春菜(しゅんさい)の酢のもの、辛子白和え
桜の開花予想が話題になるくらい暖かくなると、山菜が芽を出し春の訪れを知らせてくれます。独特の風味がある春の山菜は古くから日本人に親しまれ、日本最古の歌集である『万葉集』には27種の山菜が登場します。
山菜はさまざまな環境で自生しており、全国で食べられているものは300種類以上にもなるといわれます。
山菜は出回る期間が限られていますが、そこに季節を味わう楽しみがあります。よく知られているところで、ふきのとう、せり、ふき、うど、わらび、たらの芽、こごみ、うるい、つくし、ぜんまい、行者にんにくなどありますが、最近ではスーパーマーケットなどでもさまざまな種類の山菜を目にします。ふきのとう、せり、ふき、わらびは既に取り上げていますので、今日はたらの芽、こごみ、うるい、つくしについて下処理の仕方も含めて紹介します。
右手前から時計回りに、ふきのとう、つくし、たらの芽、うるい、浜防風、こごみ。たらの芽は山菜の王様ともいわれ、栽培ものは2月頃から店頭に並びます。天然ものは3月~4月初旬が旬で、森林や林の脇道など開けた明るい場所に自生します。天ぷらや和えものがおすすめですが、ひたしや和えものにする場合はさっと茹でてあく抜きをして使います。今回のレシピのように下揚げすると、苦みを感じにくくなり旨みが増します。
こごみはわらびやぜんまいと同じシダ植物で、収穫量の少ない赤こごみ(4月~10月)と全国各地で採れる青こごみ(5月~6月)があります。あくが少なく下処理はいりません。独特のぬめりが特徴で天ぷら、和えもの、酢のもの、ひたしなどにします。先端がよく巻いていて茎がしっかりしたものが新鮮です。
うるいはオオバギボウシという植物の若芽で、4月~6月上旬に採れます。あくや苦みが少なく下処理は不要で、手軽に料理できます。ほのかな辛さとぬめりがあり、しゃきしゃきした食感で、ひたしや和えもの、汁ものの具にも向いています。茎がふっくら白く、葉先が鮮やかな緑色のものが新鮮です。
つくしは全国に自生しているスギナの胞子茎で、草原や田畑のあぜに限らず、日当たりのよい道路脇などでも採取できます。3月〜4月が旬で、採ったらすぐに茹でてあく抜きをします。ひたし、つくだ煮、天ぷらなどが定番です。茎の先についている穂がしっかりと締っていて、まだ胞子を散らしていないものを選びます。
“山菜”がたくさん採れたら一汁“三菜”にチャレンジ! もちろん、この連載を参考に(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「春菜の酢のもの」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・たらの芽は下揚げすると苦みがやわらぎ、旨みが増す。
・あく抜きしたわらびは水っぽくならないように、漬け出汁に漬けて味を含ませる。
・「春菜の辛子白和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・菜花はほろ苦いので、漬け出汁に漬けることで苦みを抜きつつ旨みを含ませる。水にさらし過ぎると甘みや風味が抜けてしまう。
・つくしが大量に採れたら、茹でて水にさらした後、低温のオーブンで乾燥させておくと日持ちする。乾燥させたものは素揚げにして酢のものや和えものに添え、風味と食感のアクセントとして使う。
「春菜の酢のもの」(右)
【材料(3人分)】・たけのこ(炊いて一口大に切る) 適量 「
たけのこの煮もの」参照
・たらの芽 3個
・こごみ 6本
・わらび(あく抜きする) 適量
あく抜きは「
わらびの煮もの、たたきわらび、焼きわらび」参照
・漬け出汁 約300cc
出汁270cc、塩0.5g弱、薄口醤油18cc、日本酒8cc
・うるい 1/2パック
・しいたけ(中) 2枚
・浜防風 3本
・甘酢 少々
作りやすい分量:昆布出汁(水1L 昆布10g)450cc、酢300cc、砂糖100g
・刻みゆば 適量
・揚げ油 適量
・土佐酢 適量
出汁4:薄口醤油1:みりん1:酢1の割合
・木の芽 9枚
【作り方】1.たらの芽の下処理をする。たらの芽は、はかまの部分を包丁でむいて、火が通りやすいように切り口に6mmほどの深さで十字に切り込みを入れる。
2.フライパンに揚げ油を入れて170℃に熱し、たらの芽とこごみを入れる。それぞれさっと揚げて火を通したら、クッキングペーパーにとって油を除く。漬け出汁に20分以上漬ける。わらびも3cm長さに切り、一緒に漬け出汁に漬ける。
3.うるいは4cm長さに切りさっと茹で、冷水に放してざるに上げ、水気をきる。しいたけは予熱したグリラーかオーブントースターで焼いて2〜3mm幅に刻む。「
焼きしいたけ」も参照。
4.浜防風はさっと茹でて冷水に放し、冷めたら水気をきる。葉がついた部分は4cm、茎は3cm長さに切って、甘酢に20分以上漬ける。葉がついた部分は葉が変色しないように茎の部分のみを甘酢に漬ける。口径の小さいコップなどに深さ1cmほど甘酢を注ぎ、葉の部分を縁に立てかけ、茎部分のみを漬けるとよい。
5.刻みゆばは160℃の油で揚げ、クッキングペーパーに広げて余分な油を除く。
6.たらの芽、こごみ、わらびを漬け出汁から上げて汁気をきる。たらの芽は縦2つに切り、こごみは根元の堅い部分を除いて、先端の巻いている部分を4cm、茎の部分を3cm長さに切る。
7.ボウルにたけのこ、たらの芽、こごみ、わらび、うるい、しいたけ、甘酢をきった浜防風の茎部分を入れ、よく混ぜる。土佐酢を回しかけてざっと洗うように混ぜ、ざるに上げて酢をきり、器に盛る。新しい土佐酢をかけて、木の芽、浜防風の葉の部分、揚げゆばを添えて供する。
「春菜の辛子白和え」(左)
【材料(3人分)】・菜花 1パック
・わらび(あく抜きする) 適量
・漬け出汁 約400cc
出汁360cc、塩0.6 g、薄口醤油24cc、日本酒10cc
・ホワイトアスパラガス 3本
・つくし 適量
・揚げ油 適量
・白和えの衣 適量
作りやすい分量:絞り豆腐(木綿豆腐の水分をしっかりと絞ったもの)140g、いり白ごま(香ばしくいる)20g、塩1g、薄口醤油小さじ1、砂糖小さじ2(好みで) 「
トマトの白和え」参照
・練り辛子 適量
【作り方】1.つくしの下処理をする。つくしは水を替えながら何度か洗い、砂などの汚れを落とす。はかまを1つずつ指先でつまんで、茎にそってくるりとむく。大量のつくしのはかまをむく際は、指先が黒くなるので調理用手袋をするとよい。
2.鍋にたっぷりの湯を沸かし、つくしを入れる。箸で混ぜて15~20秒茹で、冷水に放してさらす。水にさらす時間はつくしのあくによって変わるので、途中で食べて確認する。ほのかに苦みを感じるくらいがよい。あくが抜けたら、ざるに上げて水気をきり、漬け出汁に漬け、味を含ませておく。
3.つくしが大量にある場合は、下処理したつくしをオーブンペーパーを敷いた天板に広げ、100℃のオーブンで25分加熱して乾燥させると、保存がきく。
4.つくしの素揚げを作る。フライパンに揚げ油を入れて160℃に熱し、乾燥させたつくしを入れて揚げる。クッキングペーパーに広げて余分な油を除く。
5.菜花は葉をむしり、つぼみのついた茎と分ける。茎部分は15秒ほど茹でて水に放し、葉は8〜10秒茹でて水に放す。2分ほど水につけたままにして、苦みを軽く抜く。ざるに上げて水気を絞り、漬け出汁に30分以上漬けて苦みを抜きつつ下味をつける。
6.わらびは3cm長さに切り、漬け出汁に漬ける。
7.ホワイトアスパラガスは皮をむいて下茹でし、茹で汁に漬けておく。「
アスパラガスの塩麹和え、フライ」参照。
8.白和えの衣を作る。「
トマトの白和え」参照。白和えの衣をボウルに入れ、練り辛子を好みの量加えて混ぜる。
9.菜花とわらびを漬け出汁から上げ、乾いた布巾に包んで汁気を除く。ホワイトアスパラガスは茹で汁から上げて3.5cm長さに切る。太いものはさらに縦半分に切る。
10.わらびとホワイトアスパラガスの先の部分を別にしておき、わらびとホワイトアスパラガスの茎部分、菜花をボウルに入れる。白和えの衣を加えて混ぜ、器に盛る。わらびとホワイトアスパラガスの先の部分を上にのせて、つくしの素揚げを添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。