わけぎのぐるぐる3種
今日は「わけぎのぐるぐる」という料理を紹介します。私の故郷でもある熊本の郷土料理で、地元では「ひともじ(一文字)のぐるぐる」と呼びます。わけぎのぬた和えによく似た料理で、「ひともじ」をぐるぐる巻くことからその面白い名前がついたといわれています。
ぐるぐるはわかりやすいですが「ひともじ」とは? 「
かちんがゆ」でも紹介した御所言葉(ごしょことば。宮中や院に仕える女官たちが使っていた話し言葉)では、ねぎを「き」と呼んでいたそうです。「息」や「気」と同源でねぎの強いにおいを意味し、「き」という一音の「一文字」であることがひともじと呼ばれるようになった由来とも。他にもねぎが人の形に似ているので「人文字」と言われたとか、ひともじと見た目がよく似ている韮(にら)が「にら」と二文字で呼ばれるのに対して、葱(き)は一文字だからという説もあります。
「
わけぎのぬた和え」でわけぎなどのぬめりには免疫活性作用があることをお話ししましたが、これは害虫や細菌から植物が身を守るための物質によるもので、ぬめりを食べることでその効果をいただくのです。
また、唾液などに含まれる細菌やウイルスを取り込み無力化する免疫物質IgA抗体や、ウイルスが体内に入ってもそれを捕食し消化する白血球の一種であるマクロファージもねぎを食べると増えるそうです。
思い立ったが吉日、今日のおかずは決まりですね。わけぎをぐるぐる巻いて野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「わけぎのぐるぐる3種」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・わけぎは根元の白い部分と緑の部分に均一に熱が入るように茹でる。
・茹で上がったわけぎは水に放さずに塩をふって急冷し、ぬめりを適度に除く。
・酢味噌は酢だけでなく、橙(だいだい)やレモンの絞り汁も加えることでマイルドな酸味になる。
・ヤーコンの食感、りんごの酸味と風味、油揚げ・揚げゆば・揚げ昆布の油分が味に深みとこくを出す。
「わけぎのぐるぐる3種」
【材料(2人分)】・わけぎ 3本
・塩 少々
・赤こんにゃく(黒こんにゃくでもよい。8mm角×3.5cm長さに切る) 2個
こんにゃくの煮汁:出汁100cc、濃口醤油小さじ2、みりん小さじ1
・油揚げ 1/4枚
油揚げの煮汁:出汁85cc、日本酒大さじ1、濃口醤油小さじ1、砂糖小さじ1弱
・ヤーコン(8mm角×3.5cm長さに切る) 2本
・辛子酢味噌 35g
玉味噌(白)30g(作りやすい分量:西京味噌500g、卵黄5個、砂糖30g、日本酒200cc 「
生姜味噌」参照)、橙果汁(レモン汁でもよい)小さじ1/2、酢小さじ1/4、練り辛子5g
・りんご(紅玉) 少々
・刻み昆布 少々
・刻みゆば 少々
・揚げ油 適量
【作り方】1.わけぎは洗って根の部分だけを切り落とす。大きめの鍋に湯を沸かし、わけぎの先部分を持って根元の白い部分を先に湯につけて30秒ほど茹でる。白い部分がくたっとしてきたら、全体を湯に入れて40〜45秒ほど茹でる。火の通りが均一になるように落し蓋をするか、途中で1〜2回上下を返す。
2.茹で上がったわけぎは水に放さず、ざる上げた後に、大きめのバットやまな板に並べて塩を薄くふる。根のほうが下になるようにバットを傾斜させて、扇風機の風やうちわであおいで冷ます。
3.冷めたわけぎ全体をラップで包む。まな板に横に置き、白い根元部分を麺棒で軽く叩いて繊維をほぐす。先から根元に向かって麺棒を転がし、軽くしごくようにしてぬめりを出す。「
わけぎのぬた和え」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
4.赤こんにゃくは下茹でし、こんにゃくの煮汁で10分ほど炊いて20分以上味を含ませる。油揚げは油揚げの煮汁で5分ほど炊いて10分以上味を含ませる。こんにゃくや油揚げは少量では炊きにくいので、多めに炊いて常備菜にしたり、他の料理(きつねうどん、ちらし寿司、和えもの、酢のものなど)に利用するとよい。
5.揚げ昆布、揚げゆばを作る。刻み昆布(なければ白板昆布を刻んで使ってもよい)と刻みゆばを160℃の油でそれぞれ揚げて、クッキングペーパーに広げて余分な油を除く。
6.りんごは皮付きのまま2cm長さのせん切りにする。
7.辛子酢味噌を作る。ボウルに玉味噌(白)を入れて橙果汁と酢を加えて混ぜ、練り辛子も加える。
8.汁気をきった赤こんにゃくに3のわけぎを根側から葉先に向けて巻いていく。ヤーコンも同様にわけぎで巻く。油揚げは汁気をきって2cm×3.5cmに切り、2つに細長く折って同様にわけぎで巻く。巻き方は「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
9.巻いたわけぎの先端部を2.5cmほど伸ばした状態でそれぞれ器に盛る。赤こんにゃくを巻いたもの(写真奥)には揚げ昆布を、油揚げを巻いたもの(写真中央)には揚げ湯葉を、ヤーコンを巻いたもの(写真手前)にはりんごのせん切りをのせる。辛子酢味噌を好みの量添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。