プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 大黒しめじの酒蒸し
「香り松茸、味しめじ」と言い、しめじは数あるきのこの中でも美味で、味では松茸にも負けないとされています。こう書くと、エエッ!あのしめじがそんなにおいしい?という声が聞こえてきそうです。
そう思われた方はきっとスーパーマーケットなどにあるぶなしめじをイメージされていると思います。「味しめじ」のしめじとは本しめじ(今回使用しているのは京丹波産の大黒しめじ)を指し、本しめじがシメジ属であるのに対し、ぶなしめじはシロタモギタケ属でまったく別物です。売られているぶなしめじは軸が繋がっていますが、本しめじは1本1本別になっています。大黒しめじは軸が太くて短く、丸っこい形から、七福神の大黒様のようだということで大黒しめじと呼ばれます。旨みがたっぷり含まれ濃厚で、食感もコリコリとしています。
私が若い頃は国産松茸と同等かそれ以上に高価な天然物しかありませんでしたが、現在は人工栽培に成功して比較的安価で入手できるようになりました。
きのこには菌根性(きんこんせい。生きた植物と共生する)と腐生性(ふせいせい。枯木や落ち葉などに寄生する)があり、高級きのこである松茸、大黒しめじ、トリュフ、ポルチーニなどは前者で、市販されているしいたけ、えのきたけ、ぶなしめじなどは後者になります。菌床栽培が不可能とされ、天然物を採取するしかなかった菌根性きのこの中で、唯一大量生産に成功したのが大黒しめじです。
お月様のように丸っこい大黒しめじを日月椀に盛り、今月19日の月食(部分月食)にかけました。月食では月がこのお椀のように赤銅色になって見えることが多いようです。
しめじのお椀を一口いただくと、濃厚な旨みと食感に大黒様のように顔がほころびます。菌床栽培の安価で使い勝手がよいきのこもいいですが、時には少しだけ張り込んで野菜料理を楽しみませんか。
ちょっとしたコツ
・「大黒しめじの酒蒸し」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎︎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・酒蒸しした際に出る大黒しめじのエキスを含んだ日本酒を、捨てずに出汁に加えることで大黒しめじの旨みと風味が強くなる。
・通常の吸いものの出汁では、大黒しめじの旨みを感じにくい。かつお節を減らし昆布を増やした出汁を用いることで、出汁の旨さではなくしめじの旨さを前面に出す。
「大黒しめじの酒蒸し」
【材料(2人分)】・大黒しめじ 6本
・日本酒 大さじ2
・出汁(通常よりもかつお節を減らして昆布を多くしたもの) 400cc
・塩 1g弱
・薄口醤油 小さじ2
・柚子 少々
【作り方】1.大黒しめじは石づき部分を削って除き、深めの皿などに並べて日本酒をふりかけ、薄く塩(分量外)をしてラップする。蒸気が立った蒸し器に入れて5分酒蒸しにする。
2.大黒しめじのおいしさを生かすため、通常のかつお節と昆布の出汁のバランスを変え、かつお節を減らし昆布を増やして出汁をひく。
3.大黒しめじが蒸し上がったらラップをはずして、皿にたまった日本酒と大黒しめじから出たエキスを出汁に加え、調味料で味をつける。
4.椀に大黒しめじを盛り、1cm角くらいの大きさに削いだ柚子の皮をのせ、3の出汁をはって供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時~14時 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗