じゃがいもの蓑揚げ
じゃがいもの二大品種といえば男爵いもとメークインですね。国内で生食用として最も多く生産されているのが男爵いもで、次いでメークイン、ニシユタカ、キタアカリの順となります。
男爵いもは丸くてゴツゴツとした形のものが多く、切ると明るく黄色みがかっています。でんぷん質が多くて、加熱するとホクホクとした食感になります。
メークインは長めの卵形のものが多く、表面がつるつるして切ると薄い土色をしています。でんぷん質が少なく、しっとりしてきめが細かく煮崩れしにくいのが特徴です。英国品種で春においしくなるため5月(May)の女王(Queen)でメークインと命名されたそうです。
左奥から時計回りに男爵いも、メークイン、インカのめざめ、シャドークイーン。例えば同じポテトフライを作るにしても、サクサクやカリッという食感を求めるならメークイン、ホクホクした食感を求めるなら男爵いもを用います。
今日は男爵いもとメークインの両方を用いた、それぞれの特徴を生かしたじゃがいもの蓑揚げ(みのあげ)を紹介します。メークインで作った衣を纏った様子が蓑を着ている姿に似ていることから蓑揚げと呼びます。この揚げ衣は、エビフライにパン粉の代わりに使っても非常においしいです。
「両雄並び立たず」と言いますが、この料理は男爵いもとメークインの両雄が争わず、互いを引き立て合うことに成功した稀有なものです。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「じゃがいもの蓑揚げ」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・メークインの場合、大きくても味に影響はない。今回の料理の場合は大きいほうが作業効率がよい。
・メークインは太めのせん切りにしたものを水によくさらして、でんぷんを流しておく。でんぷんがあると焦げやすい。
・メークインの衣を下揚げするときは量は少しずつ、150℃くらいで揚げる。火は通すがまだ白い状態に揚げる。この段階できつね色にすると仕上げで揚げるときに焦げてしまう。
・衣が下揚げできたら、霧吹きで水をかけ湿らせて保存する。水分を含むことでたねと一緒に揚げるときに水分の蒸発に時間がかかるため、その間にたねに火が入り衣も焦げにくくなる。衣は冷蔵庫で1週間ほど保存できるのでまとめて作り、他の具材につけて使うのもよい。
・男爵いもで作ったたねの塩加減は薄めにし、加える具材をしっかりした味にするとメリハリが出ておいしい。
「じゃがいもの蓑揚げ」
【材料(作りやすい分量)】・メークイン(LL 12cmくらいのもの) 4個
・揚げ油 適量
・男爵いも(中) 4個(730g)
・しいたけ(中) 2枚
・エリンギ 1本
・まいたけ 1/2パック
・サラダ油 大さじ1
・きのこ用の調味料 塩小さじ2/3、濃口醤油小さじ1/2強
・枝豆(塩茹でしてむき実にする) 50g
「
枝豆のおいしい茹で方」参照
・揚げくるみ 50g
・塩 小さじ1
・粉山椒 5g
・薄力粉 適量
・卵白 適量
【作り方】1.メークインの皮をむく。スライサーの刃の厚みを2〜3mmにして、同じくらいの刃幅の櫛刃を取り付ける。繊維の流れに沿って縦にスライサーにかけてなるべく長いせん切りにする。
2.大きなボウルと一回り小さなざるを用意して重ねたら水をためる。そこにせん切りにしたメークインを入れていく。全部入れたら、水道の蛇口を全開にして水をボウルに注いで、両手で上下にかき混ぜながら、じゃがいものでんぷんを洗い流す。水が完全に澄んできたら、ざるごと水から上げて水分をよくきり、そのまま20分ほどおいて水分を除く。
3.深めの揚げ鍋の半分ほどの深さに油を注いで火にかける。鍋が浅いとメークインを入れたときに泡が立つため、油があふれる恐れがある。油が150℃くらいになったら、メークインを入れる。量は「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真参照。150℃を維持するよう火加減を調整しながら、箸でメークインをほぐしつつ揚げていく。泡が小さくなり、表面が少しカリッとなり始めたら油から上げる。
4.揚がったメークインはクッキングペーパーを敷いたバットに広げ、霧吹きで水をかけて少ししんなりさせる。
5.男爵いもは皮のまま蒸し(茹でてもよい)、熱いうちに皮をむいてボウルに入れ、好みの具合につぶす。
6.しいたけ、エリンギ、まいたけを1cm角程度に切り、フライパンにサラダ油をひいて炒め、塩と醤油(きのこ用の調味料)でしっかりとした味をつける。
7.つぶした男爵いもに塩で薄味をつけ、粉山椒も加えてよく混ぜる。塩茹でした枝豆、刻んだ揚げくるみ、きのこを加えて混ぜ、俵形に丸める。
8.7に薄力粉を薄くまぶし、泡立て器でコシを切った卵白をつけて、蓑をまとわせるように4のメークイン衣を全体につける。
9.深めの揚げ鍋に油を入れ、160℃にして8を入れる。高温で揚げると焦げるので火加減を調整して160℃を維持する。最初は衣に含まれる水分が蒸発し、その間に衣の中の生地が温まる。油の中で上下を返しながら揚げ、衣がきつね色になったら油から上げて器に盛る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。