プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> ゆり根の蜜煮、焼きゆり根の梅もろみ和え
ゆり根の栽培には長い年月がかかり、畑に植えつけるまでに3年、畑に植えてからも大きく育てるにはさらに3年を要します。栽培中につく花のつぼみはすべて切り落として地下茎を肥やします。冬には土から掘り出しておがくずの中で越冬させ、春に土へ返すという作業を3年繰り返して収穫できるようになります。
ゆり根は、塩分排出を促し血圧の上昇を抑える働きがあるカリウムを多く含みます。葉酸も多く含まれるので貧血対策になり、食物繊維も豊富で便秘にも効果的です。
ゆり根は火の入れ方次第で食感が変わります。軽く火を入れるとシャキシャキした食感になり、火を通すにつれてほくほくからねっとりした食感に。さらに加熱するとくずれてピュレ状になります。ゆり根を使った料理は「
ゆり根のかき揚げ、揚げ出し」「
ゆり根最中」「
ゆり根きんとん」など紹介してきましたが、茶碗蒸しや卵とじにしてもおいしいですね。
明日、料理屋のおせちが届くご家庭もあるかもしれませんが、その中に牡丹の花に見立てたゆり根の蜜煮が入っているかもしれません。今日は牡丹ゆり根の蜜煮を教えましょう。
牡丹は艶やかな大輪の花を咲かせ、百花の王と呼ばれ、その美が古よりたたえられてきました。その一方で、「富貴でも時節の菰(こも)は着る牡丹」という諺もあります。「富貴花」といわれる牡丹であっても、美しい花を咲かすには寒中に藁(わら)のこもを巻いて、寒さに耐えて春を待つ。
どんなことでも困苦の時節を乗り越えなければ成功にはつながらないという教えです。
若い頃、おせち用に何百という牡丹ゆり根を寒い中、かじかむ手でむいていました。その頃は“辛い”だけでしたが、この諺を知っていれば単なる作業としてではなく、想いを込めて取り組めたのかもしれません。“辛い”に“一”つ何かを足せば“幸”になる。その一つを見つければ野菜料理をもっと楽しめるでしょう。私の修業はまだまだ続きます。
ちょっとしたコツ
・「ゆり根の蜜煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・火を通し過ぎるとゆり根がくずれる。
余熱も考えて加熱する。
・
煮くずれが心配な場合はミョウバンを使用するとよい。水1Lに対してみょうばんを大さじ1/2(1.5g)を溶かした中へゆり根を2~3時間浸して水洗いした後に炊く。みょうばんのアルミニウムイオンが細胞壁のペクチンと結合するため、煮くずれ防止効果がある。
・「焼きゆり根の梅もろみ和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・主たる味が甘みと塩分であるもろみに、
梅肉を加えることで味が軽やかになり風味が増す。
・
ゆり根は蒸しただけでなく、焼き目をつけること(メイラード反応。「
筑前煮」参照)で香ばしさが加わり、梅もろみとうまく調和する。
「ゆり根の蜜煮」
【材料(2人分)】・ゆり根(内側の花のような形になった中心部分) 2個
・日本酒 60cc
・みりん 60cc
・きび砂糖 10g
・柚子 少々
【作り方】※ゆり根の下処理は「
ゆり根のかき揚げ、揚げ出し」参照。中心部分はゆり根の蜜煮に使い、先にはがした大きな鱗片は「焼きゆり根の梅もろみ和え」に使う。残った鱗片は「
ゆり根のかき揚げ」や「
ゆり根きんとん」などに使うとよい。
1.ゆり根の内側にある花のような形になった中心部分は水で洗い、水分を布巾で拭き取る。鱗片のそれぞれの先の部分だけ、包丁で斜めにカットし牡丹に見立てる。先の部分は鱗片が薄く、加熱したときにその部分だけ先に柔らかくなってくずれてしまう。先を切り取ることで均一に火が入り、単なる飾り包丁以上の意味がある。
2.小さめの鍋に焦げつき防止のオーブンペーパーを敷き、その上にゆり根を入れて調味料を加える。鍋のサイズに合わせて切ったオーブンペーパーをゆり根にかぶせ、さらに落し蓋をして中火にかける。
3.沸いたらすぐにごく弱火にして4分ほど静かに炊く。重なったゆり根の鱗片が少し開いて透き通り始め、指で押さえて柔らかくなっていたら火が通っている。余熱を考えて少し早めに火から下ろし、氷水を入れたボウルに鍋ごとつけて急冷する。加熱時間はゆり根の大きさや質によって変わるが、3分ほど炊いたら落し蓋を外してゆり根の状態を確認して、残りの加熱時間を増減する。
4.ゆり根を器に盛り、柚子の黄色い皮の部分のみをおろし金で削り、先を切った茶筅でふりかける。
「焼きゆり根の梅もろみ和え」
【材料(2人分)】・ゆり根の大きめの鱗片 10枚(40g)
・もろみ 30g
・梅肉 10g
【作り方】1.鱗片の周囲の薄い部分は面取りして除く。ゆり根を皿に並べて蒸気の上がった蒸し器に入れ、3〜4分蒸す。蒸し上がったら予熱したオーブントースターに入れてところどころに焦げ目がつくくらいに焼く。
2.ボウルにもろみと梅肉を入れて混ぜる。ゆり根を加えて梅もろみで和えて器に盛る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗