酒肴紅千枚(しゅこうべにせんまい) 赤かぶの卯の花挟み・紅くるりの揚げごぼうとナッツのせ
ここ数日、渋い料理が続いたので、松の内らしく華やかな野菜酒肴をご紹介しようと張り切っていましたが、地域によって松の内の期間が違うことを思い出しました。
松の内とは正月の門松を飾る期間のことで、江戸時代初期までは小正月である1月15日までが松の内で、20日に鏡開きをするというのが正月の流れでした。ところが、徳川家光が1651年4月20日に死亡すると、毎月20日が月命日となり、月命日に鏡開きをするのはよくないということで、鏡開きが11日に変更されます。それに伴い、関東を中心とした地域では松の内が7日までとなりました。しかし、これは全国に浸透したわけではなく、関西などでは松の内が15日のままの地域があるなどさまざまです。松の内をいつまでとするかはさておき、今日は真っ赤な大根とかぶを使って晴れやかな酒肴をどうしても作りたいと思います……頑固なので(笑)。
大根は全国に少なくとも100種、かぶは80品種があるといわれます。その中には赤大根、赤かぶと呼ばれる赤い品種があります。昔から赤には邪気を払う力があるとされていることはこれまで繰り返しお話ししてきましたが、色彩的には愛・情熱・興奮などの意味があるそうです。確かにそんな感じがしますね。
左が赤大根の「紅くるり」、右が赤かぶ。今日使う「紅(べに)くるり」は皮だけでなく中まで鮮紅色をした新品種の赤大根です。これまで使った紅芯大根(「
千波大根の磯辺風味」、「
洋梨と秋野菜の柚子こしょう和え」)が堅い肉質で水分が少ないのに対して、紅くるりはみずみずしく柔らかいのが特徴です。
赤かぶは薄紅に染まった赤かぶ漬けで有名ですが、生の状態では赤いのは皮だけで中は白っぽい色をしています。塩漬けした後に調味料を加えて本漬けすると、数週間で全体が薄紅に染まります。今日は即席で紅色に染まる方法もお教えしましょう。
「嫌よ嫌よも好きの内」と燃え盛る我が愛と情熱で赤く染めるのか? 「鳴くまで待とうホトトギス」の精神で赤く染まるまで待つか? 松の内(待つの内)にゆっくり考えてみます。お粗末(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「赤かぶの卯の花挟み」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・赤かぶは酢炒りすると全体が赤く染まる。
・他の方法として、スライスした赤かぶを塩でしんなりさせた後、甘酢に1週間以上漬ければ皮から色素がしみ出し全体的に薄紅になる。しかし、酢炒りした場合よりも甘酢に色が溶出する分、色が薄くなる。
・酢炒りの仕上げに微量のくせのない油を加えることで味に奥行きとつやが出る。
・酢炒りした後、鍋ごと氷水で急冷してかぶの歯ごたえを残す。
・「紅くるりの揚げごぼうとナッツのせ」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・オリーブオイルがこくを、揚げごぼうとナッツ類が食感と旨みを、紅玉が風味をプラスしておいしくなる。
・紅くるりはひたひたの甘酢に漬ける。甘酢の量が多いと赤色が薄くなる。
・甘酢の代わりに飲む果実酢などで漬けてもよい。
「赤かぶの卯の花挟み」(左)
【材料(3人分)】・赤かぶ 1/2個(80g)
・酢 90cc
・砂糖 大さじ1と2/3
・赤唐辛子(好みで) 少々
・サラダ油 少々
・おからの酢炊き 適量 「
おからの酢炊き」参照
【作り方】1. ごぼう、こんにゃく、しいたけ、にんじんを具材にし、おからの酢炊きを作っておく。「
おからの酢炊き」参照。
2.赤かぶを酢炒りする。赤かぶはきれいに洗って皮のままスライサーで2mm厚さにスライスする。
3.フライパンを火にかけ、熱くなってきたら1の赤かぶと酢、砂糖を加えて強火にし、鍋を返しながら、歯ごたえを残すため一気に調味料をからめていく。刺激がほしい場合は種を抜いた赤唐辛子を加えてもよい。調味料が少なくなってきたら、サラダ油を数滴落として全体にからめて火からおろす。ボウルに入れた氷水にフライパンの底をあてて急冷する。「
新れんこんの酢蓮2種」も参照。
4.赤かぶの酢をきってバットに広げる。真ん中におからの酢炊きを適量のせて2つに折る。
「紅くるりの揚げごぼうとナッツのせ」(右)
【材料(3人分)】・紅くるり(紅芯大根でもよい) 1/4本
・塩 少々
・甘酢 適量
作りやすい分量:昆布出汁(水1L に昆布10g)450cc、酢300cc、砂糖100g
・ごぼう 15cm
・揚げ油 適量
・白こんにゃく(黒こんにゃくでもよい) 適量
こんにゃくの煮汁:出汁100cc、濃口醤油小さじ2、みりん小さじ1
・ラディッシュ 1個
・オリーブ油 少々
・りんご(紅玉) 適量
・ピスタチオ 適量
・アーモンドスライス(ローストしたもの) 適量
【作り方】1.紅くるりを甘酢漬けにする。紅くるりはきれいに洗って皮のままスライサーで2mm厚さにスライスする。塩辛くない程度に塩をふり、しんなりしたら水気を布巾で除く。かぶがひたひたにつかるくらいの量の甘酢に漬けて、上からラップをぴったり貼りつけ1時間以上おく。
2.ごぼうは5cmに切って櫛刃をつけたスライサーで2mm角×5cm長さのせん切りにし、さっと水で洗って水気をきる。フライパンに揚げ油を入れて、150〜160℃に熱してごぼうを入れる。きつね色にカラッと揚がったらクッキングペーパーに広げて余分な油を除く。
3.白こんにゃくは6mm角に切って下茹でし、こんにゃくの煮汁で10分ほど炊いて20分以上味を含ませる。
4.ラディッシュはスライサーで1mm強にスライスし、水に放し水気をきる。りんごは皮つきのまま1.5cm長さのせん切りにする。
5.紅くるりの酢をきってバットに広げて揚げごぼう、ラディッシュを盛り、ラディッシュにオリーブオイルを1滴たらす。白こんにゃくとりんごのせん切りを添え、ピスタチオとアーモンドスライスを散らす。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。