プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 長ひじきと冬野菜のきんぴら
今日は季節のおばんざいとして、長ひじきと冬野菜のきんぴらを紹介します。ひじきの煮ものの定番具材の一つがにんじんですね。通常は西洋にんじんが使われますが、今の時期はぜひ金時にんじんを使ってみてください。料理のグレードが一気に上がります。
金時にんじんは甘みが強いので、多めに加えれば、甘み調味料は最小限でよくなります。西洋にんじんに比べて青臭さの元になるカロテンが少ないため、多く加えてもにおいは気になりません。リコピンが豊富で、色は鮮紅色。ひじきと一緒に料理すると赤と黒のコントラストが際立ち、その美しさは印象的でついつい引き込まれます。
長ひじきは「
秋野菜とコリンキー、長ひじきの柑橘酢和え」で既に紹介していますが、ひじきの茎部分なので歯ごたえがあり、炒めものや和えものに向いています。今回はきんぴらの調理法で、季節野菜を加えてきんかんをアクセントにして仕上げます。
赤と黒のコントラストは「
秋野菜の吹き寄せ」の赤と黒の塗り分け鉢、「
金時にんじん酒肴3種」の黒の器に金時にんじんで紹介しました。赤と黒の組み合わせは、洗練されつつも強いメッセージ性を感じさせる配色です。大和言葉の「あか」と「くろ」は、それぞれ「あかるい」「くらい」と同源で、昼と夜の関係にも通じているともいわれます。仏教や神道の世界にも「黒と赤」は欠かすことができません。同じ楽焼でも、利休が好んだ黒茶碗と秀吉が好んだ赤茶碗は対照的です。例を挙げればきりがありませんが、人は赤と黒の組み合わせに何かを感じ、魅了されるのでしょう。
ところで毎月紹介している季節のおばんざいを盛りつけているこの器は、六雁がオリジナルでデザインした兜鉢(甲冑の兜をひっくり返した意匠)です。おばんざいのような庶民的で身近な料理は、少しエッジが立った緊張感のある器に盛ると映えます。
海音寺潮五郎の歴史小説『天と地と』を原作にした映画で、赤い甲冑の武田軍と黒い甲冑の上杉軍の激突が印象的で記憶に残っています。長ひじきと金時にんじんのきんぴらも“美"と“味"でご家族の印象に残る料理になればと思います。つまり“美味"しいということですね(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「長ひじきと冬野菜のきんぴら」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・乾物料理全般にいえることだが、乾物に生の野菜を加えることで、干からびていた(減少していた)乾物のエネルギーが甦る。
・ひじきは砂を含んでいる場合がある。最初の水もどしを丁寧に。
・長ひじきと金時にんじんは太さと長さを揃えると美しく食感もよい。
・ひじきと金時にんじんを一緒に調味すると味が重たくなる。金時にんじんは別で調味して最後にひじきと合わせて味のメリハリをつける。
・金時にんじんは甘いので、ごま油と塩だけで炒めて甘みを引き出す。
・金時にんじんの量を増やす場合は、その分、ひじきに加えるみりんを減らす。
「長ひじきと冬野菜のきんぴら」
【材料(4人分)】・長ひじき(もどしたもの) 200g
長ひじき用調味料:ごま油大さじ1、みりん大さじ2、塩少々、濃口醤油小さじ2と1/2
・金時にんじん 80g
金時にんじん用調味料:ごま油大さじ1弱、塩少々
・きんかん 3〜4個
・れんこん 30g
・水菜 10g
・ふき(茹でたもの) 1/2本(30g)
・かぼちゃ 50g
・揚げ油 適量
【作り方】1.大きめのボウル2つに水を用意し、1つに長ひじきをつけてもどす。15分ほどしてある程度もどったらひじきをすすぐように混ぜ、両手ですくってもう1つのボウルに移し、さらに5~10分ほどもどす。最初のボウルの底に砂が沈殿している可能性があるので、ひじきだけを手ですくって移すこと。ひじきが十分にもどったら、何回かに分けて両手でひじきをすくってざるに上げる。長い場合は5cmくらいに切り揃える。
2.金時にんじんは皮を薄くむき、もどした長ひじきと同じくらいの大きさになるように3mm角×5cm長さに切る。櫛刃を付けたスライサーを用いてもよい。
3.きんかんはヘタを除いて縦に4等分する。れんこんは皮をむいて3mm厚さにスライスして、きんかんと同じくらいの大きさに切る。水菜は3.5cm長さに切る。
4.たっぷりの湯を沸かし、塩(分量外)でもんだふきを入れ3〜4分茹でて冷水に放す。冷めたら水をきり、上下から筋を取り、4mm角×3.5cm長さに切る。「
干し柿なますの煮こごり」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
5.かぼちゃは皮をむいてを櫛刃を付けたスライサーで繊維にそって2mm角×4cm長さにスライスする。水に放してでんぷんを流す。水気をきって160~170℃の油でカリッと揚げて、クッキングペーパーに広げて余分な油を除く。
6.フライパンを火にかけてごま油をひき、金時にんじんを加えて食感が残るように手早く炒め、塩少々で味をつけて火から下ろす。
7.別のフライパンを火にかけてごま油をひき、水分をよくきったひじきとれんこんを加えて炒める。油が回ったら調味料をすべて加え、混ぜながら炒める。全体に味がなじんだら、きんかんとふきを加えて鍋をあおるように炒め、20秒くらいしたら水菜と金時にんじんも入れる。
8.7を器に盛り、揚げかぼちゃをのせて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗