プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> かちんがゆ、カリフラワーの白味噌仕立て
今日は「かちんがゆ」と白味噌の味噌汁を紹介します。古の京都っぽさを感じられるかもしれません。それもそのはず、かちんがゆの「かちん」とは御所言葉(ごしょことば)で餅のことなのです。
御所言葉とは宮中や院に仕える女官たちが使っていた話し言葉で、女房詞(にょうぼうことば)ともいわれます。その一部は現在でも用いられ、特に食べものと体に関する表現が多いようです。
「あかのおばん(小豆飯)」「あかのくご(赤飯)」「おじや(雑炊)」「かべ、おかべ(豆腐)」「むし(味噌)」「おしたじ(醤油)」「おしわもの(梅干)」など、耳にしたことがあるのではないでしょうか。
こんがり焼いた餅を、作りたてのかゆと合わせて梅干しの風味と塩味でいただく。見方によってはなんと贅沢な食事でしょう。合わせるのは京都の西京味噌でこっくり仕立てた味噌汁。「とろみが強い」「深みがある」という意味でよく「こっくり」と形容されますが、白味噌仕立てのおいしさをよく表しています。
寒い冬には“はんなり”と、“こんがり”焼いた餅“入り”かゆと、“こっくり”仕立てた味噌汁が“ぴったり”。ただでさえ気忙しい年の瀬にとんだ戯れ言を失礼しました。「おもなし(面白くない)」と私の“女房”に“御所言葉”で叱られそうです(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「かちんがゆ」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・かゆは米から時間をかけてゆっくりと炊き、わずか数分の美味のピークを逃さず食する。
・かゆの炊き上がりと餅が焼けるタイミングを合わせる。餅のカリッとした食感と焼けた風味がサラッとしたかゆと相まって絶品になる。
・薄い塩味のかゆと塩漬けの梅干しに、焼いた餅に塗った醤油味が合わさり、メリハリがありながらも全体としてはちょうど良い塩味になる。
・かちんがゆだけを作るなら、そこに茹でた(または焼いた)カリフラワーを加えてもおいしい。
・「カリフラワーの白味噌仕立て」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・現在の西京味噌は滑らかにこしてあるので、昔のように何度も裏ごしする必要はない。こして温めなおすことを繰り返すうちに、味噌の香りが加熱によって弱まる。
・仕上げに日本酒を加えることで香りが立つ。日本酒に含まれる芳香成分は、発酵・熟成過程で原料の米の成分が麹菌などの酵素作用によって分解されて作られるため、同じく米と麹が主原料の西京味噌にはよく合う。
「かちんがゆ」
【材料(3人分)】・米 1カップ(180cc)
・水 1260cc
・塩 少々
・角餅(丸餅でもよい) 3個
・濃口醤油 少々
・梅干し 1個
【作り方】1.かゆを炊く30分以上前に米をとぎ、ざるに上げておく。
2.熱が全体に回りやすい土鍋(なければ蓋付きの鍋)に、米と水を入れて蓋をして火にかける。
3.沸いたらとろ火にし、蓋を少しずらして、40~45分くらいかけてゆっくり炊く。
4.角餅は半分に切ってオーブントースターでこんがり焼く。仕上げに濃口醤油を刷毛で片面に薄く塗る。
5.かゆが炊き上がって、米の粒がふっくらと花が咲いたように開いたら、ごくごく少量の塩を加える。粒がくずれないように、一度だけ、さっとかき混ぜ火を止める。すぐに椀に盛って焼きたての餅を入れ、ちぎった梅干しを添えて供する。
「カリフラワーの白味噌仕立て」
【材料(3人分)】・カリフラワー 1/4〜1/3株
・出汁 400cc
・西京味噌 120g
・日本酒 大さじ2
・練り辛子 少々
【作り方】1.カリフラワーは茎側から切り込みを途中まで入れ、手で裂いてから包丁で一口大の小房に分ける。鍋に湯を沸かしカリフラワーを入れて堅めに茹で、水に放さずざるに上げて薄く塩(材料外)をふって1分ほどおく。
2.鍋に出汁を注いで火にかけて80℃くらいになったら、西京味噌を溶き入れる。カリフラワーを加えて、味噌汁が90℃を超えたくらいで日本酒を加えて火からおろす。椀にカリフラワーを盛って汁を注ぎ、練り辛子を少量の味噌汁で伸ばした溶き辛子を添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗