とんぶりの土佐和え、とんぶりと秋野菜の山かけ
とんぶりは箒(ほうき)の材料となるほうき草の実を加工した食材です。脱穀して1週間ほど天日で乾燥した後、茹でて水にさらし、皮むき機にかけて皮を除きます。直径1~2mmの小さな緑色の実は魚の卵に似ておりほぼ無味無臭ですが、ぷりぷりプチプチとした弾力のある食感が特徴で、畑のキャビアとも呼ばれています。産地は秋田県で、9月末から10月に収穫し真空パックや瓶詰で出荷されます。
とんぶりを料理に使う際は注意点があります。すでに茹でてあるので火を入れる必要はありません。ただ、加工の際に雑菌予防の目的でクエン酸処理をしており、かすかな酸味があるため、さっと茹でて水に少しさらして酸味を抜いてから用います。味をつけないと水っぽく感じますが、食感を損なうため加熱処理は向いていません。そのまま調味料などで味をつけますが、塩分を含む調味料や和え衣などは時間が経過すると水分がしみ出し、食感が弱まり水っぽくなるので注意が必要です。
ほうきさえもあまり使わなくなった今、ほうき草の実であるとんぶりは知らない方のほうが多いでしょう。しかも味も香りもないのでなおさら注目されない(笑)。数の子と同じように味自体よりも食感を楽しむ、大人にこそ良さがわかる食材なのです。秋の風情も楽しめるよう、とんぶりを知恵と工夫でおいしくします。野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「とんぶりの土佐和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・とんぶりは漬け出汁で下味をつけ、水っぽさをなくす。
・とんぶりは小粒でバラバラになりやすく食べにくい。とろろいもをごく少量加えて、その粘り気ととろみで粒をまとめると食べやすくなる。
・濃口醤油では旨みがたりないので土佐醤油(刺し身醤油)で調味する。土佐醤油がない場合は濃口醤油で味をつけ、市販品のかつお節をもんで粉末にしたものを加えてもよい。食感が失われないようにとんぶりは食べる直前に味をつける。
・揚げ昆布と松の実で風味と油分、旨みをプラス。
・「とんぶりと秋野菜の山かけ」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・干し梅(梅干しの果肉を干したもの)を添えることでメリハリが効き、味がしまる。
・金時草、なめこと同じくぬめりのある大和いもを包丁で細かく刻んで、たたきいもにする。適度な歯ごたえと粘りがあるので、食感に変化が生まれる。
「とんぶりの土佐和え」
【材料(2人分)】・とんぶり 50g
・下味用漬け出汁 約200cc
出汁180cc、塩0.3g、薄口醤油12cc、日本酒5cc
・土佐醤油(市販の刺し身醤油でもよい) 小さじ3/4
※土佐醤油とは:日本酒200cc、かつお節45g、濃口醤油500cc、たまり醤油300cc アルコール分を煮きった日本酒にかつお節を加えて、弱火で2分ほど炊いて旨みを酒に移す。2種の醤油を加えて1〜2日おいてかつお節をこして用いる。醤油に火を入れると香りが飛ぶ。
・大和いも(すりおろす) 小さじ1
・松の実 6粒
・刻み昆布 少々
・揚げ油 適量
【作り方】1.鍋に湯を沸かす。とんぶりを目の細かいざるなどに入れて7〜8秒茹でて、ざるごと水につける。1分ほどしたら水気をよくきり、漬け出汁に20分ほど漬けて下味をつける。
2.松の実は香ばしくいって1/2に切っておく。刻み昆布(なければ白板昆布を刻んで使ってもよい)を160℃の油で揚げてクッキングペーパーに広げて余分な油を除く。
3.とんぶりを出汁から上げてよく汁気をきる。さらにクッキングペーパーで包んで汁気を除いた後、ボウルに入れる。そこに大和いもをすりおろしたものを加え、全体に混ぜる。続けて土佐醤油(刺し身醤油)で味をつける。土佐醤油がない場合は濃口醤油で味をつけ、かつお節をもんで粉にしたものを混ぜて旨みを増す。
4.とんぶりを器に盛って、松の実と揚げ昆布を添える。
「とんぶりと秋野菜の山かけ」
【材料(2人分)】・とんぶり 大さじ2弱
・なめこ 60g
・金時草 1/3束
・下味用漬け出汁 約400cc
出汁360cc塩0.6g薄口醤油24cc日本酒10cc
・大和いも 30g
・干し梅(なければ梅干しでもよい) 少々
・加減酢 大さじ2
出汁6:みりん1.5:濃口醤油0.5:薄口醤油1.5:酢1.5:柑橘酢0.5の割合。
【作り方】1.とんぶりの下処理は「とんぶりの土佐和え」の1と同じ。
2.金時草となめこは茹でて漬け出汁に20分以上つける。「
金時草のお浸し」参照。
3.大和いもは皮をむいて細かく刻んでたたきいもにする。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
4.金時草は汁気をきって食べやすく切る。とんぶりとなめこはざるに上げて汁気をきる。ボウルに金時草、とんぶり、なめこを入れて混ぜ、器に盛る。
5.たたきいもを4の上に散らし、加減酢をかけ、最後に干し梅を添える。干し梅がない場合は梅干しの果肉を小さくちぎってのせてもよい。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。