落花生飯、焼きかぶと葉の味噌汁
皆さまにとってごちそうとは? 和牛、河豚(ふぐ)、蟹、鮑、鮪のとろ、伊勢海老、世界三大珍味、ふかひれ……、確かにどれもおいしい高級食材です。そして、雑誌やTV番組などで取材される料理、SNSにアップされる料理、グルメサイトに書き込まれる口コミも、このような高級食材を使った料理についてが多いように思います。
それについてどうこう言うつもりはありません。ただ、あまりにもわかりやすい高級食材の羅列はどこか疲れます。この連載の読者の皆さまのような食経験も豊富な方々には同感していただけるのではないでしょうか。
日本には優雅で華やかな宮廷文化を象徴する「雅(みやび)」と、それに対して簡素で素朴な田舎文化を象徴する「鄙(ひな)」とがあり、それが交錯したのが日本文化だといわれます。
昔の地位の高い女性たちは豪華さをひけらかすのではなく、豪華な衣装を重ねて羽織った後、それらを隠すように麻のシンプルな衣で覆ったといいます。単純な華やかさだけをよしとしなかったということでしょう。
日本文化の「侘び」の精神も同じかもしれません。物への執着に始まり、その執着を数寄の心として見つめ、そこから一旦、「物不足」を嘆くことによって到達する、穏やかで静謐な心のありよう、それが侘びです。
高級食材もいいのですが、時には華やかさはなくとも心のこもった一汁一菜もいいものです。旬の落花生を使って色飯を炊き、かぶは秋らしく焼き目がつくくらい焼いて味噌汁に。共葉も一緒に添えましょう。これに「
ぬか漬けのかくや和え」でもあればごちそうですね。
ごちそう(御馳走)とは馳せ、走ること。誰かにおいしいものを食べてもらおうと気を使い時間をかけて駆け回ること。それは高級食材を集めることではなく、想いをかけるということかもしれません。そして、家庭だからこそできる料理です。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「落花生飯、焼きかぶと共葉の味噌汁」は2つで野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・秋になると食材に焦げ目をつけることが多くなる。秋の風味と風情を添えるのである。
「落花生飯」
【材料(2人分)】・米 1合
・茹で落花生 70g(実)
・昆布出汁 180cc
・塩 小さじ1/3弱
・日本酒 大さじ1
・油揚げ 適量
・生姜(みじん切り) 15g
・三つ葉(小口切り) 1/2パック
【作り方】1.米は炊く30分以上前に研ぎ、ざるに上げておく。
2.落花生は殻ごと20分塩茹で(塩は材料外)し、殻から実を出す。薄皮はむかないこと。薄皮があることで風味が出る。
「
茹で落花生」参照
3.昆布出汁(飯の炊き上がりの柔らかさの好みで量を加減する)に調味料を加え、好みの味にする。
4.油揚げは2枚に開き、みじん切りにする。油がよくきれていない油ぎった油揚げや、油が酸化したような臭いがするものは、きれいな油で揚げ直すとよい。香ばしさが好みなら、オーブントースターできつね色に焼く。油分だけを加えたい場合は、開いた油揚げをそのまま加えて炊き、炊き上がったら油揚げを除く。
5.炊飯器に米と茹で落花生、出汁、油揚げ、生姜を加えてスイッチを入れる。
6.炊き上がったら落花生がつぶれないよう全体をふんわりと混ぜる。器に盛って三つ葉を散らす。
「焼きかぶと葉の味噌汁」
【材料(2人分)】・かぶ(中くらいのもの) 1個
・サラダ油 適量
・出汁 360CC
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい
・味噌(好みの味噌) 適量
・練り辛子 適量
【作り方】1.かぶは実と葉に切り、実は皮をむいて6等分にする。葉は塩茹で(塩は材料外)して冷水に放し、水気をきって小口切りにする。
2.フライパンを火にかけ、サラダ油を引いてかぶの実を強火で焦げ目がつくくらいに焼く。予熱したグリラーで焼いてもよい。
3.鍋に出汁を注いで火にかけ、かぶの実を入れる。80℃くらいになったら、好みの味噌を溶き入れ味を整え、かぶの葉も加える。90℃を超えたくらいで火から下ろして椀に盛り、溶き辛子(練り辛子を味噌汁でのばしたもの)をのせて供す。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。