プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 菜花の昆布押し、わさび漬け和え
今日は立春ですね。旧暦では一年の始まりは立春からと考えられ、立春を基準に様々な行事や節目の日が定められました。立春の前日が節分。夏の準備を始める目安で、この日に摘まれたお茶を飲むと縁起がよいといわれる八十八夜は、立春から数えて88日目。台風や風の強い日が多く、農家の厄日といわれる二百十日や二百二十日は、立春から数えて210日目と220日目です。
禅寺では立春の朝、門に「立春大吉」と書いた紙を貼ります。立春大吉は縦書きすると左右対称で、一年間災難に遭わないという厄除けのおまじないです。また、立春から春分の間に吹く南よりの強風を春一番と呼びますね。
立春はまさに春が立つということで、春野菜である菜花の料理を紹介します。「
菜花とたたきいもの辛子和え」では菜花にたたきいもを合わせて雪間草(ゆきまぐさ)の風情としましたが、今日は七十二候(しちじゅうにこう)では「東風解凍(はるかぜこおりをとく)」。雪が溶けた初春を愛でるような菜花料理にしましょう。
菜花のほろ苦さを感じにくくする料理法として、漬け出汁に漬けて苦みを抜きつつ旨みを含ませる方法や辛子と合わせる方法(「
菜花とたたきいもの辛子和え、辛子味噌漬け」参照)を紹介してきました。今日は昆布の旨みとわさびの風味でほろ苦さを抑え、おいしくします。
京都で仕事をしていた頃、初春に菜花の料理をお出しすると、決まってこう言われるご常連がいらっしゃいました。「もう“春”になって“はる”」、愛想笑いが大変でした。私、ダジャレに関しても、自分には甘く人には厳しいのです(笑)。野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「菜花の昆布押し」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・菜花にはほろ苦さがあり、その苦みを嫌う人もいるが、
水にさらし過ぎると甘みや風味が抜けてしまうので注意。
・昆布押しの昆布は上質なものを使う。菜花に接触する面を裏表にすれば2度使え、その後も魚の煮つけなどに加えて利用できる。
・
昆布は日本酒で湿らせてから使う。乾燥した状態のままでは菜花の水分を吸収し過ぎ、昆布の旨みがしみるのにも時間がかかる。
・菜花のつぼみがついた茎には大小あるので、
小さいものは何本かまとめて、広げた葉で花束のように包むと美しくまとまり食べやすい。「
わらびと新春野菜の酢のもの、菜花とゆばの辛子酢味噌かけ」参照。
・「菜花のわさび漬け和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・
漬け出汁に漬けることで苦みを抜きつつ旨みを含ませる。
・辛子同様、
わさびの辛みが苦みを感じにくくさせ、酒粕が風味を添える。
「菜花の昆布押し」(右)
【材料(2人分)】・菜花 40g
・塩 少々
・昆布(上質なもの) 10cm×2枚
・日本酒 少々
・赤唐辛子(種を除いて小さめに切る) 適量
【作り方】1.菜花は、葉とつぼみのついた茎に分ける。太い茎部分のみを用い、葉や小さい茎は別の料理に使う。茎部分を4.5cmほどの長さに切りそろえる。15秒ほど茹でて水に放し、2分ほど水につけたままにして苦みを軽く抜く。ざるに上げて水気を絞る。
※葉や小さい茎も一緒に使いたい場合は、8~10秒茹でて水に放し、茎と同様に処理する。小さな茎を数本合わせて大きな茎と同じくらいの量にし、広げた葉で茎部分を巻いて花束のようにして用いる。「
わらびと新春野菜の酢のもの、菜花とゆばの辛子酢味噌かけ」参照。
2.昆布に日本酒少量をまぶしかけ、15分ほどおいてしんなりさせる。
3.同じ大きさのバットを2枚用意する。バットに昆布を敷いて1の菜花を並べ、薄く塩をふる。赤唐辛子を菜花にのせて上から昆布をかぶせ、もう1枚のバットを乗せる。輪ゴム数本を束ねて、バットに数か所かけ重石にする。
4.冷蔵庫に12時間ほど入れて、昆布の旨みが菜花にしみたら昆布を外して器に盛り、輪切りにした赤唐辛子を添える。
「菜花のわさび漬け和え」(左)
【材料(2人分)】・菜花 40g
・漬け出汁 約300cc
出汁270cc、塩0.4g、薄口醤油18cc、日本酒8cc
・わさび漬け(市販品) 適量
【作り方】1.菜花は「菜花の昆布押し」の1と同じように下ごしらえし、漬け出汁に30分以上漬けて苦みを抜きつつ下味をつける。
2.菜花を漬け出汁から引き上げ、汁気を絞ってわさび漬けで和える。器に盛ってわさび漬けを少量添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗