プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 早春のいり豆腐
寒い日がまだまだ続いておりますが、もうすぐ暦の上では春が訪れます。雪に閉ざされた中で長い冬を越えてきたふきのとうが、雪解けを待ちきれずに春を告げるつぼみをのぞかせます。今日はそんな風情を想わせる、ふきのとうを加えた早春のいり豆腐を紹介します。
いり豆腐は秋に続いて2回目の紹介になりますが、ポイントは2つです。最初に具材や豆腐を油で炒めて油の旨みを活用することと、「
秋のいり豆腐」でお教えした「中上げの技法」です。
「ちょっとしたコツ」で毎回確認している、野菜料理をおいしくする重要な要素の1つが油分です。油がまだ貴重品だった時代の先人たちは、少量の油をどう有効に使っておいしい料理にするかの工夫に知恵を絞りました。
菜っ葉を炊くときも油揚げを入れるのは贅沢ですから、落し蓋の裏に薄く油を塗って菜っ葉の上にのせて炊いたといいます。揚げ玉(天かす)も捨てずに取っておき、いろんな料理に上手に活用しました。
揚げ玉を使う豆腐料理に雷豆腐があります。いり豆腐に近い料理で、豆腐を油で炒めて揚げ玉を加え、日本酒と醤油などで調味します。元々のものは天明2年(1782)の『豆腐百珍(とうふひゃくちん)』という豆腐料理を100種類集めた江戸時代のレシピ本に載っています。
鍋にごま油を入れてよく熱し、豆腐をつかみ崩して入れる。醤油を差し、ねぎの小口切りと大根おろしを加えて炒め、最後にわさびのせん切りを加えるというものです。熱した油に豆腐を入れると雷のような音を立ててはねるので、雷豆腐と呼びます。地震・雷・火事・親父といえば昔は怖いものの代表格でしたが、親父の威厳は今や地に落ち、家事親父になってしまいました(笑)。
今回のいり豆腐は雷豆腐からヒントを得て、揚げ玉の代わりにカリッと揚げたふきのとうの天ぷらを添え、早春の野菜も加えます。春の息吹を感じさせる野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「早春のいり豆腐」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・豆腐はその90%弱が水分。従って、味がつかないからと炊けば炊くほど豆腐から水分が出続け、食感はバサバサに。
・中上げの技法を用いて、豆腐の表面には少し強めの味をまとわせ、中は豆腐自体の味を残してしっとり仕上げる。
・ふきのとうの天ぷらを合わせることで油分と風味が加わる。
・ぬめりが多く、甘みと香りが強い九条ねぎ(葉ねぎ)は火を通し過ぎないこと。仕上がる少し前に加えて味のアクセントにする。
・梨のような食感と甘みが特徴のヤーコンは、食感を生かすため、仕上がったいり豆腐に生のまま加える。
・生の寒たけのこを使う場合は、ぬかを入れて茹でて用いる。旬のたけのこに比べると味が落ちるため、少し強めの味で炊いたほうがよい。
「早春のいり豆腐」
【材料(4人分)】・木綿豆腐 2丁
・こんにゃく(7~8mmの角切り) 50g
・金時にんじん(7~8mmの角切り) 50g
・ごぼう(7~8mmの角切り) 50g
・しいたけ(7~8mmの角切り) 4枚
・たけのこ(水煮) 100g
・ふき 60g
・ヤーコン 50g
・ふきのとう 4個
・九条ねぎ 2本
・ごま油 小さじ1
・サラダ油 小さじ2
・出汁 200cc
・塩 2g
・薄口醤油 大さじ1
・みりん 小さじ1
【作り方】1.木綿豆腐は冷蔵庫で半日押して水分を抜いておく。豆腐の押し方は「
トマトの白和え」参照。
2.こんにゃく、金時にんじん、ごぼうはそれぞれ下茹でをしておく。
3.たけのこの水煮は、添加物が使われているものは熱湯で2分ほど茹でて水に放し、水気をきって用いる。不使用のものもさっと下茹ですると、異臭が残ったり煮汁が濁ったりしない。2.5cm長さで食べやすい大きさに切る。ふきは塩(分量外)もみして3〜4分茹でて冷水に放し水をきる。上下から筋を取り2.5cm長さで食べやすい大きさに切る。筋の取り方は「
干し柿なますの煮こごり」を参照。ヤーコンは皮をむいて5mm角×2.5cm長さに切る。九条ねぎは3.5cm長さ×5mm幅で斜めに切る。
4.鍋を火にかけ、ごま油とサラダ油をひき、こんにゃく、金時にんじん、ごぼう、しいたけ、たけのこを加えて炒める。豆腐は手で一口大にちぎって加える。出汁と調味料を加えて沸いたら中火で5分くらい炊いて、具材をざるに上げ煮汁と分ける。
5.煮汁は鍋に戻して中火にかけ、最初の量の1/4くらいまで煮つめる。これが中上げの技法。煮汁が煮つまった鍋に、ざるに上げておいた具材を戻してふきも加える。強火にして具材の表面に煮汁を絡めてしっかりと味をつけていく。
6.ふきのとうは「
ふきのとうの天ぷら」を参照して天ぷらにする。
7.煮汁が少なくなったら九条ねぎを加え、少し炊いて火からおろす。ヤーコンを混ぜて器に盛り、揚げたてのふきのとうの天ぷらを添える。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗