プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 新海苔雑煮、海苔の佃煮
海苔は年間を通して売られていますが、その旬は冬で、11月下旬から収穫が始まり、年を越して3月〜4月頃まで続きます。一番おいしい海苔は、「一番摘み」や「初摘み」と呼ばれる新海苔です。採れる量も少なく葉が若く繊細で、柔らかな口どけと香り、独特の甘みが特徴です。
海苔は3大旨み成分である「グルタミン酸」「グアニル酸」「イノシン酸」のすべてを単独で持っている稀な存在で、さらに旨みと甘み成分を持つアラニンや香味成分であるタウリンなども含んでいます。そして、海苔は焼くことで細胞を包む膜が変性して旨みや香りが表に出てくるので、私たちプロは必ず炭火であぶってから使います。
海苔のあぶり方をお教えしましょう。海苔をあぶる際は2枚を合わせた状態での表裏、つまり1枚の海苔の片面だけをあぶります。海苔をあぶると、たんぱく質が熱で変性するため縮むのですが、表と裏とでは縮み具合が違うので両面をあぶるとしわくちゃになってしまいます。そして海苔のおいしさは、味もさることながら香りです。海苔は薄いのであぶると水分と共に香りも抜けやすく、2枚重ねて焼くことで一方をあぶっている間、他方へ水分と香りが移るようにするのです。海苔が1枚しか必要ない場合は2つに折ってあぶればよいでしょう。家庭では炭火は難しいでしょうから、フライパンをコンロの上にのせて加熱し、その上で2枚重ねて表裏15〜20秒ずつあぶってください。
11月は茶人正月(ちゃじんしょうがつ。炉開きが行われる時期)でもありますので、新海苔を使って雑煮にしました。魚介や鴨などを使った豪華な雑煮もいいですが、新海苔雑煮は玄人好みの美食のようで洒落ているかもしれませんね。
新海苔を手に入れたら、香りが良いうちに少しでも早く楽しみたいですが、そうなると昨年の海苔が残ってしまいます。そんな時は佃煮にしてもいいですね。湿けった海苔の再活用にもいいでしょう。「
千波大根の磯辺風味」で海苔ゼリーを紹介しましたが、今回は甘みを極力抑えた新海苔の佃煮です。酒の肴にも飯の菜にもなり、本わさびを添えれば最高です。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「新海苔雑煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・雑煮の出汁は通常の吸いものよりも味を濃いめにする。餅が入っているため、吸いものの味では水っぽく感じてしまう。
・三つ葉は半生状態でよい。海苔と三つ葉の風味の違い、食感の違いを楽しむ。
・雑煮全般にいえることだが、雑煮は餅の焼き上がりと、出汁を温め調味するタイミングを合わせる。餅の表面のカリッとした食感と焼けた香りが加わりおいしくなる。
・「海苔の佃煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・かつお節を加えた出汁を用いると旨みは強いが海苔の香りを弱めてしまうので、昆布出汁を用いる。
・ちぎった海苔に温めた合わせ出汁を回しかけ、蓋をしてしばらくおいて、海苔が水分を吸ってから火にかける。
・市販の海苔の佃煮は大鍋で大量に作るため、加熱の時間、冷める時間が長くなり香りがとびやすい。海苔は香りを生かすためなるべく短時間で炊き上げる。しかし、強火にし過ぎると鍋肌についた部分が焦げて香りが台無しになる。
・冷めると熱い時より堅くなるので、少しゆるいくらいで火からおろす。
「新海苔雑煮」
【材料(2人分)】・新海苔 3g強
・三つ葉(軸のみ) 1/2パック分弱
・餅(市販品) 1個
・出汁 400cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい
・塩 0.8g
・薄口醤油 大さじ1+小さじ1弱
・日本酒 小さじ2
【作り方】1.海苔は必要分だけあぶって1cm角くらいにちぎっておく。
2.三つ葉は葉を除き、軸部分を2cm長さに切る。
3.切り餅を半分に切って表裏をこんがりと焼く。
4.餅を焼くのと同時進行で雑煮の出汁を作る。鍋に出汁を注いで火にかけ、80℃くらいになったら塩を加えて沸く直前に薄口醤油と日本酒を加えて火を止める。
5.温めた椀に焼きたての餅を入れ、海苔と三つ葉を加え、熱い出汁を注いで供する。
「海苔の佃煮」
【材料(作りやすい分量)】・海苔 30g
・昆布出汁 300cc
・日本酒 大さじ2
・みりん 大さじ1
・濃口醤油 大さじ1
・薄口醤油 小さじ1
・砂糖 2g
・本わさび(市販のチューブ入りわさびでもよい) 少々
【作り方】1.海苔はあぶって1cm角くらいにちぎっておく。
2.煮汁を作る。鍋に昆布出汁を注いで火にかけ調味料を加える。沸いたら弱火にして30秒ほど炊いて日本酒とみりんのアルコールをとばす。
3. 別の鍋に海苔を入れ、その上から2の熱い煮汁を回しかけて混ぜた後、蓋をして1〜2分蒸らす。
4.蓋を開けて煮汁を吸収した海苔を木べらで混ぜて均一にほぐす。中火にかけて混ぜながら炊いていく。鍋の周りについた海苔が焦げないようにゴムヘラで落としつつ炊いて、「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真くらいの状態になったら火からおろす。好みでわさびを添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時~14時 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗