プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
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今日は11月の野菜懐石を紹介します。いつもは野菜本膳と銘打っていますが、今回は茶懐石仕立てにしました。
茶懐石は、本膳料理や精進料理の影響を強く受けて、そのスタイルを確立してきました。千利休らが茶会でもてなしたのも、同色同塗同意匠の四つ椀を用いる本膳料理の流れを汲むものでした。ですから野菜懐石も野菜本膳の一つの展開と考えます。
茶の湯の世界では11月になると炉を開いて、春に摘んだ新茶を納めた茶壷の口封を切って使いはじめます。それで11月は茶人の正月といわれます。
古染付の半開扇(はんかいせん)を向付にして正月らしさを忍ばせ、献立は10月〜11月にお教えしたレシピの中からお祝い感のある料理を選びました。向付:
黒豆を
きのこの白和えと合えた一品 壺々(つぼつぼ):
干し柿なます 飯:
赤飯 汁:白味噌仕立 亀甲海老いも、
めかぶ 煮もの椀:
新海苔雑煮 焼きもの:
朴葉焼きになります。
現在、茶懐石といえば亭主手製ということはあまりなく、各流派家元の寵愛を受ける専門店や有名料亭などに依頼し、菓子も名の通った老舗のものが使われることが多いようです。私どももご用命を受ける立場なので偉そうなことは言えませんが(笑)、お金さえ出せば誰でも用意できる料理などの中に、何か一品でも亭主手製のものがあれば気が利いていますし、差別化(笑)もできますね。
そこで、今日はれんこんを使った主菓子を紹介します。日本中、どこの菓子屋にも売っていません。寒い季節に焼きたての蓮餅をお出しすれば、「今日、一番のごちそうだ」とお席は盛り上がるでしょう。手製菓子にはプロの菓子屋がしのぎを削る繊細なこしあんよりも、素朴な粒あんの方ほうがいいような気がします。蓮餅にも合います。粒あんの炊き方もお教えしましょう。茶人正月に穴のあいた「れ“ん”こ“ん”」で「運(ん)」がつき、先が見通せる菓子を手作りして野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「蓮餅」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み 塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・粒あんを作る工程で小豆が持つ渋さを除くために渋切りをするが、何度、渋切りをするかは小豆の鮮度や質によって変わる。渋切りの回数を増やすほど渋さは抜けるが、同時に小豆の風味も抜ける。
・小豆は皮が堅く水につけても吸水しにくいので、他の豆のように水にあらかじめつけるよりも熱湯の中に入れて一気に吸水させる。皮も破れづらく、中までふっくら柔らかに仕上がる。
・粒あんに砂糖を加える際は3回に分ける。砂糖を一度に加えると、浸透圧の関係で豆が堅く煮上がってしまう。
・和菓子用の木型にれんこん形のものがあるが、なくてもれんこんの断面を押しつければよい。その際、生地が離れにくい場合があるので、生地の表面にサラダ油を薄く塗るとよい。型押しに使うれんこんは節の下の部分を使うと大きさもちょうどよいし、無駄がない。
・焼き目をつける際にフライパンに油をひくと、味に奥行きを出る。
・茶席の主菓子用であれば生地に砂糖を加えるだけのほうがよい。日常的な菓子として楽しむ場合は、別レシピで紹介しているように乳製品を加えると、煎茶やコーヒーなどにも合っておいしい。
「蓮餅」
【材料(4個分)】・れんこん 100g(大きめ1節)
・卵黄 1/2個
・グラニュー糖 8〜10g
・粒あん
作りやすい分量:小豆300g、砂糖300g、水あめ20g
・サラダ油 少々
蓮餅の生地・別レシピ
4~5個分:
・れんこん 125g(約1.5節)
・卵黄 1/2個
・グラニュー糖 22g
・もち粉 6g
・牛乳 20cc
・生クリーム 12cc
・はちみつ9g
【作り方】1.れんこんはピーラーで薄く皮をむき、おろし金ですりおろす。すりおろしたらキッチンペーパーに包み、耳たぶくらいの堅さになるよう汁を絞る。「
蓮餅の煮もの椀」参照。
2.蓮餅の生地を作る。絞ったれんこんをボウルに入れ、卵黄とグラニュー糖を加えてよく混ぜる。耐熱皿に1cm厚さで生地を広げ、ラップをぴったりと貼りつけ、500Wの電子レンジで2分加熱する(機種によって変わる)。皿に広げた生地のまわりと真ん中で加熱むらが起きる場合があるので、一度、電子レンジから取り出して生地をよく混ぜ、再度2分程度加熱する。火が入った生地は色が濃くなりモチモチした感触になる。火が入っていない場合はもう一度加熱する。
3.粒あんを作る。大きめの鍋に1.5Lほどの湯を沸かし、洗った小豆を入れて沸いたら火を落として5〜6分炊く。水を1Lほど加えて湯の温度を下げ、小豆の表面と内部の温度を近くして小豆全体に均一に火が入るようにする。強火にして、沸いたら火を弱めて5〜6分炊き、茹で汁が茶色くなってきたら、小豆をざるに上げて茹で汁を捨て渋切りする。別で沸かしておいた湯1.5Lにざるに上げた小豆を入れて、あくをすくいながら踊らないように弱火で炊く。途中で茹で汁の味を確認して、再度渋切りをするかどうか判断する。小豆が柔らかくなったら、ざるに上げ水気をきる。この段階まで最初から1時間くらいかかる。鍋に柔らかくなった小豆と水350〜400ccを入れて火にかけ、砂糖の1/3を加える。沸いたら火を弱め、時々木べらで混ぜながら炊く。残りの砂糖を2回に分けて加え、水分がとんで木べらで混ぜた際に鍋底が見えるくらいになったら、水あめを加えて混ぜ火からおろす。バットに広げ、濡らして絞ったクッキングペーパーをかぶせて冷ます。
4.好みの量の粒あんを蓮餅の生地で包んで2cm厚さくらいの平たい楕円形にする。木型でれんこんの形に押すか、れんこんの節の部分を切って、その断面を押し付ける。ひと目でわかるプロセス&テクニック参照。
5.テフロン加工のフライパンを火にかけサラダ油をひいて、型をつけた面を下にして蓮餅を入れる。フライ返しで軽く押さえて穴型に飛び出た部分のみに焼き目をつける。焼き目がついたら裏面も焼く。焼きたてを器に盛って温かいうちに供する。
6.別レシピの蓮餅は、絞ったれんこんに他の材料をすべて加える。加熱の仕方は2と同じ。フライパンで焼かずにそのままでも、粒あんを包んでもおいしい。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗