ごぼうの旨煮、国師ごぼう(山椒味噌煮)
ごぼうはキク科の植物で、1属1種で同属がない孤高の野菜です。原種はユーラシア大陸の各地で見られ、日本には縄文あるいは平安時代に入ってきたなどの説があります。食用とするのは主に日本だけのようです。太平洋戦争中、外国人捕虜にごぼうを食べさせたところ、木の根を食べさせ虐待したとして、戦後、日本人将兵が戦犯として裁かれたという話がありますね。中国、韓国でも食用にされますが、日本ほど料理のバリエーションはないようです。
売られているものには土つきのものと洗ったものがありますが、風味や香りを重視するなら土つきのものがよいでしょう。太くなるとス(空洞)ができていることがあるので、中くらいの太さで全体的にまっすぐ伸びているものを選びます。張りがあってひげ根の少ないものが良品です。先端がしおれていたり、ひび割れがあるもの、断面にスがあるものは避けます。洗いごぼうの場合は表面のきめが細かくひび割れていないものにしましょう。
ごぼうはその香りと食感が特徴ですが、香りや旨みは主に皮の部分に含まれているため、土をたわしで洗い落とす程度にし、包丁の背で皮をこそげ取ったりしてはいけません。また、ごぼうは空気に触れると褐変するため、切ったらすぐに水や酢水につけ、あくが出るのを抑えるというやり方が一部で定着していますね。つけすぎると風味が抜けるので、さっと水に通す程度で十分です。すぐに加熱などの料理をすれば変色などもありません。
褐変はポリフェノールの酸化で起きるのですが、ポリフェノールは赤ワインにも豊富に含まれています。強い抗菌力と抗酸化作用があり、風邪や老化の予防などの効果も期待できます。苦みや渋みがありますが、料理の仕方次第で感じにくくし、風味に変えることができます。今日はそれをお教えします。
また、ごぼうは豊作の象徴といわれている黒い瑞鳥(ずいちょう。めでたいことが起こる前兆とされる鳥。鳳凰など)に形や色が似ているとされ、豊作を祈願して食べられてきました。
黒い瑞鳥にかけてかどうかはわかりませんが、ごぼうを黒く炊く国師ごぼうという料理も紹介します。大徳寺の開祖・大燈国師(だいとうこくし)はごぼうが好物だったようで、国師の「こく」と黒の「こく」をかけて黒い味噌煮にしたごぼうを国師牛蒡と呼びます。昔は鉄鍋しかなかったのでそれを使ってごぼうを炊いて、鍋のまま翌日までおいたら鉄分が反応して黒くなっていたというのが実際のところだと思うのですが。今は鉄鍋を使うこともないので特殊技術のようにいわれています(笑)。
臨済宗では師が弟子に公案(問題)を出し、弟子は単純に頭で考えて答えを出すのではなく身体全体で理論を超えた禅の精神を究明するのだそうです。「ごぼうの渋みは、あくか風味か?」私の料理は答えになっているでしょうか(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「ごぼうの旨煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・ごぼうや山菜などあく(苦みや渋みなど)が強いものは、茹でて水にさらすとあくが抜けるが、一緒に香りと旨みも抜けてしまう。油で揚げたり、炒めたりした後に調理すると、油の効果で苦みや渋みを感じにくくなり、あくが風味となり香りも残る。
・赤唐辛子をほんの少々、辛みを感じないくらい加えることで味がしまり、辛味によって苦味や渋みも感じにくくなる。
・「国師ごぼう(山椒味噌煮)」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・鉄製のフライパンなどを使って、前日に味噌を加えてサッと炊く工程までしておき、そのまま一晩おくと煮汁が黒くなっている。
・一晩おくと、味噌の旨みは残っているが風味は薄くなっているので、煮汁を煮詰めてごぼうに絡めた後に、粉山椒をふりかけて香りをつけ加える。
「ごぼうの旨煮」(左)
【材料(3人分)】・ごぼう 1本(150g)
・サラダ油 適量
・出汁 500cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用に昆布出汁でもよい
・濃口醤油 大さじ2+小さじ1
・みりん 大さじ1
・砂糖 10g
・赤唐辛子(種を抜く) 1/2本
【作り方】1.ごぼうはたわしで洗い、6mmほどの厚みで断面が5〜6cmの長さになるよう斜めに切る。
2.鍋に湯をたっぷり沸かしてごぼうを入れ、2分ほど茹でてざるに上げる。この下処理で土臭さとえぐみを程よく除く。
3.フライパンを火にかけサラダ油をひき、ごぼうを入れところどころに焦げ目がつくくらいに炒める。
4.鍋に出汁を入れ火にかける。ごぼうを入れ調味料を加えて15分くらい炊いて火から下ろし、そのまま30分以上おく。
5.ごぼうが味を含んだら、温め直して器に盛る。
「国師ごぼう(山椒味噌煮)」(右)
【材料(3人分)】・ごぼう 1本(150g)
・サラダ油 適量
・出汁 500cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用に昆布出汁でもよい
・薄口醤油 小さじ1
・みりん 小さじ1
・西京味噌 15g
・粉山椒 少々
【作り方】1.ごぼうはたわしで洗い、5cm長さに切る。
2.鍋に水を入れ、ごぼうを加えて火にかける。沸いてから8分ほど茹でてざるに上げる。ごぼうが大きいので、水から茹でて土臭さとえぐみを程よく除く。
3.鉄製のフライパンかすき焼き鍋を火にかけ、サラダ油をひきごぼうを加え、ところどころに焦げ目がつくまで炒める。
4.ごぼうが入ったフライパンに出汁を加え、強火にする。沸いたら火を弱め10分ほど炊いてみりんを加える。さらに10分ほど炊いて薄口醤油を加え5分炊く。この段階で煮汁が最初の量の2/3くらいになるよう、途中で出汁(分量外)をたして調整する。続けて味噌を加えて5分炊いたら火からおろし、熱いうちにラップをごぼうにぴったりと貼りつけて煮汁からごぼうが出ないようにする。冷めたらフライパンに入れたまま冷蔵庫で一晩保存する。
5.翌日、4のフライパンを中火にかけ、沸いたら火を弱め煮汁を煮つめていく。ごぼうに煮汁を絡めながら「ひと目で分かるプロセス&テクニック」の写真くらいに煮汁が煮つまったら粉山椒を加えて煮汁とともに全体に絡めて器に盛る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。