金時にんじんの梅煮、黒酢南蛮漬け
今日は金時にんじんの煮ものをご紹介します。金時にんじんは肉質が緻密で柔らかく、甘みが強いので煮ものに向いています。しかし、にんじんが嫌いという方は特に煮ものが嫌いという傾向が強いようで、和食の料理人としては悲しくなります(笑)。
にんじんが嫌いな理由としてはその青臭さと甘みがよく挙げられます。金時にんじんは西洋にんじんに比べてカロテンが少ないので、カロテンに由来するにんじん特有の青臭さは少なめなのですが甘みは強く……、いずれにしても嫌われてしまうようです。
ところがそんなにんじん嫌いでも、サラダに入っている細くせん切りにしたにんじんや、フランス料理のキャロットラペなら食べられるという人がいます。和食の立場からすると、なんだそれ!?という気持ちになりますが(笑)。
にんじんを煮ものにする場合は調味料として甘み(みりん、砂糖)と塩分(醤油)を加えますが、それは結果としてさらに甘みを増やしていることになります。また、塩分は甘みを感じやすくする効果(対比効果)もあります。これでは嫌われても仕方ありません。一方、サラダやキャロットラペには和食では加えない酸味と油分が加えられています。実はそこに、おいしいにんじん料理のヒントがあります。
酸味と甘みの間には互いを感じにくくさせる抑制効果があります。また、オリーブオイルは香りの強い野菜の匂いをマスキングして感じにくくさせる働きもあるようです。では、和食も“塩梅”よく酸味と油分を加えればよいということになりますね。実は和食にも、酸味と油分に匹敵する“奥の手”があるのです。
金時にんじんの梅煮という料理があります。梅干しの酸味と風味が加わり、にんじんの甘みが適度に抑えられ、青臭さも感じにくくなりおいしくなります。梅の花はその芳香が昔より愛され、まだ寒い時季に他に“先がけ”て花を咲かせるので、“魁(さきがけ)”に通じるとして喜ばれます。梅(梅干し)とこれから旬を迎える金時にんじんの組み合わせは新春にふさわしくおせち料理にもぴったりです。
また、金時にんじんは細い先の部分が使いにくいのですが、素揚げにして黒酢に漬けるとおいしくなります。細くて真っ赤なので“鷹”の爪(赤唐辛子)にも見えて、一富士二“鷹”三茄子にかけて、お正月などのお祝いにもぴったりの料理になります。ごぼうの細い先部分も一緒に漬けましょう。
梅干しを使って金時にんじんを“塩梅”よく料理して野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「金時にんじんの梅煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 食感 ◎香り ◎刺激
・梅干しをほぐして加え、しばらく炊いて酸味と風味を移した出汁で、にんじんを炊く。
・梅干しに塩が使われているので、調味の際の塩分は薄口醤油のみにする。
・「金時にんじんの黒酢南蛮漬け」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・素揚げすることでごぼうのあくが感じにくくなり、にんじんの青臭さも弱まる。
・力強いごぼうの風味とにんじんのにおいに合うのは、パンチのある黒酢を使用した合わせ酢。
「金時にんじんの梅煮(下)」
【材料(2人分)】・金時にんじん 60g
・出汁 250cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい
・梅干し 1個(15g)
・日本酒 大さじ1
・みりん 小さじ1と1/2
・薄口醤油 小さじ1と1/2
・にんじん葉 20g
【作り方】1.金時にんじんはピーラーを使って皮を薄くむき、1.5〜2cm幅×4〜4.5cm長さの乱切りにする。5〜6分茹でて冷水に放し、冷めたらざるに上げて水気をきる。
2.鍋に出汁を入れ、梅干し(指でつまんで少し潰しておく)を加えて火にかける。沸いたらごく弱火にして5分ほど炊いて、梅干しの酸味と風味が出汁に溶け出したら金時にんじんを入れ調味料も加える。10分弱炊いたら火から下ろして30分以上味を含ませる。
3.にんじん葉は水耕栽培であれば根の部分を除いてそのまま、軸が堅いようであれば根元近くの太い部分は切り捨てる。湯を沸かし、にんじん葉を入れてさっと茹で冷水に放す。冷めたら水から上げて水気を絞り、1cmに切る。にんじん葉については「
にんじん葉飯」も参照。
4.味を含ませた2を温め直して器に盛り、にんじん葉を散らし、梅干しを小さくちぎったものを添える。にんじんと一緒に炊いた梅を用いてもよい。
「金時にんじんの黒酢南蛮漬け(上)」
【材料(2人分)】・金時にんじん(先の細い部分) 2〜3本
・ごぼう(先の細い部分) 2本
・しし唐辛子の枝元部分(好みで) 4個
・揚げ油 適量
・合わせ酢 適量
作りやすい分量:出汁120cc、濃口醤油大さじ2、砂糖大さじ2、黒酢50cc、赤唐辛子少々
【作り方】1.金時にんじんの先の細い部分の皮をピーラーで薄くむき、5〜6cmの長さに切る。ごぼうも先の部分を5〜6cmの長さに切る。
2.しし唐辛子の枝元の部分を、実の部分を1cm程残して切る。残りの部分は別の料理(「
甘長唐辛子の油焼き」も参照)に使う。
3.合わせ酢を作る。鍋に出汁を入れ、黒酢以外の調味料、種を抜いた赤唐辛子を加えて火にかける。沸いたら黒酢を入れ火からおろして冷ます。
4.フライパンに揚げ油を入れ、165℃に熱する。金時にんじんとごぼうを入れて2分揚げたら、3の合わせ酢に30分以上漬ける。しし唐辛子の枝元部分は170℃の油で揚げ、クッキングペーパーに包んで余分な油を除く。
5.にんじんとごぼうを合わせ酢から上げる。しし唐辛子の枝元部分ににんじんとごぼうの太いほうの端を差し込み、器に盛る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。