れんこんの丸揚げ、辛子れんこん
今日は旬を迎えているれんこんの料理をご紹介します。穴があいているので「先を見通す」ことに通じ縁起がよいとされて、おせち料理やお祝い事などにも欠かせないものとして日本人にはなじみの深いれんこんですが、それを食用としているのは日本以外では中国など少数の国々だけです。昨日のごぼう(「
ごぼうの旨煮、国師ごぼう(山椒味噌煮)」と同じですね。
れんこんは今が旬で栄養を蓄えおいしくなっています。新れんこんは「
新れんこんのドライトマト炒め、辛子煮」などで既に紹介しましたが、今のれんこんは新れんこんと違い、選び方や使い方が変わってきます。
れんこんには中国種と在来種があります。中国種は明治時代の初期に中国から導入した品種を改良したもので、ふっくらと太く病気に強くて収穫量が多いため、現在は在来種をおさえてれんこんの主流となっています。在来種に比べて粘り気が少なくシャキシャキとした食感が特徴です。徳島県や愛知県、石川県、山口県で育てられているものも中国種です。
在来種は江戸時代以前に日本に伝わり各地で根付いたもので、細長くて柔らかく少し茶色がかった色をしていて、粘り気が強いのが特徴です。
奥がくちばしのような芽がついた先端の節。手前が真ん中の節。節によって食感や味わいの性質が異なる。スーパーマーケットなどで見かけるれんこんはカットした状態のものが多いですが、切り口が変色したもの、穴の中が黒くなったものは避けます。表面につやがあって傷がなく、ふっくらと太くまっすぐで重みがあるものを選びます。新れんこんでもお話ししましたが、節ごとにでんぷんと繊維の量が違うため性質が異なります。
最初の細長い節(断面はクリーム色)はでんぷんが多くて堅く、加熱すればほくほくもちもちになるため、煮ものや蓮餅(「
蓮餅の煮物椀」)などに適しています。その後にできる節は、徐々にでんぷんが少なくなっていき、真ん中の太く丸々とした節(断面が白とクリーム色の中間)は粘りもあってもっちりしているので、天ぷらや煮ものに。一番先の鳥のくちばしのような芽がついた小さな丸い節(透明がかった白色)は、でんぷんが少なくて柔らかく水分が多く、シャキシャキと食感がよいので酢のものに向いています。
今回は真ん中の節を使って揚げものを2つ作ります。1つは熊本の郷土料理の辛子れんこんです。茹でたれんこんの穴に味噌と多めの辛子を合わせて詰め、空豆粉と強力粉で作った衣をつけて揚げます。涙が出るほどの辛さも、それはそれでおいしいのですが、家庭で作れば辛さの調整もできますし、衣に一工夫してもっとおいしくすることができます。
揚げものは何より揚げたてが一番です。目が覚める辛さとはよく言いますが、目が開く、覚醒するおいしさの野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「れんこんの丸揚げ」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・低めの温度(160℃)でゆっくりと時間をかけて揚げることでれんこんのほくほく感を出す。
・揚げ上がりに油温を170℃に上げて油ぎれをよくする。
・「辛子れんこん」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘味 ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・れんこんに歯ごたえを出したければ、湯1Lに酢大さじ1を加えて茹でる。もっちりした食感が好みなら、湯だけで少し長めに茹でる。
・穴に詰める辛子味噌が水っぽくならないように、下茹でしたれんこんは水に放さず熱いまま立てて冷まし、余分な水分を蒸発させる。
・中に詰める辛子味噌は、辛子と味噌と調味料だけでは味が濃くなりすぎるため、おからを加えて穏やかな味にする。ベジタリアンでなければおからの代わりにゆで卵の黄身を加えてもよい。
・市販品は空豆粉と強力粉を合わせて黄色く着色した衣を使うが、空豆粉の代わりにきな粉を使った衣で揚げることで風味が加わりおいしくなる。きな粉は粘性がないため強力粉を合わせる。
・揚げる際は串で刺して油の中で浮かして揚げることで衣が均一にれんこんをおおう。
「れんこんの丸揚げ」(右)
【材料(3人分)】・れんこん(長さ4cm) 3個
・天ぷら衣 適量
作りやすい分量:薄力粉100g、冷水100cc、卵黄1個
・揚げ油 適量
・塩 少々
【作り方】1.れんこんは皮をむいて4cm長さに切る。
2.天ぷら衣を作る。ボウルに入れた冷水に卵黄を加え、泡立て器でときほぐす。そこに薄力粉を加えて粘りが出ないようにさっくりと混ぜる。ベジタリアンは卵を用いなくても構わない。
3.れんこんに薄力粉(材料外)を薄くまぶして天ぷら衣をつけ、160℃に熱した揚げ油に入れる。
4.6分ゆっくりと揚げた後、次の1分間は火力を強め、油温を170℃まで上げてカラッと揚げる。
5.油からあげてクッキングペーパーにとって余分な油を除き、食べやすく切って塩を添えて供する。
「辛子れんこん」(左)
【材料(3人分)】・れんこん 1節(8〜9cm)
・辛子味噌 適量
作りやすい分量:おからパウダー(市販品)15g、白味噌100g、薄口醤油小さじ4、砂糖小さじ3、練り辛子45g
・揚げ衣 適量
作りやすい分量:きな粉40g、強力粉80g、水150cc
・揚げ油 適量
【作り方】1.れんこんは皮をむく。鍋に湯を沸かし、れんこんを入れ好みの堅さに茹でる。歯ごたえを出したければ、湯に酢を少々加える。下茹でしたれんこんは水に放さず、熱いままクッキングペーパーの上に立てて冷まし、余分な水分を蒸発させる。
2.辛子味噌を作る。ボウルにすべての材料を加えてよく混ぜる。辛子味噌は堅めのほうがれんこんに詰めやすく、揚げた後も抜け落ちないので生のおからでなく乾燥したおからパウダーを使う。おからパウダーがなければ乾燥パン粉を細かくしたものでも代用できる。
3.辛子味噌をれんこんの穴に詰める。ボウルに入った味噌にれんこんの穴が垂直になるように当てて押さえ、すべての穴に味噌を入れる。詰め方は「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
4.揚げ衣を作る。きな粉と強力粉をボウルに入れてよく混ぜ水を加えてさらに混ぜる。別できな粉小さじ1(分量外)と強力粉小さじ2(分量外)を混ぜてれんこんにまぶす打ち粉とする。
5.れんこんに打ち粉をまぶし、揚げ衣の中に入れる。細めの竹串を1〜2本用意し、れんこんに刺して衣から引き上げる。箸であげると箸の跡がつき、その部分の衣が薄くなってしまう。
6.れんこんが浸かるくらいの深さに油を注いで170℃に熱した深めのフライパンに、5で刺した竹串を手で持ったまま油に入れる。れんこんがフライパンの底につくとその部分の衣が薄くなり焦げるので、油の中で浮いた状態でしばらく揚げる。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。衣が固まってきたら、串を抜いてれんこんを油の中に沈め、油の中で回転させながら全体を均一に揚げる。れんこんも中に詰めた味噌も既に火は通っているので衣だけを揚げればよい。
7.揚がったれんこんはクッキングペーパーで包み、その上から両方の手のひらでさらに包むように押さえて余分な油をペーパーに吸収させる。れんこんを6mm厚さに切って器に盛る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。