柿のくわ焼き、天ぷら
鮮やかな濃い橙色に色づいた柿が店頭に並び出しました。柿色とはよく言ったものです。柿は熟れたものをそのまま食べるのが一番おいしいのですが、料理人としては何か料理してみたくなります。
ただ、柿を料理する際は注意しなければならないことがあります。「渋戻り(しぶもどり)」です。甘い柿がたくさんあって食べきれないのでジャムにしたら、渋くなってしまったということがあります。
柿には1000を超える種類がありますが、そのほとんどが渋柿で、渋抜き処理をして出荷されており、その必要がない甘柿は10数種しかありません。甘柿と渋柿の違いは渋みのもとになるタンニンが口の中で溶けるかどうか。甘柿の場合は熟していくと不溶性タンニンに変化するため渋みを感じなくなります。甘柿以外は渋抜きによって感じなくなっているだけで、実際には渋みは残っているのです。
渋柿の場合、加熱するとタンニンが水溶性になるため渋さが甦ります。甘柿でも渋戻りすることがあり、ジャムなどを作る場合は甘柿の中でも完全甘柿(富有柿、御所柿、次郎柿など)を使うのがよいのですが、それでも渋戻りがないわけではありません。対処法としては牛乳などのたんぱく質を加えると渋みが取れて甘みが出ます。
完全甘柿でも渋戻りする可能性があるのなら、どうやって料理しようというのでしょう? 和食でも乳製品を加えるのか? 実はコツがあります。加熱時間をできるだけ短くするのです。今日はそんな柿料理2種類を紹介します。
桃栗3年柿8年、柿も植えてから実がなるまでに長い時間がかかります。同じように料理も一朝一夕にできるものではありませんが、一緒に先人の知恵と工夫を正しく学び、野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「柿のくわ焼き」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分◎食感 ◎香り ◎刺激
・通常のくわ焼きの作り方では加熱時間が長くなる。最初に砂糖でカラメルを作り、その粘度を利用して柿の表面にたれを短時間で絡める。
・セロリを入れることで香りと食感が加わり、甘辛いだけのくわ焼きではなくなる。
・柿のように甘い果物の料理は、黒こしょうなどの辛みと風味で味を引き締める。
・「柿の天ぷら」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・天ぷらにすることで加熱時間を短縮する。中は温まる程度で生のまま、表面はカリッとあつあつに揚げる。
・柿の天ぷらはわさびの辛みと風味で味を引き締める。
「柿のくわ焼き」
【材料(2人分)】・柿(180~200g) 1個
・セロリ 40g
・グラニュー糖 大さじ2+小さじ2
・濃口醤油 30cc
・日本酒 40cc
・黒こしょう 少々
【作り方】1.柿は皮をむいてヘタの部分を除く。縦に6~8等分に切る。
2.セロリは筋を取り、幅1cm×長さ3cm×厚さ2mmの短冊形に切る。
3.鍋にグラニュー糖を入れ中火にかけカラメルを作る。砂糖が溶けて「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真のように薄い黄色になったら、調味料を一気に加えて均一になるようかき混ぜる。
4.あらかじめ火にかけ熱くしておいたフライパンに柿と3のタレを入れ、強火で一気に絡める。続いてセロリも加え、タレが少なくなったら火から下ろして器に盛り、黒こしょうをふる。
「柿の天ぷら」
【材料(2人分)】・柿(180~200g) 1個
・わさび(本わさび。なければ市販のチューブ入りわさびでもよい) 適量
・天ぷら衣
薄力粉130g、冷水100cc、卵黄1個
・揚げ油 適量
【作り方】1.柿は皮をむいてヘタの部分と尻の部分を切り落とし、実の部分を3cm厚さくらいの輪切りにする。ピンセットや箸で種を除き、その穴にわさびを詰める。種がない場合はわざわざ穴を開ける必要はなく、天ぷらにした後にわさびを添えればよい。
2.通常より少し濃い天ぷら衣を作る。冷水に卵黄を加え、泡立て器でときほぐす。そこに薄力粉を加えて粘りが出ないようにさっくりと混ぜる。
3.揚げている途中、柿の糖分で表面が焦げないよう、また、わさびが飛び出さないように柿の全面に薄力粉(分量外)を2回つける。1度目は通常どおりにつけ、そのまま2分ほどおいて、つけた薄力粉に水分が回ってきたら再度、薄力粉をつける。
4.鍋に油を入れ火にかけ、180℃にする。柿に天ぷら衣をつけて油に入れ、途中で一度返して揚げる。
5.柿の内部まで火を通す必要はなく、表面がカリッと揚がったら、油から上げて横に水平に切って断面を上にして器に盛りつける。食べやすいように一口大に切って盛りつけてもよい。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。