千枚漬け、サイコロかぶ
明けましておめでとうございます。本年も「野菜料理のちょっとしたコツ」の御愛読よろしくお願い申し上げます。
新年最初の料理には華やかに鶴と亀の器を使いました。野々村仁清写しの鶴鉢には千枚漬けを盛りました。おせち料理でおなかが満たされた後、もう少し飲みたいときにぴったりの酒肴です。
千枚漬けの名の由来は、かぶを薄く切って大樽に漬け込む際、その枚数が千枚を超えるからといわれます。薄く切るのでたくさんという意味での千枚かもしれませんが、いずれにしても千倍万倍と繁栄につながる正月にぴったりのめでたい料理です。
千枚漬けは江戸時代、孝明天皇の宮中で大膳寮(だいぜんりょう)に仕えていた料理人が考案したとされます。漬けもの屋に売られていたかぶの漬けものにひらめき、料理経験をいかして聖護院の里のかぶで浅漬けを作り、天皇のお褒めを賜ったといわれます。当時、漬けものといえば味の濃い保存食だったところに登場した、淡い薄味の浅漬けが大評判になりました。
千枚漬けは皮を分厚くむいて使うため大かぶのほうが使い勝手がよく、4kgから5kgほどに成長する、日本一大きいとされる聖護院かぶらが使われます。柔らかくて上品な味わいをもつ大かぶです。千枚漬けは壬生菜と合わせることが多く、聖護院かぶらを御所の白砂に、緑の壬生菜をお庭の松に、黒い昆布を庭石に見立てて御所の瑞兆を表すとされます。
かつては、かぶをスライスして塩漬けにした後に、昆布だけで本漬けを行い乳酸発酵をさせ、かぶ本来の甘み、乳酸発酵の酸味、昆布の旨みのバランスをとる漬けものでしたが、現在は塩漬けをした後に昆布・赤唐辛子・みりん・砂糖・酢・調味料を使って酢漬けにします。
漬けものというよりむしろ料理に近く、そのルーツが料理人にあることがうなずけます。浅漬けなのであっという間にできますし、仕上がるのに何か月もかかる漬けものと違い、保存場所も不要です。漬けもの屋が使えないような高級な昆布を贅沢に用いておいしく仕上げても、市販品よりかなり安くできます。甘みも酸味もお好みのまま、と聞けばそりゃ作りますよね(笑)。
今日は家庭でも手軽にできる方法をお教えします。千枚漬けには使えないヘタ部分は双六(すごろく)にちなんで「サイコロかぶ」にします。では今年も決まり文句を言い続けます、千枚漬けにちなんで千回でも(笑)。野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「千枚漬け」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・皮を厚め(5mmほど)にむいて中の柔らかい部分のみを千枚漬けに使う。皮部分は繊維が多く口あたりが悪くなる。皮はせん切りにして、茹でた葉を刻んだものと一緒に「大阪漬け」にするとよい。レシピ参照。
・他の漬けものと違い、長期保存を目的としていないので2、3日で食べ切る。
・日本酒にはわさびをピリッときかせた千枚漬けを。ワインにはライムの香りとピンクペッパーで華やかに。
・「サイコロかぶ」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・柚子果汁のみでは苦くて酸っぱいので好みの量の甘酢で割って漬ける。
・柚子果汁がない場合は柚子の皮の千切りと一緒に甘酢に漬ける。
「千枚漬け」(上)
【材料(作りやすい分量)】
・聖護院かぶら 1個(皮をむいて550g)
・塩 7g
・かぶから出た水分 60cc
・みりん 60cc
・砂糖 60g(好みで増減)
・酢 280cc
・昆布 15g
・本わさび(チューブ入り練りわさびでもよい) 少々
・すだち 1個
・オリーブオイル(好みで) 少々
・ピンクペッパー 少々
・ライム(すだちでもよい) 少々
・塩昆布(みじん切り) 少々
【作り方】1.聖護院かぶは葉茎を落として黄色の堅い繊維がなくなる部分まで5mmほどの厚さで皮をむく。先の部分は直径が小さいので、先端から1.5~2㎝を切り落とす。葉がついていたほうを上にしてスライサーにセットして手のひらで押さえ、2.5~3mm厚さに丸のままスライスする。葉がついていた部分まで1.5~2cm程度になったら、そこから先は繊維が堅くなるのでスライスをやめて、残りはとっておく。大型のスライサーがない場合はかぶを半分に切ってスライスすればよい。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真参照。
2.スライスしたかぶに塩をふり、大きめのボウルの内側に少しずつずらして並べる。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真参照。しんなりしてきたら、かぶを漬けもの器に移して圧をかけ3時間ほど下漬けする。
3.かぶを漬けもの器から取り出してざるに上げて水分をきる。かぶから出た水分は60ccだけ取り置き、残りは捨てる。水分がきれたら、かぶをボウルに入れる。かぶから出た水分、みりん、砂糖、酢を加えてよく混ぜ、調味液を作る。漬けもの器にかぶと小さめに切った昆布を交互に重ね、調味液も加えて圧をかけ丸一日、本漬けする。
4.千枚漬けのわさび巻きを作る。漬け上がった千枚漬けを扇形になるように1/4(かぶの大きさにもよる)に切る。三角錐になるように巻いて、開いたところにわさびを少量のせる。すだちの果汁をかけて供する。
5.千枚漬けのライムとピンクペッパー風味を作る。千枚漬を2枚重ねて1/4の扇形になるように切る。ライムの皮をすりおろしたものをふりかけ、ピンクペッパーをひいてかける。塩昆布を散らしてライムの果汁を少量かける。好みでオリーブオイルをごく少量たらしてもよい。
「サイコロかぶ」(下)
【材料】・聖護院かぶ(千枚漬けを作った際に残った両端部分) 適量
・塩 適量
・りんご酢(市販品の飲むりんご酢) 適量
・柚子果汁 適量
・甘酢 適量
作りやすい分量:昆布出汁(水1Lに昆布10g)450cc、酢300cc、砂糖100g
・ブルーベリー酢(市販品の飲むブルーベリー酢) 適量
【作り方】1.千枚漬けを作った際に残った、聖護院かぶの先と葉つき部分を1.5~2cm角に切る。
2.塩分濃度3%の塩水を作り、1を4~5時間漬けてしんなりしたらざるに上げ、水分をきり軽く絞る。
3.柚子果汁と甘酢を1:1で合わせる。
4.かぶを3等分して、それぞれりんご酢、ブルーベリー酢、3の柚子酢に丸一日漬ける。仕上がった柚子酢漬けには柚子の皮をすりおろしたものをふりかける。
「大阪漬け」
※参考レシピ
節約主義の野菜の使い方から「大阪漬け」と呼ばれる。
【材料】・かぶの皮 適量
・かぶの葉と茎 適量
・塩 適量
・千枚漬けに使用した後の昆布 適量
・赤唐辛子 少々
・柚子の皮(せん切り 好みで) 少々
【作り方】1.千枚漬けを作る際にむいたかぶの皮を細切りにする。葉と茎は茹でて水に放し、水気を絞って小口切りにする。
2.皮と葉、茎を合わせて、全体の重さの2%の塩をふりかけ1時間ほどおく。水分を絞って千枚漬けに使用した後の昆布、赤唐辛子、好みで柚子の皮も加えて漬けもの器に入れ、圧をかける。5時間から一晩程度で食べられる。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。