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実りへの感謝を込めて。精進料理の粋を極めた秋のひと皿を

2021.10.17

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プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。一覧はこちら>>

秋野菜の吹き寄せ


秋野菜の吹き寄せ

秋野菜の吹き寄せは、今は亡き師、滋賀県大津大谷月心寺の庵主様(村瀬明道尼・むらせみょうどうに)の料理です。吉兆創業者・湯木貞一氏をして、日本一のごま豆腐、日本一の精進料理と言わしめたのが庵主様です。

吹き寄せの名前のとおりに、秋の様々な食材がそれぞれ最も適した方法で調理され一つに集まった料理です。相阿弥(そうあみ)作庭と伝わる池泉回遊式の庭園の紅葉が真っ赤に染まり、池と見事なコントラストを見せる頃に、月心寺ではこの吹き寄せが供されました。


紅葉と池の風情を塗り分けの器にかけて、庵主様直伝の吹き寄せを盛りつけました。この吹き寄せ、調理法自体は極めてシンプルなのですが、腕利きのプロの料理人が真似しようとしてもなかなかできません。今日はそのレシピを読者の皆さまだけに公開します。

ただ、レシピとおりに作れば写真と同じようには仕上がるかもしれませんが、庵主様の吹き寄せとは似て非なるものでしょう。それは私が作っても同様です。

「慌てて作れば慌てた料理になるし、怒って作れば怒った料理になる」「いらっしゃるお客さんと同じ腹具合に自分も調整しておかねばいけない」と庵主様は教えてくれました。そして、庵主様は料理を作るとき、常に小声で何かブツブツ言っていました。改めてお聞きしたことはなかったのですが、どうもお経のようでした。庵主様が素材である野菜に感謝すると同時に、その命をいただくことを真剣に受けとめ、慎んで料理することで成仏させようという心の表れがあのお経なのではなかったかと考えます。

庵主様の料理のおいしさは、その「人」に拠るもので、食べる人は料理はもちろんですが、同時に庵主様の人となりを食べていたのです。奥義はそこにあり、ゆえに誰にも真似ることのできない庵主様だけの料理が存在したのです。かつて私は庵主様のその味と技術を盗もうとしました。しかし、何度やってもうまく再現できませんでした。私は盗むものを間違っていました。本当に学ばねばならなかったのは技術ではなく、料理する心だったのです。

そんな私でも、庵主様はきっと今も見守ってくれているでしょう。今日は庵主様の野菜料理を楽しみましょう。


ちょっとしたコツ


・「秋野菜の吹き寄せ」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。

◎︎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激

・それぞれの野菜で火が入る時間、塩加減が違うため、一緒に炒めるのではなく素材ごとに炒めて調味する

野菜の味つけは塩と日本酒だけである。そこに生麩のみたらしの醤油と砂糖の味が加わって吹き寄せの味を作り上げる。野菜の総量と生麩のみたらしの比率がポイントであり、それを守れば、野菜の種類などは変化してもかまわない。







「秋野菜の吹き寄せ」


秋野菜の吹き寄せ
【材料(2人分)】
・ごぼう(2mm角×4cmに切る) 30g

・にんじん(3mm角×4cmに切る) 20g

・パプリカ(赤・黄・緑。5mm角×4cmに切る) 各10g

・ズッキーニ(黄・緑。5mm角×4cmに切る)各15g

・ししとう(1cm幅の輪切り) 15g

・れんこん(2mm厚のいちょう切り) 30g

・いんげん豆(4cm) 2〜3本

・サラダ油 適量

・日本酒 適量

・塩 適量

・さつまいも(6mm角×4cmに切る) 4切

・皮むきくるみ(小豆くらいの大きさに切る) 1/2〜1個

・ぎんなん 4個

・揚げ油 適量

・栗の蜜煮 2個 「栗の蜜煮」参照

・赤こんにゃく(黒こんにゃくでもよい。5mm角×4cmに切る) 10g
こんにゃくを炊く出汁:出汁100cc、塩0.2g、薄口醤油小さじ1/2、みりん小さじ1/2

・生麩のみたらし(粟麩を用いたが他の生麩でもよい) 1cm×1.5cm×6cm
生麩のみたらし」参照

・甘露しいたけ(8等分に切る) 20g 「胡瓜としいたけの合い混ぜ」参照

※ごぼう、にんじん、れんこん、こんにゃく、さつまいも、くるみを基本素材とし、それ以外の野菜はお好みで。臨機応変、季節のものを加えていく。秋であれば、いぶりがっこやむかご・菊いもの素揚げ、かぼちゃを炊いたものなども合う。

【作り方】
1.ごぼう、にんじん、パプリカ、ズッキーニを指定の大きさに切る。ししとうは枝を外して指定の大きさに切る。れんこんは2mm厚さのいちょう切りにする。いんげん豆は枝元部分を外して筋を取ったものを4cm長さに切る。

2.ぎんなんは殻から出して薄皮もむき、120〜130℃の油で翡翠色に揚げて薄く塩をして半分に切る。くるみは150℃の油で揚げて小豆大に切る。さつまいもは洗って皮付きのまま切り、160℃の油で揚げて薄く塩をする。

3.栗は蜜煮にして食べやすく切る。生麩をみたらしにして1cm厚さに切る。甘露しいたけは大きさに応じて6等分または8等分に切る.

4.こんにゃくは切って下茹でした後、出汁と調味料で炊いておく。

5.ごぼう、にんじん、パプリカ、ズッキーニ、ししとうは素材ごとに調理する。それぞれフライパンに薄く油をひいて炒め、日本酒少々と塩(素材によって量を微調整する)で味をつける。炒める際に油を使い過ぎると味がくどくなるので注意。

6.れんこんは切るとでんぷん質が出るので水でさっと洗い、水分を切って5同様に炒めて調味する。少ない油で炒めるため、フライパンにつく場合は水を微量加えてもよい。いんげん豆は色よく下茹でした後に炒めて日本酒と塩で調味する。

7.ボウルに2、4、5、6を入れて生麩のみたらしを加え、全体をよく混ぜてなじませる。器に盛りつけ、栗の蜜煮と甘露しいたけを散らす。時間が経過すると味のメリハリがなくなるので、なるべく早く食べる。

私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。

六雁(むつかり)

榎園豊治さんプロフィール
銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。

六雁 むつかり

東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時~14時 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:http://www.mutsukari.com

六雁 むつかり 料理長、秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。
文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗
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