しいたけのフライ三杯酢につけて、焼きしいたけ
数あるきのこの中でもしいたけはその好き嫌いがはっきりと分かれます。嫌いな理由を聞くと、においと答える人が多く、干ししいたけのにおいに対する印象から生しいたけも嫌いになった人も。
干ししいたけは生しいたけに比べてにおいが約5倍強く、それは水でもどすときにイオウ化合物が発生するためだそうです。したがって、干ししいたけは湿気を含むと「におい」のもとになるため、時々、太陽光に当てるとよいでしょう。
干ししいたけは既に「
きゅうりとしいたけの合い混ぜ」で甘露煮を紹介し、上手なもどし方もお教えしましたが、その旨みの活用がポイントになります。干ししいたけは生しいたけより旨みが強く、生の旨みはグルタミン酸で干すと約15倍になり、グアニル酸も生成されます。
旨みは大別すると、アミノ酸系(昆布やトマトなどのグルタミン酸)と核酸系(かつお節や煮干しなどのイノシン酸、干ししいたけなどのグアニル酸)の2種類になります。そして、旨みは違うグループと組み合わせると相乗効果で最大7~8倍に増します。かつお節と昆布でとった出汁は相乗効果で旨みが大きく増え、精進出汁でも昆布と干ししいたけを合わせて使えば相乗効果が生まれます。かつお節、昆布、干ししいたけを合わせれば、さらに。
ですから、野菜を炊く際に、かつお節と昆布でとった出汁に、少量の干ししいたけを加えて一緒に炊くと、たいへんおいしくなります。「
高野豆腐の柔らか煮、揚げ煮、冷ややっこ」のように、高野豆腐を炊くときや乾物などのおばんざいを炊くときに、「におい」が感じられないくらい少量、干ししいたけを加えるのです。ぜひお試しください。
それから、今日は生しいたけについても知られていないコツをお教えします。プロアマ問わず、しいたけの傘の表側に星のような飾り包丁を入れる人がいますが、私に言わせれば、力を入れるのはそこじゃないだろう!という感じです(笑)。大事なのは裏側です。軸を取った後の傘の軸がついていた部分、実はここが案外堅い。ここに鹿の子に包丁目を入れるのです。表側は鹿の子でも縦でも構いません。これで、焼いても炊いても揚げても柔らかく、おいしく食べることができます。
また生しいたけを焼くときは必ず傘の裏側(ヒダ)を上にして焼きます。逆にすると焼いている途中でおいしいしいたけのエキスがこぼれてしまいます。軸を切らずに付けたまま焼いても構いません。その際は柔らかく食べられるように軸に格子状に切り込みを入れます。
今回は焼きしいたけに加えて、しいたけをフライにして三杯酢にひたして供します。食べた人は、皆、やみつきになるというくらいのおいしさです。しいたけはその使い方次第で野菜料理の大きな味方になります。上手に活用、料理して野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「しいたけのフライ三杯酢につけて」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・生しいたけをカリッと揚げて三杯酢にくぐらせると、しいたけの旨み、風味が三杯酢の程よい酸味と相まってたいへんおいしくなる。
・ベジタリアンでなければ、揚げ油の1/4をラードにするとボリュームが出て旨みが増す。
・「焼きしいたけ」は、野菜料理をおいしくする7要素中4要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・しいたけを焼く際は必ずヒダを上にして焼く。逆にすると焼くときに出るしいたけのエキスがこぼれてしまう。
・焼きしいたけに野菜料理をおいしくする7要素の1つである油分を加えると味に奥行きが出る。しいたけを焼く前に傘の表面に刷毛でサラダ油を少量塗って焼くとよい。
「しいたけのフライ三杯酢につけて(左)」
【材料(3人分)】・生しいたけ 3枚
・フライの衣
強力粉(ふるったもの)70g、水100cc、おろし生姜3g、牛乳20cc、卵(卵黄と卵白を分ける)1個、塩少々
・パン粉(細かいタイプ) 適量
・三杯酢 適量
三杯酢の作りやすい分量:
出汁40cc、濃口醤油40cc、みりん40cc、酢40cc、砂糖8g、ポン酢適量
・揚げ油(サラダ油3:ラード1) 適量
【作り方】1.しいたけは軸を切り取る。傘の表面に鹿の子に包丁目を入れ、裏返して軸を切り取ったヒダ側のところにも鹿の子に包丁目を入れる。
2.串揚げ専門店が使用するようなつなぎと呼ばれるフライの衣を作る。ボウルに卵白と塩以外のものを入れてよく混ぜる。別のボウルで卵白に塩少々を加えて八分立てにし、先の衣地にさっくり合わせる。
3.しいたけのヒダ側のみにフライの衣をつけて、さらにパン粉もつける。
4.フライパンに揚げ油を入れ180℃に熱し、3のしいたけを入れる。パン粉がきつね色に色づいたら、裏返して傘側もさっと揚げて油から上げる。三杯酢にひたしてすぐに供する。
「焼きしいたけ(右)」
【材料(3人前)】・生しいたけ 6枚
・割り醤油(濃口醤油1:日本酒1の割合) 大さじ1
【作り方】1.しいたけは石づき部分を切り取り、残った軸は長いまま格子状に包丁を入れ食べやすくする。傘の表面にも鹿の子に包丁目を入れる。
2.予熱したグリラーで、ヒダを上にして焼く。
3.しいたけがこんがり焼けたら割り醤油を刷毛で塗り、しいたけのフライと一緒に盛りつけて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。