仕上げたければ、玉味噌(赤)を加え、辛口がよければ豊かな香りの信州味噌を合わせるとよい。味噌がしその実に絡んだら火から下ろす。器に盛り、穂じその先に残っていた花を飾る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。