秋野菜の煮こごり
野菜の煮こごりは六雁の野菜料理を代表するものの一つですが、前回の「
夏野菜の煮こごり」に引き続き、今回は秋野菜を寄せてみましょう。
煮こごりで野菜を寄せるには大別するとゼラチンか寒天を用います。ゼラチンは豚や牛などの骨・皮の主成分コラーゲンを原料とします。30℃以上で溶けますが、60℃を超すとたんぱく質を固める力が弱くなるので、湯煎で溶かすか、鍋で直火にかける場合も60℃を超えないよう注意が必要です。そして、19℃以下で固まり始めるのが特徴です。
寒天はてんぐさやおごのりを原料とし、80℃以上で溶け始めますが、煮溶かす温度はもっと高い方がよいです。こちらは常温でも固まる特性があります。
また、ゼラチンの場合、たんぱく質を分解する酵素を含むパイナップルやマンゴーなどの果実や果汁は、加熱した後に加えなければ固まりません。寒天の場合は、酸味が強い果汁などを熱い寒天液に加えると固まりません。粗熱を取った寒天液に加え、手早く混ぜ固めるのがコツです。
他にも注意点はいくつかありますが、ゼラチンと寒天のそれぞれの特性を知らないと、思っていたイメージと食感が違ったり、固まらなかったり、離水したりと失敗の原因になります。今回の煮こごりには菊花の甘酢漬けを入れるので、寒天ではなくゼラチンを使用しました。
煮こごりには、少しずついろいろなものを寄せて見た目も味も豪華できれいなハーモニーを作り出す利点があります。また、今回使用したとんぶりのように粒が小さくバラバラになって食べにくいものは、煮こごりにすることで食べやすくなります。春菊のように茹でただけでは味を含みにくいものは煮こごりのゼリーと一緒に食べることでよりおいしくなります。
ちょっとした工夫と発想、知識で煮こごりも変わります。今日も楽しみながら野菜料理を進化させましょう。
ちょっとしたコツ
・「秋野菜の煮こごり」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・とんぶりは煮こごりにして寄せることで食べやすくなる。素材の味が薄いものも、味がしみにくいものもおいしく食べられる。
・「夏野菜の煮こごり」のようにすべてを煮こごりにして冷やして供するのもよいが、秋から冬へかけては冷たい煮こごりと一緒に熱い料理(焼きたてのきのこ、焼きなす)を食するのもよい。
「秋野菜の煮こごり」
【材料(3人分)】・紫ずきん 18さや(36粒)
「
茶豆の塩茹で、紫ずきん3種」参照
・菊花(黄・紫) 各1輪
・甘酢 適量
甘酢 作りやすい分量:
昆布出汁(水1L、昆布10g)450cc、酢300cc、砂糖100g
・春菊の葉(煮こごり用、ひたし用) 1パック
「
春菊のひたし」参照
・とんぶり 大さじ3
・野菜の漬け地 適量
野菜の漬け地 作りやすい分量:
出汁180cc、塩0.3g、薄口醤油12cc、日本酒5cc
・寄せるための出汁 適量
寄せるための出汁 作りやすい分量:
出汁360cc(かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい)、塩1.5g
薄口醤油小さじ2、日本酒小さじ1/2、板ゼラチン30g
※ベジタリアン用は寒天に替える「
夏野菜の煮こごり」参照
・ポン酢(市販品) 適量
・しめじ、まいたけ、あわびたけ 各1/2パック
・焼きなす 2本
「
焼きなすの醍醐味」参照
【作り方】1.紫ずきんは塩茹でして、さやから実を取り出す。
2.菊花は、それぞれ花びらの先にある種子になる部分と、花の真ん中の花びらが短い部分を除く。鍋に湯を沸かし、酢(材料外)を少々入れて食感が残るように30〜40秒さっと茹でる。茹で上がったら冷水に放してざるに上げ、水気を絞って甘酢に漬ける。「
菊花椀、菊梅雑炊」参照
3.春菊は葉のみを茹でて冷水に放し水気をきる。とんぶりは粒が小さいので茶こしのような目の細かいざるに入れ、ざるごと20〜30秒茹でて冷水で冷やす。春菊、とんぶりの水気を除いて、それぞれ別のボウルで漬け地に30分以上漬け込み下味をつける。
4.紫ずきん、菊花はすべて、食べやすく切った春菊ととんぶりは半分を残して水分をよく除き、煮こごりに使用する。
5.小さめのセルクル型(ここでは20mm×65mmの型を使用)を6つ(型2つで1人分)用意し、そのうち3つには黄色の菊・紫ずきん・春菊・とんぶりをきれいに配置し、残りの3つには紫色の菊・紫ずきん・春菊・とんぶりを配置する。その後、寄せるための出汁をすべての型に流し固める。
6.きのこ類は一口大に切り、塩(材料外)をふり、予熱しておいたグリル(またはオーブントースター)で焦げ目がつくくらいに焼く。なすは焼きなすにして皮をむく。
7.型から外した煮こごり、焼いたきのこ、食べやすい大きさに切った焼きなす、残しておいた春菊、とんぶりを器に盛る。上からポン酢をかけて食べる。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。