プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 海老いもの揚げ出し、けしの実揚げ
海老いもは、安永年間(1772~1781)に天台宗の三門跡寺院である青蓮院の当時の青蓮院宮(しょうれいいんのみや)が、長崎から持ち帰った唐芋(とうのいも)の種を栽培したのが始まりと言われます。京都を中心に古くから作られたため、京芋(きょういも)とも呼ばれますが、同じ名前で流通している宮崎県特産のたけのこいも(地上に頭を出している姿が筍に似ていることから名づけられた)とは別物です。京都の伝統野菜の一つとされ、山城地区と京丹後などで作られていますが、その生産量は静岡県磐田市周辺が最も多く、大阪府富田林市などでも作られています。手に持った際にずっしりと重みがあり、ふっくら丸みがある傷のないものを選びましょう。
里いもの親いも、子いも、孫いもの違いについては「
小いもの衣被ぎ」でお話ししました。海老いもは子いもと孫いもが市場に出回りますが、子いもだけでなく孫いもも、他の里いもに比べクリーミーな食感でおいしいです。
「
海老いもの直煮」では下茹でせずにじっくり時間をかけて直煮にしましたが、時間がない場合は「
小いもの含め煮」同様に、米のとぎ汁などで下茹でした後に含め煮にしても十分おいしく頂けます。
今日は海老いもの料理のレパートリーとして揚げものをご紹介します。大きめの里いもやたけのこいもでも代用できます。海老いも自体のおいしさを純粋に楽しむ直煮と違い、下煮した後に揚げているのでボリュームがあり、酒の肴にもなります。また、けしの実揚げは煮もののように水分が出ず、形も崩れませんのでおせち料理にもぴったりです。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「海老いもの揚げ出し」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・もち粉を厚めにつけると表面がカリッと揚がるが、一度に厚くつけるのではなく、2〜3回に分けてつけ重ねるとはがれない。
・海老いもに味がついているので、注ぐ出汁は通常の天ぷらに添える天出汁では濃過ぎる。海老いもの調味具合に応じて天出汁を薄める。
・「海老いものけしの実揚げ」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・常温、あるいは冷蔵庫で保存した冷たい海老いもではなく、煮汁で温めた海老いもにけしの実をつける。温めたいもを煮汁から上げてクッキングペーパーで表面の水分を拭いて立てておくと、いも自体の熱で表面がさらに乾く。その後に卵白にくぐらせてからけしの実をつけるとはがれない。
・けしの実を海老いもに均一につけるには、ガーゼでこした卵白を使う。
・油の温度が高過ぎるとけしの実が焦げるので注意。
「海老いもの揚げ出し(右)」
【材料(3人分)】・海老いも(炊いたもの) 1.5個 「
海老いもの直煮」、「
小いもの含め煮」参照
・もち粉 適量
・揚げ油 適量
・おろし生姜 少々
・天出汁 約130cc
作りやすい分量:出汁100cc、濃口醤油10cc、薄口醤油3cc、みりん16cc
【作り方】1.海老いもはあらかじめ炊いておいたものを煮汁から上げて縦に半分に切り、表面の水分をクッキングペーパーなどで除く。海老いも全体にもち粉を刷毛で均一につける。しばらくおいてもち粉が海老いもの水分を吸いしっとりしてきたら、再度、もち粉をつける。もち粉のしっかりした皮膜をつけたければ、同じ要領でもう一度もち粉をつける。
2.フライパンに揚げ油を入れて火にかけ、165℃になったら海老いもを入れる。火を強め170℃に上げて内部まで熱くなるように3分ほど揚げる。
3.表面がカリッとなり、きつね色に揚がったら、油から上げて一口大に切り器に盛る。温めた薄めの天出汁を横から注いで上におろし生姜をのせる。
「海老いものけしの実揚げ(左)」
【材料(3人分)】・海老いも(炊いたもの) 1個
・薄力粉 少々
・卵白 適量
・けしの実 適量
・揚げ油 適量
【作り方】1.あらかじめ炊いておいた海老いもを温めて煮汁から上げ、横半分に切って汁気を除く。
2.卵白はガーゼで包んで絞るようにこしてコシを取る。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
3.海老いも全体に薄力粉を薄くつけ、卵白をくぐらせてけしの実を均一につける。
4.フライパンに揚げ油を注いで火にかけ165〜170℃になったら海老いもを入れる。途中で返しながら揚げて表面がカリッとなったら油から上げる。海老いもは最初に温めてあるので長い時間揚げる必要はない。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗