プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
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夏野菜のぬか漬け」、「
ぬか漬けのかくや和え」と家庭だからこそおいしく漬けられる漬けものをご紹介してきましたが、今回はしば漬けです。しば漬けはなすやきゅうりを主として青唐辛子、しそ、生姜などを加えて塩漬けし、乳酸発酵させた京都の伝統的な漬けものです。
その名の由来には諸説ありますが、その一つを紹介します。平家が滅亡した時、平清盛の娘である建礼門院徳子(けんれいもんいんとくこ。高倉天皇の皇后)は幼子と母の時子(清盛の妻)の3人で壇ノ浦の海へ入水しました。しかし、1人だけ助けられ、仏門に入り人里離れた大原の寂光院に身を寄せ、平家一門の菩提と亡き子を弔う寂しい毎日を過ごしていました。里の人々は建礼門院を不憫に思い、この地で古くから作っているしその葉を使った紫色の漬けものを献上しました。当時、紫色は身分の高い人だけが身につけられる色ということもあり、建礼門院は喜んで紫葉漬け(むらさきはつけ)と名づけ、それがしば漬け(紫葉漬け)という名で定着したという話です。また、大原は柴や薪を頭に乗せて売り歩く大原女(おはらめ)がおり、柴の産地でもあったため柴漬けと書くという説もあります。
現在一般に売られているしば漬けの中には昔ながらの方法で漬けたおいしいものもあります。しかし、残念ながら、その多くは乳酸発酵させたものではなく、塩漬けしたなすやきゅうりなどを調味酢で漬けたもので、アミノ酸や着色料などがかなり含まれるものもあります。商品として世間受けするように、また効率よく大量生産するにはそれも仕方のないことですが。
であれば、昔ながらの方法はできないまでも、家庭で自分好みにしば漬けを漬けてみるのもいいのではないでしょうか。難しくはありませんし、そんなに時間もかかりません。調味酢も自分で作れば安心ですし、味や風味の加減も自由自在です。建礼門院を慰めようとした大原の里人のように思いを込めて作り、我が家の野菜料理として楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「即席しば漬け」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・しば漬けには赤じそを用いたものと、青じそを用いた白しば漬けがある。赤じそは出回る時期も限られ、あく抜きや色出しなどの下処理もあって手間がかかる。年中手に入る青じそを用いて作り、赤く仕上げたければ調味酢の米酢を赤梅酢に替えて市販の梅酢漬けの赤じそを加えればよい。
・塩漬けの際の塩が多いと、後で塩抜きをしなければならなくなり、素材の風味と旨みが抜けてしまう。少なめの塩で漬け、その分しっかり重石をして歯ごたえを出す。
「即席しば漬け」
【材料(作りやすい分量)】・千両なす 10本
・きゅうり 5本
・新生姜(せん切り) 100g
・青じそ(2×2cmに切る) 30枚
・みょうが(3mm厚さの小口切り) 12個
・甘長唐辛子(1.5cmに切る) 10本
・薄口醤油 300cc
・日本酒 100cc
・みりん 90cc
・米酢 30cc
・昆布(3×3cmくらいに切る) 20cm
・しその実(塩漬け) 適量
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穂じその炒り煮(佃煮)」参照
【作り方】1.なすときゅうりは塩漬けすると縮むので大ぶりに切る。漬かった後でも切ることはできるので、この段階では大きめでよい。
2.しその実以外のすべての野菜を合わせて、その重量の1.5~2%の塩(材料外)をまんべんなくまぶし、落とし蓋をのせて少し強めに重石(きゅうりとなすの総重量の1.5~2倍くらい)をして塩漬けにし冷蔵庫で保存する。
3.1~2日して塩が回って水が出て素材の大きさが2/3ほどになったら、水気をよく絞ってざるに上げる。
4.塩漬けしてあくを抜いたしその実を水で洗って塩を抜いた後、よく絞って腐敗防止のために日本酒(分量外)をまぶして再度絞る。しその実の塩漬けは「
穂じその炒り煮」参照。
5.3としその実をボウルに入れ、調味料を合わせて混ぜ、昆布を加えて野菜の重量より少し軽めの重石をして漬ける。冷蔵庫で保存し、1~2日ほどで食べられる。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時~14時 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗