プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> とろろかけ十五穀飯
二十日正月である今日で正月は終わります。お迎えしていた神様が早朝にお帰りになり、正月飾りなどをすべて片づけて正月料理も残さずにきれいに食べ終わる日とされていました。「骨の正月」「骨くずし」などとも呼ばれ、関西では塩ぶりの頭や骨を野菜とともに酒かすで炊いて食べる習慣がありました。
西日本では「麦の正月」ともいい、麦飯にとろろ汁をかけて食べました。かつて農民の主食であった麦やあわ、ひえ、いも類といった米以外の作物の豊穣を祈願する儀礼でもあったようです。
とろろ汁に含まれる消化酵素のアミラーゼは食べ物の栄養成分を無駄なく効率よく消化し、滋養強壮にもなります。1月3日にも「三日とろろ」といってご馳走を食べ過ぎすぎたおなかを軽くしてくれるとろろを食べます。
現在は、健康のために白米に雑穀を加えて食べる方も多いですね。今日は十五穀(押し麦、はと麦、黒米、赤米、発芽玄米、もちあわ、もちきび、ひえ、アマランサス、キヌア、白ごま、黒ごま、小豆、黒豆、とうもろこし)を加えてみました。赤米が入ると赤飯のように赤く染まって正月の終わりにふさわしくなります。赤米は縄文時代に中国大陸から日本に伝わってきたインディカ米で、赤飯のルーツともいわれます。
楽しかった正月が終わり、日常生活に戻ります。サザエさん症候群ではありませんが、現実に直面して少し憂鬱に……(笑)。でも、雑穀米のほんのり染まった赤い色が邪気、邪念を祓い、とろろ汁と一緒に心と体に明日からの活力を与えてくれます。正月最後の野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「とろろかけ十五穀飯」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・山いもの皮をむいたりすりおろしたりする際に手がかゆくなるのは、皮付近に多く含まれるシュウ酸カルシウムという成分が原因。シュウ酸カルシウムは酸に弱いので手に酢をつけて洗い流す。熱にも弱いので40℃前後の湯にかゆい部分をつけるとよい。あらかじめ調理用のビニール手袋をつけるのが一番確実。
・すりおろしたいもが褐変するのは酸化が原因。金属製のおろし金でおろすと酸化が促進されるが、おろしたてをすぐに使えば問題はない。
・すり鉢でおろすとおろし金を使った場合と比べて柔らかい口あたりに仕上がる。
「とろろかけ十五穀飯」
【材料(2人分)】・米 1合(180cc)
・水(堅さの好みで増減) 180cc
・雑穀(市販品) 適量
・大和いも 200g
・出汁(好みで増減) 40cc
・薄口醤油 小さじ2
【作り方】1.米は炊く30分以上前にとぎ、ざるに上げておく。
2.炊飯器に米を入れ、雑穀を加える。水加減をしてスイッチを入れる。
3.とろろを作る。大和いもの皮をむき、すり鉢ですりおろす。急ぐ場合は目の細かいおろし金でおろした後、すり鉢に移してすりこ木で空気を含ませるようにするとよい。出汁と薄口醤油を加え、すりこ木ですってよく混ぜる。
4.飯が炊けたら全体をふんわりと混ぜ、椀に盛ってとろろをかける。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗