プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 冬至かぼちゃ、柚子葛切り
今日12月22日は冬至です。冬至は二十四節気の一つで、1年で最も夜が長く昼が短い日になります。冬至は太陽の力が一番弱まった日(「陰」の極み)で、この日を境に再び力が甦って(「陽」に変わる)冬至を境に運も上昇するとされました。これは「一陽来復(いちようらいふく)」という考え方で、冬至に「ん」がつくものを食べると運(「ん」)気が上がるともいわれています。「ん」はいろはの最後に来ることから一陽来復の願いを込めて縁起がよいとされるのです。
また、「ん」がつくものは立身・成功の三条件とされる「運鈍根(うんどんこん)」を養うともいわれます。なんきん(かぼちゃ)、れんこん、にんじん、ぎんなん、きんかん、いんげん、かんてん、うんどん(うどん)、これらには「ん」が2つあり、運をたくさん取り込む「運盛りの野菜」といわれます。他にも「ん」がつく野菜には大根、こんにゃく、りんご、みかんなどもあります。
冬至の食べもので特に有名なのはかぼちゃと柚子。かぼちゃは中風や風邪を予防するとされ、冬至に食べられるようになりました。昔は今と違って野菜を一年中食べることは難しく、冬は野菜が不足しました。長期保存が可能なかぼちゃを食べてビタミンなどの栄養を摂り、厳しい冬を乗り切ろうという想いがあったのだろうと思われます。
柚子は「融通(ゆうずう)」に通じ、融通がききますようにという願いも込められています。冬至=湯治(とうじ)と語呂をかけ、柚子湯に入ると一年間風邪をひかないといわれてきました。また小豆の赤い色は邪気を払う力があるとされ、冬至の朝には「冬至がゆ」として小豆がゆを食べる風習もあります。柚子と小豆のどちらにも通じることですが、運を呼び込む前に、厄除けを行うというのが対になっています。
今日は冬至かぼちゃに小豆を合わせいとこ煮にし、柚子を添えます。いとこ煮とは、堅いものから順に炊いていく「おいおい炊く」という表現を「甥甥(おいおい)炊く」へと語呂合わせしたものです。運を上昇させるおいしい野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「冬至かぼちゃ」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・いとこ煮の名のとおり、
堅いものからおいおい炊く。小豆を先に柔らかくなるまで茹で、その後、かぼちゃと一緒に炊く。
・かぼちゃの旨みを強くしたければ揚げ煮にしてもよい。「
かぼちゃの揚げ煮」参照。
・「柚子葛切り」は、野菜料理をおいしくする7要素中4要素を取り入れている。
◎旨み 塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・葛切りは生地を流したバットの底面を湯に当てて、バットの中で生地を前後に揺らし、
生地が半透明になったらバットごと湯の中に落とす。半透明にならないうちに湯に落とすと、生地が湯の中に流れてしまうので注意。
・
味の感じ方は温度によって変わる。柚子果汁を温めて使うため、柚子に含まれる酸味、苦み、甘みの感じ方の違いを考慮して好みで調味する。
・
酸味は温度による感じ方の変化があまりない。
苦みは低温から体温に近い温度で強く感じ高温で弱く感じる。
甘みは体温に近い温度で一番強く感じ、体温より低くなるにしたがって弱く感じる。
「冬至かぼちゃ」
【材料(作りやすい分量)】・かぼちゃ 400g
・小豆 50g
・出汁 700cc
・薄口醤油 大さじ1
・濃口醤油 大さじ2
・砂糖 60g
・柚子 適量
【作り方】1.小豆をもどす。大きめの鍋に1.5Lほどの湯を沸かし、洗った小豆を入れて再度沸いたら火を落として5〜6分炊く。水を1Lほど加えて茹で湯の温度を下げ、小豆の表面と内部の温度を近くして小豆全体に均一に火が入るようにする。温度が下がったら強火にして、沸いたら火を弱めて5〜6分炊くと、茹で汁が茶色くなってくるので、小豆をざるに上げて茹で汁を捨て、渋切りする。別に沸かしておいた湯1.5Lに小豆を入れて踊らないようにあくをすくいながら弱火で炊く。小豆が柔らかくなったらざるに上げ水気をきる。この段階まで最初から50分くらいかかる。
2.かぼちゃは皮をむいて一口大に切る。皿に並べ湯気の立った蒸し器に入れて10分蒸す。鍋にかぼちゃと1の小豆を入れ出汁を注いで火にかける。沸いたら弱火にして調味料を加えて、10〜13分炊いて火からおろす。そのまま20分以上おいて味を含ませ、温め直して器に盛る。柚子の皮の黄色い部分のみを細いせん切りにして添える。
「柚子葛切り」
【材料(4人分)】・本葛粉 1/2カップ
・水 1カップ
・柚子ジュース(100%果汁) 80cc
・白蜜(水2:グラニュー糖1の割合) 80cc
・柚子 少々
【作り方】1.「
葛切り」を作る。ボウルに分量の水を入れ、本葛粉を加えて1~2分おく。泡立て器でよくかき混ぜて本葛粉を完全に溶かし、茶こしなどでこす。完全に溶けていれば、こす工程は省いてもよい。
2.大きめの鍋と、それに入る小さめのステンレス製バットを用意する。大きめの鍋には容量の半分ほどの湯を沸かしておく。
3.1を本葛粉が沈殿しないように再度かき混ぜ、バットに3~4mmの厚みで流す。
4.バットをやっとこやペンチなどではさみ、底面を鍋の沸いた湯に当てて、バットの中で生地を前後にくり返し揺らして加熱する。生地が半透明になったらバットごと湯の中に落とす。
5.湯に沈んだバットの中の生地が透明になり、茹で上がったら、湯から引き上げてバットごと用意しておいた氷水に入れる。すぐに冷えるのでバットを氷水から取り出し、フライ返しなどで生地を外してまな板の上にのせ、お好みで7~8mm幅に切る。
6.柚子蜜を作る。鍋に水を入れ、水の半量のグラニュー糖を加えて混ぜ溶かす。火にかけ沸いたら弱火にし、2分ほど炊いて白蜜にする。別の鍋に分量の白蜜と柚子ジュースを入れて火にかけ80℃くらいに熱する。
7.鍋に湯を沸かして5の葛切りを加え、温まったらざるに上げて器に盛る。6の柚子蜜を注ぎ、柚子の皮の黄色い部分のみをおろし金で削ったものを、先を切った茶筅で振りかけて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗