野菜のかぶら蒸し2種
旬を迎えた聖護院かぶらは、きめ細かで柔らかく甘みがあります。
千枚漬けやかぶら蒸し、煮もの、汁ものなどに重宝され、冬の日本料理には欠かせない存在です。
聖護院かぶらと昨日の聖護院大根(「
聖護院大根の煮もの」)はどちらも京野菜で名前、旬、大きさ、見た目が大変似ていますね。一般的なかぶと大根は、丸いのがかぶで細長いのが大根と一目瞭然ですが、聖護院大根は丸々とした形をしており、かぶのようにも見えます。大根はその名の通り、根の部分が太くなるのですが、かぶの可食部分は根ではなく、そのほとんどが胚軸(はいじく)と呼ばれる部分が肥大したもので、畑で育つときも土の上に出ています。見分け方としては聖護院かぶらが扁平な丸さであるのに対して、聖護院大根は楕円型で茎の付け根が淡い緑色をしています。
聖護院大根。聖護院かぶら。聖護院かぶらは日本最大級のかぶとして知られ、重さが1.5~4㎏、直径15㎝を超えるものもあります。肉質が柔らかく上品な味わいが特徴で、今日はかぶら蒸しにします。すりおろしたかぶにあつあつのあんをかけて食感はふわふわとろり。寒い日のごちそうにぴったりです。
料理屋はかぶら蒸しに甘鯛やうなぎなどを具材として使い贅沢に仕上げますが、今回は色とりどりの野菜を合わせて、かぶ自体のおいしさを堪能します。従来型のふわふわのかぶら蒸しとは別に、かぶの食感を残したかぶら蒸しもお教えします。このかぶら蒸しはプロでもまだ知らない人が多いでしょう。
“かぶ”蒸しではなく、なぜ“かぶら”蒸し? 関西圏以外の方はそう思われるかもしれませんね。現在では関西地方の方言としての「かぶら」が料理名に使われています。“かぶら”が女房詞(にょうぼうことば。宮中に仕える女性たちの言葉。「
かちんがゆ」参照)では「おかぶ」と呼ばれ、後に「お」が省略されて“かぶ”となりました。
今日お教えするかぶら蒸しを覚えて、プロの料理人の“おかぶ(御株)”を奪い、野菜料理を楽しみましょう(笑)。
ちょっとしたコツ
・「野菜のかぶら蒸し」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・ふわふわの口あたりにするには、
皮を厚くむき、細かい目のおろし金でかぶをすりおろす。
・すりおろしたかぶをざるに上げて、かぶの水分を自然にきる方法もあるが、時間をおくとにおいが出る。
おろしたてのかぶを軽く押さえて水分を抜き、すぐに用いる。
・
かぶの塩味は薄めにし、かぶの甘みを引き出す程度にとどめる。
あんをかけることでちょうどよい味になる。
・
卵白は角が立つ少し手前まで泡立てて、かぶとなじむように混ぜ、蒸す際は
強火で蒸す。
・残った皮や茎は「
千枚漬け」で紹介した大阪漬けにするとよい。
・「野菜のせん打ちかぶら蒸し」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・
かぶを繊維の流れに沿った粗めのせん切りにして、蒸しても歯ごたえが残るようにする。
・蒸し上がったら、器の中にたまった
かぶから出た水分をクッキングペーパーで吸い取り、あんをかける。
・揚げたそば米をかけることで油分と食感が加わりおいしくなる。
「野菜のかぶら蒸し(右)」
【材料(3人分)】・聖護院かぶら(普通のかぶでもよい) 1/3〜1/2個(すりおろして水分を絞って130g)
・塩 1g弱
・卵白 1/3個分
・生きくらげ(乾燥きくらげでもよい) 少々
・吹き寄せ 適量 「
秋野菜の吹き寄せ」参照
・銀あん 約230cc
出汁200cc、塩0.5〜1g、薄口醤油小さじ1/4、水溶き葛(葛粉1:水2。片栗粉でもよい)30cc
・柚子こしょう 少々
【作り方】1.聖護院かぶらは葉茎を切り取り、黄色い堅い繊維がなくなるまで5mmほどの厚さで皮をむく。細かい目のおろし金ですりおろしてクッキングペーパーをのせたざるに上げる。クッキングペーパーの上から軽く押さえ、最初の半分くらいの重量になるまで水分を抜く。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
2.生きくらげはさっとゆでてせん切りにする。卵白を角が立つ少し手前まで泡立てる。「
秋野菜の吹き寄せ」を参照して吹き寄せを作る。
3.1の聖護院かぶらをボウルに入れ、塩少々ときくらげを加えてよく混ぜる。卵白も加え、かぶとなじむようにさっくり混ぜる。
4.器に温かい吹き寄せを適量盛り、3のかぶをこんもりかぶせて、蒸気の上がった蒸し器で強火で5〜6分蒸す。
5.蒸している間に銀あんを作る。具材の吹き寄せに味がしっかりついているので、通常の銀あんより薄めの味にする。鍋に出汁を入れ、火にかけて調味料を加え、沸いたら弱火にする。水溶き葛を加えてよく混ぜ、粉臭さがなくなるまで30秒ほど炊く。
6.蒸し上がったら、蒸し器から出して器の底にたまった水分をクッキングペーパーで吸い取る。銀あんをかけて柚子こしょうをのせる。
「野菜のせん打ちかぶら蒸し(左)」
【材料(3人分)】・聖護院かぶら(普通のかぶでもよい) 1/4〜1/3個(塩をふり水分をきった状態で180g)
・塩 少々
・卵白 2/3個分
・べっこうあん
出汁200cc、みりん小さじ1、薄口醤油小さじ1、濃口醤油小さじ1、水溶き葛(葛粉1:水2の割合)30cc
・カリフラワー(ロマネスコ 普通のカリフラワーでもよい) 適量
・生きくらげ(乾燥きくらげでもよい) 適量
・ぎんなん 適量
・ゆり根 適量
・赤こんにゃく(黒こんにゃくでもよい) 適量
こんにゃくの煮汁:出汁100cc、薄口醤油小さじ2弱、みりん小さじ1強
・そば米 適量
・揚げ油 適量
・本わさび(市販のチューブ入りわさびでもよい) 少々
【作り方】1.聖護院かぶらは葉茎を切り取り、黄色い堅い繊維がなくなるまで5mmほどの厚さで皮をむく。スライサーを使ってかぶを繊維に沿って2mm厚さでスライスする。かぶを少しずつずらして重ね、2mm幅のせん切りにする。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
2.1に薄く塩をふって5〜6分おき、クッキングペーパーに挟んで水分を除く。
3.カリフラワーは茎側から切り込みを途中まで入れ、手で裂いてから包丁で1.5cm角の小房に分ける。鍋に湯を沸かしカリフラワーを入れて堅めに茹で、水に放さずざるに上げて薄く塩をふる。
4.生きくらげはさっとゆでて1cm角に切る。
5.ぎんなんは殻と薄皮をむいて140℃くらいの揚げ油で翡翠色になるように2分ほど揚げ、クッキングペーパーに広げて薄く塩をふる。
6.ゆり根は大きくて厚い鱗片は1.5cm角に、真ん中近くの小さな鱗片はそのままで3〜4分蒸して薄く塩をふっておく。ゆり根の下処理は「
ゆり根のかき揚げ、揚げ出し」参照。
7.赤こんにゃくは5mm角×2.5cm長さに切って下茹でして、水に放してもみ洗いする。水気をきってこんにゃくの煮汁で10分ほど炊き、20分以上味を含ませる。
8.そば米は160℃の油で揚げてクッキングペーパーに広げて余分な油を除く。卵白を角が立つ少し手前まで泡立てる。
9.2のかぶをボウルに入れて卵白を加え、かぶと卵白がなじむようにさっくり混ぜる。器に3~7の具材を盛りかぶらをこんもりかぶせて、蒸気の上がった蒸し器で強火で4〜5分蒸す。
10.蒸している間にべっこうあんを作る。鍋に出汁を入れ、火にかけて調味料を加え、沸いたら弱火にする。水溶き葛を加えてよく混ぜ、粉臭さがなくなるまで30秒ほど炊く。
11.蒸し上がったら、蒸し器から出して器の底にたまった水分をクッキングペーパーで吸い取る。べっこうあんをかけてわさびをのせ、8の揚げそば米を散らす。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。