プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> せり飯、せりのおひたし
せりはセリ科の多年草で、日本全国の山野に自生しています。奈良時代には既に食用とされていたという記録が『古事記』や『万葉集』にあり、数少ない日本原産の野菜のひとつです。水分の多い土壌を好み、沢や河川の水辺などに繁殖し、春の七草(「
七草がゆ」)にも数えられます。独特の強い香りと歯触りが特徴で、整腸作用、免疫力の向上、体温上昇、老廃物の排出などさまざまな効果がある、元祖・和ハーブです。
栽培ものは、通年出回っていますが、天然のものはまだ寒いうちから群生し、若葉が互いに競り合うように伸びるのが名の由来です。せりは若く柔らかい茎葉の部分がおいしいので、旬は2月から4月となります。
おひたしや和えもの、粕汁、きりたんぽ鍋や鴨鍋にも欠かせない存在で、根の部分もおいしいので一緒に使います。天ぷらにするのもおすすめです。栽培ものはぱっと見、三つ葉と似ていますが、葉の数を数えると見分けられ、三つ葉の葉が3枚なのに対し、せりは5枚です。
今日はシンプルに香りと食感を生かしたおひたしとせり飯を紹介します。せり飯には根の部分を炒め煮にして添えます。夏に花を咲かせるせりの花言葉は「清廉で高潔」、私には耳が痛いです。“せり”を至れり尽く“せり”で丁寧に料理して、今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「せり飯」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・飯は塩で調味して醤油を加えず、せりの根のきんぴらは醤油で調味する。食べる際に2つの塩味が合わさることでおいしくなる。
・「せりのおひたし」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・天然のせりはあくが強いので下茹で後、しばらく水にさらすが、栽培ものはあくが少ないのでさらし過ぎず、香りを大切にする。
・せりの葉や上のほうの柔らかい茎と、根元のほうの太い茎を分けて、別々に茹でシャキシャキした食感を残す。
・茹でたら美味出汁で下洗いし水っぽさをなくす。漬け出汁に漬けて下味をつけると、せりの風味が抜けてしまう。
・焼き海苔を加えて旨みと風味をたす。海苔は3大旨み成分である「グルタミン酸」「グアニル酸」「イノシン酸」を単独で持ち、いまひとつ物足りないときに加えるとおいしくなる。
「せり飯」(左)
【材料(2人分)】・米 1合
・油揚げ 1/4枚
・昆布出汁 180cc
・塩 小さじ1/3弱
・日本酒 大さじ1
・生姜(細めのせん切り) 15g
・せり 2束
・せりの根の部分 50g
・せりの根のきんぴら用調味料
ごま油小さじ1弱、みりん小さじ1/2、濃口醤油小さじ1、きび砂糖小さじ1/2弱、一味唐辛子少々
【作り方】1.米は炊く30分以上前にとぎ、ざるに上げておく。
2.せりは根付きのまま茎1cmほどのところで切る。葉や上のほうの柔らかい茎と下のほうの太い茎は分けて、シャキシャキした食感が残るように別々にさっと茹でて水に放す。冷めたら水から上げて水分を絞って小口切りにする。
3.昆布出汁(飯の炊き上がりの柔らかさの好みで量を加減する)に調味料を加え、好みの味にする。
4.油揚げは2枚に開き、みじん切りにする。香ばしさが好みなら、オーブントースターできつね色に焼く。
5.炊飯器に米と出汁、油揚げ、生姜を入れて炊く。
6.せりの根のきんぴらを作る。フライパンを火にかけてごま油をひき、2で取り置いたせりの根を入れ、中火で炒める。調味料を加え一気に全体にからめ、汁気がなくなってきたら一味唐辛子を加えて混ぜ、火からおろしてバットに広げる。
7.飯が炊き上がったら小口切りにしたせりを加え、飯がつぶれないよう全体をふんわりと混ぜる。器に盛ってせりの根のきんぴらを添える。
「せりのおひたし」(右)
【材料(2人分)】・せり 1束(茹でて60g)
・美味出汁 適量
出汁4:濃口醤油1:日本酒1:みりん0.8の割合
・焼き海苔(1.5cm四方にちぎる) 適量
【作り方】1.せりは根付きのまま茎1cmほどのところで切る。根の部分はきんぴらに使う。葉や上のほうの柔らかい茎と下のほうの太い茎は分けて、シャキシャキした食感が残るように別々にさっと茹でて水に放す。冷めたら水から上げて水分を絞り、柔らかい部分は2cm、太い茎の部分は1cmに切る。
2.ボウルに入れて美味出汁を全体にかけて混ぜ、軽く絞る。
3.2にちぎった焼き海苔を適量入れて混ぜ器に盛り、新しい美味出汁をかけ、残ったちぎった海苔を少しのせる。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗