新かんぴょうの酒肴彩々
4×4で16の升目がある器に7種のかんぴょう料理を盛りつけました。オセロゲーム、あるいはチェスのようにも見えるかもしれませんね。六雁ではオリジナルの器を用いたこの趣向を十六羅漢(らかん)と呼んでいます。
十六羅漢とは釈迦の命により、釈迦の入滅後もこの世に長くとどまって、衆生(しゅじょう)を導き正法を守護するという直弟子のうちでも最高の階位の16人の者たちです。
この趣向は16升目すべてを埋めてもいいですし、今回のように数品をバランスよく盛っても美しいと思います。
かんぴょうは一般的には寿司の具材以外にあまり使われませんが、発想を広げれば多様な料理に展開することができます。「
煮かんぴょうの海苔巻き」でもお話ししましたが、上質な新かんぴょうは甘い香りがします。なぜなら、かんぴょうはメロンやすいかと同じウリ科だからです。りんごと一緒に炊いてもおいしいですし、りんごジュースなどで煮つめ炊きしたものを120℃くらいのオーブンで焼いてカリカリのチップスにすることもできます。また、武家茶道の一派、遠州流では饅頭などに結びかんぴょうを口取りとして添えます。
かんぴょうにはカルシウム、カリウム、リン、鉄分などが多く含まれ、食物繊維も豊富で、精進料理ではもどし汁も活用します。
私はあと数年で“六十”歳になりますが、野菜料理界の“十六”羅漢には程遠い状態で情けない限りです。しかし、まだ修行人生は続きます。志だけは高く持って野菜好きを導き、正法を守護できるよう、読者の皆さまと一緒に求法して参ります。でも、辛いだけの求法は続きません(笑)。野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「新かんぴょうの酒肴彩々」は、全部で野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎︎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・新かんぴょうはよく乾燥して幅が広く肉厚で甘い香りがするものを選び、歯ごたえが残るよう下ごしらえすることで料理のレパートリーが広がる。
・寿司の煮かんぴょうのイメージを払拭し、薄味で炊いた後、和えものなどに料理を展開していく。
・もどした後、下味をつけずに、炒めものに入れてもおいしい。
新かんぴょうの酒肴彩々
煮かんぴょう(薄味)
「りんご酢味噌かけ」「くるみ和え」「唐辛子山椒風味」「ごま和え」「柚子味噌かけ」に共通で用いる。
【材料(3人分)】・かんぴょう(もどしたもの) 150g
・出汁 500cc
・薄口醤油 17cc
・みりん 17cc
【作り方】1.かんぴょうは「
煮かんぴょうの海苔巻き」を参照してもどす。
2.「りんご酢味噌かけ」と「唐辛子山椒風味」用のかんぴょうは水気を絞って丁寧に広げ、伸ばして10cm長さに切る。その上に、再度、かんぴょうを重ねるように広げ伸ばす。これをくり返し、5〜6枚重ねる。重ねたかんぴょうの両端と真ん中あたりを調理用たこ糸で縛る。同じものを合計2つ作る。
3.「柚子味噌かけ」用のかんぴょうは楊枝や竹串などを芯にしてかんぴょうを巻いて直径2.5cm、長さ5cmの円柱形にする。かんぴょうを少しずつずらして往復して巻き重ね、最後にほどけないように両端をたこ糸で縛る。
4.「くるみ和え」と「ごま和え」用のかんぴょうは水気を絞った後、炊きやすいよう10〜15cmほどに切る。
5.鍋に出汁を注いで火にかけ調味料を加える。2、3のかんぴょうを入れ、沸いたら弱火にして7〜8分炊き、火から下ろして1時間以上味を含ませる。前日に仕込んでおいてもよい。
1 りんご酢味噌かけ(奥の列・左)
【材料(3人分)】・煮かんぴょう(薄味) 作り方2参照
・玉味噌(白) 20g(ピンポン球1個くらい)
※玉味噌については「
生姜味噌」参照
・りんご酢(飲むりんご酢など甘みが入ったもの) 大さじ1弱
※ない場合はレモン汁でもよい。その場合、甘みを好みでたす。
・りんご(紅玉など酸味のあるもの) 少々
【作り方】1.煮かんぴょうを煮汁から上げて、クッキングペーパーで汁気を取る。調理用たこ糸を除き、重ねたまま3cm角くらいに切る。切り端は5mm幅に刻んで「くるみ和え」と「ごま和え」用のかんぴょうに混ぜる。
2.玉味噌にりんご酢を加えて混ぜたものをかんぴょうにのせて皮付きのまま細めのせん切りにしたリンゴを添える。
2 くるみ和え(奥から2列目・左から2番目)
【材料(3人分)】・煮かんぴょう(薄味) 作り方4参照
・くるみの和え衣 適量 「
秋野菜のくるみ和え」参照
・菊花の甘酢漬け(黄色。紫でもよい) 1/2輪分
甘酢:昆布出汁(水1L、昆布10g)450cc、酢300cc、砂糖100g
菊花の下処理については「
菊花椀、菊梅雑炊」参照
【作り方】1.くるみ和え用の煮かんぴょうを煮汁から上げて、クッキングペーパーで汁気を取り、5mm幅に刻む。
2.ボウルにかんぴょうを入れて酢を絞った菊花の甘酢漬けも加えて混ぜる。そこにくるみの和え衣を適量加えて好みの味にする。
3 ブルーベリー酢漬け(奥から2列目・左から3番目)
【材料(3人分)】・かんぴょう(もどしたもの) 30g
・ブルーベリー酢(市販品の飲むフルーツ酢) 適量
【作り方】1.戻したかんぴょうの水気を絞ってブルーベリー酢に一晩漬ける。甘めの他の果実酢でもよい。日持ちするので多めに作ってサラダや和えものなどに加えてもよい。
2.かんぴょうを酢から上げて水分を絞り、丁寧に広げ伸ばし10cm長さに切る。その上に、再度、かんぴょうを重ねるように広げ伸ばす。これをくり返し5〜6枚重ねる。
3.重ねたまま3cm角くらいに切る。
4 ざくろ酢漬け(奥から3列目・左から2番目)
【材料(3人分)】・かんぴょう(もどしたもの) 30g
・ざくろ酢(市販品の飲むフルーツ酢) 適量
【作り方】ブルーベリー酢をざくろ酢に替えるだけで、そのほかの工程は「ブルーベリー酢漬け」に同じ。
5 唐辛子山椒風味(奥から3列目・一番右)
【材料(3人分)】・煮かんぴょう(薄味) 作り方2参照
・一味唐辛子 少々
・実山椒(冷凍保存したものがなければ市販品で代用) 少々
実山椒の下処理は「
茶豆の塩茹で、紫ずきん3種」参照
【作り方】1.かんぴょうの切り方までは「りんご酢味噌かけ」の1に同じ。
2.実山椒は5月に仕込んで保存しておいたものを必要分解凍して、かんぴょうを炊いた煮汁を少しとって10分ほどつけ、水臭さをなくす。
3.かんぴょうに一味唐辛子と刻んだ実山椒を少々のせる。
6 ごま和え(手前の列・左)
【材料(3人分)】・煮かんぴょう(薄味) 作り方4参照
・いりごま(市販品を軽くいり直す) 大さじ1強
・薄口醤油 6滴(0.6cc)
・砂糖 小さじ1/3
【作り方】1.ごま和え用の煮かんぴょうを煮汁から上げて、クッキングペーパーで汁気を取り、5mm幅に刻む。
2.ごまをまな板の上に広げて細かく刻んで調味料を加えて混ぜ、ごま和えの衣とする。
3.ボウルにかんぴょうと和え衣を加えて和える。
7 柚子味噌かけ(手前の列・右から2番目)
【材料(3人分)】・煮かんぴょう(薄味) 作り方3参照
・玉味噌(白) 20g(ピンポン球1個くらい)
・柚子果汁 大さじ1弱
・柚子(刻み柚子用) 少々
【作り方】1.柚子味噌かけ用の煮かんぴょうを煮汁から上げて、クッキングペーパーで汁気を取り、芯の楊枝などを抜く。
2.柚子味噌を作る。玉味噌に柚子の絞り汁を加えて混ぜる。柚子はレモンのように強く絞ると苦みとぬめりが出る。必要以上に力を加えず優しく絞ってとれた分だけを用いる。味をみて果汁がたりなければ、米酢で補う。
3.かんぴょうは円柱形になったものを1.5cm厚さに切り、上に柚子味噌をのせる。柚子の皮の白い部分を除き、黄色い部分のみを細かく刻んで味噌の上に添える。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。