プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> かるかん3種
今日は蒸したてかるかんを紹介します。この連載でお教えする甘味の条件は「できたてが最高の菓子」、「コストや保存性の理由から菓子屋が作りたがらない菓子」、「料理人だから思いつく菓子」ですが、今回のかるかんはできたてが最高の菓子になります。
焼きたてのたい焼きや今川焼き、蒸したての酒まんじゅうなどは、寒い時は特においしいものですが、冷めると……。温め直すこともできますが、おいしさは元に戻りません。
であれば家庭で作りましょうという、いつもの流れなのですが(笑)、たい焼きや今川焼きには専用の道具が、酒まんじゅうには酒麹(こうじ)が必要になります。かるかんであれば家庭にある道具や手に入りやすい材料で手軽に作れます。
冷めてしっとりもちっとしたかるかんもいいのですが、蒸したてはシフォンケーキのようにふっくら膨らみほかほかで大変おいしく、これはかるかん専門店でも食べられません。山いもの香りとほんのりとした甘さで私は幸せになりますが、かるかんを初めて食べる方は、なじみのない山いもの香りで好き嫌いが分かれてしまうかもしれません。そこで今回のかるかんはコーヒー、紅茶にも合うように一工夫しています。
かるかんは自然薯(じねんじょ)をふんだんに使い、空気をたっぷり含ませて蒸し上げた鹿児島県の名菓で、仕上がりが白いのが特徴です。漢字では「軽羹」と書き、「軽い羊羹(ようかん)」という意味だとか。かるかんができた背景には自然薯が薩摩藩内のシラス台地で多く自生していたことや、奄美・琉球地方に近いため、当時高級品であった砂糖が比較的手に入りやすかったということもあるようです。
「“かるかん”ってすごくおいしいのに好き嫌いが分かれるよね。なんでかな?」「そんなこと、わ“かるかん”!」(笑)。今日も野菜甘味を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「かるかん3種」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・グラニュー糖やはちみつは、何回かに分けておろしたいもに加え、その都度泡立て器でよく混ぜて空気を取り込む。
・かるかんをふわふわに仕上げるため、しっかり泡立てた卵白に上新粉を加える際は、泡をつぶさないようにさっくりと混ぜ合わせる。
「かるかん3種」
【材料(2~3人分)】かるかんの生地
・大和いも(皮をむいたもの) 75g
・グラニュー糖 25g
・はちみつ 15g
・卵白 35g
・上新粉 40g
・生クリーム 50cc
・牛乳 50cc
加える具材など
・黒豆の蜜煮(市販品でもよい) 適量 「
黒豆の蜜煮」参照
・柚子 少々
・ドライフルーツ(あんず、りんご、くこの実) 適量
・自家製陳皮(生の橙の皮をすりおろしてふりかけてもよい) 少々 「
わけぎのぬた和え、酢のもの」の「ちょっとしたコツ」参照
・粉山椒 少々
【作り方】1.かるかんの生地を作る。大和いもは皮をむき、目の細かいおろし金ですりおろしてボウルに入れる。グラニュー糖を2~3回に分けて入れ、その都度、空気を取り込むように泡立て器でよく混ぜる。はちみつも2~3回に分けて加えて泡立て器でよく混ぜる。
2.別のボウルに卵白を入れて、泡立て器かハンドミキサーで角が立つまで泡立てる。
3.1に2を入れて泡立て器でよく混ぜた後、上新粉を加えてゴムべらでさっくりと混ぜ合わせる。生クリームと牛乳を2~3回に分けて加え、その都度ゴムべらでよく混ぜる。
4.生地を3つに分けて、1つはそのまま、残りの2つはそれぞれに黒豆、5mm角に切ったドライフルーツを加えて混ぜる。
5.内側にサラダ油(材料外)を塗ったカップケーキ型に4の生地をそれぞれ流し入れ、蒸気の上がった蒸し器に入れて中火で10分ほど蒸す。竹串を刺して生の生地がついてこなければ取り出して型からかるかんを外す。黒豆入りのものには、柚子の皮の黄色い部分のみをおろし金でおろしたものをふりかける。ドライフルーツ入りのものには、陳皮をかける。何も入っていないものには粉山椒をかけて器に盛り、あつあつの状態で供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗