高野豆腐の柔らか煮、揚げ煮、冷ややっこ
日本の伝統的食材であり、精進料理にも使用され、和食にはなじみ深いものに高野豆腐があります。高野豆腐にするために作った専用の豆腐を凍結させた後に氷点下で低温熟成させ、その後、解凍してから乾燥させます。植物性たんぱく質や食物繊維、カルシウム、マグネシウム、鉄、カリウム、ナトリウムといったミネラルを豊富に含み、消化吸収もよくダイエット効果も期待できます。
しかし、今の人にはあまり好まれない。はっきりいえば嫌いな人が多い(笑)。嫌いな訳としてはスポンジを食べているような食感が苦手、噛んだ瞬間に甘い汁がジュワッと出てきて……などが多いようです。
そこで、無理やり肉に見立ててピカタ風、ハンバーグや唐揚げ、カツレツもどき、ミンチにしてヘルシー担々麺という具合に、これが高野豆腐とは思えないと評されるような料理になってしまうというのがよくあるパターンですね(笑)。
高野豆腐が「高野豆腐だとはとても思えない」といわれたら、使う意味はないのでは? 高野豆腐のままで、これまでのイメージを変える料理を今日は紹介します。
スポンジを食べているような口あたりの悪さが嫌なら、食感を変えた「高野豆腐の柔らか煮」。甘い煮汁が今の食味としては洗練されていないのなら、甘くしないで旨みのある「高野豆腐の揚げ煮」。あるいはそのスポンジ食感だからこそおいしい味を追求した「高野豆腐の冷ややっこ」。これが私の答えです。
古臭い、時代にそぐわないと伝統食材を切り捨てるのは簡単ですが、それを今の時代に合わせて進化させるのが技術です。高野豆腐は今も立派な野菜料理になります。ぜひおいしく楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「高野豆腐の柔らか煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・スポンジのような食感を重曹を使ってふわふわに。さらに梅肉の酸味で味を引き締める。
・「高野豆腐の揚げ煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・もどした高野豆腐を下揚げすることで、油の旨みをのせる。さらにみょうがの風味が加わるので薄味でも大丈夫。
・「高野豆腐の冷ややっこ」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・甘い味つけのスポンジ食感は気持ち悪くても、薄味で炊いた高野豆腐をよく冷やして冷ややっこにし、長ねぎや生姜を添えると、歯ごたえが好評価に転じる。
「高野豆腐の柔らか煮(上)」
【材料(作りやすい分量)】・高野豆腐 2個
・重曹 適量
・出汁 800cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい
・塩 1g
・薄口醤油 大さじ2
・みりん 大さじ2
・梅肉 少量
【作り方】1.もどすと膨張することを考慮し、高野豆腐が4個入るくらいの大きさのバットを用意し、「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真にあるように霜が降りたように重曹を薄く広くふる。そこに高野豆腐2個を間隔をあけて置き、上から重曹を薄くふる。高野豆腐が浮かないように下のバットより一回り小さなバットを上にのせ、その脇から高野豆腐にかぶる程度の量の80℃の湯をバットに注ぐ。
2.10分くらい経過したら、高野豆腐の状態を確認する。まだ、中まで柔らかくもどっていなかったら、さらに5分ほどそのまま置く。
3.触ると崩れるくらいに中まで柔らかくもどったら、重ねたバットの脇から静かに水を注ぐ。手を入れられるくらいの温度になったら、高野豆腐を崩さないように両手ですくって、大きめのボウルに水をためた中に移す。水道の蛇口から静かに水をボウルに注ぎつつ、水の中で1つずつ両手で優しく高野豆腐を押して、内部の水分(重曹や乾物臭が含まれる)をまわりの真水と入れ替えていく。濁った水が高野豆腐から出なくなったら、水から上げて両手のひらに挟んで水分を優しく絞る。
4.高野豆腐は縦横に包丁を入れて4つに切り、一つひとつを両手のひらに挟んで水分を絞る。
5.鍋に出汁を入れて火にかけ、調味料を加える。沸いたらごく弱火にして4の高野豆腐を入れ、4分ほど静かに炊いて火から下ろす。器に盛りつけ、梅肉をのせて供する。
「高野豆腐の揚げ煮(左)」
【材料(作りやすい分量)】・高野豆腐 2個
・揚げ油 適量
・出汁 800cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい
・塩 1g
・薄口醤油 大さじ2
・みりん 大さじ2
・みょうが(せん切り) 少量
【作り方】1.高野豆腐は製品の表示どおりに、水または湯につけてもどし、もどったら水をためたボウルに入れて、1つずつ両手で優しく押して内部の水分をまわりの真水と入れ替えていく。濁った水が高野豆腐から出なくなったら、水から上げて両手のひらに挟んで水分を優しく絞る。
2.高野豆腐は縦横に包丁を入れて4つに切り、その一つひとつを両手のひらに挟んで水分を絞る。
3.フライパンに油を入れ火にかけ160℃くらいにする。高野豆腐を入れてきつね色に揚げる。
4.鍋に出汁を注いで火にかけ、調味料を加える。沸いたらごく弱火にして、揚げた高野豆腐を入れ、4分ほど炊いて火から下ろす。器に盛りつけ、みょうがのせん切りをのせて供する。
「高野豆腐の冷ややっこ(右)」
【材料(作りやすい分量)】・高野豆腐 2個
・出汁 800cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい
・塩 0.7g
・薄口醤油 大さじ1.5
・みりん 大さじ1.5
・長ねぎ(白い部分、粗みじん切り) 少量
・おろし生姜 少量
【作り方】1.高野豆腐のもどし方、切り方は高野豆腐の揚げ煮と同じ。
2.鍋に出汁を注いで火にかけ、調味料を加える。沸いたらごく弱火にして高野豆腐をよく水気をきって入れ、4分ほど炊いて火から下ろす。粗熱が取れたら保存容器に入れて冷蔵庫でよく冷やす。器に盛りつけ、ねぎの粗みじん切りとおろし生姜をのせて供する。太白ごま油(材料外)を一滴、ねぎと生姜の上から垂らしてもよい。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。