豆腐田楽4種
今日は豆腐田楽を紹介します。豆腐に木の芽味噌などを塗り、串を打って焼く料理で、料理屋でも春の料理として供されます。
料理名は平安時代から田植えの時期などに行われた「田楽舞い」という芸能に由来します。田の神を祭って豊作を祈り、田楽法師が白い袴(はかま)をはき1本棒に乗って飛び跳ね舞いました。その姿に白い豆腐を串に刺し味噌をつけて焼いた形が似ていたので、田楽と呼ぶようになったといわれます。
その後、京都では「二本差しでも柔らかい祇園豆腐の二軒茶屋(お堅いお武家様と同じ二本差しでも、祇園の豆腐は柔らかいという洒落)」と京唄が詠まれたほど、木の芽田楽が評判になりました。江戸の田楽が1本串であるのに対し、上方では股のある、先が2本になった串を用います。
こうして料理屋でも定番料理となりますが、高額をいただく以上、最高のものを目指して様々な工夫がなされました。写真は田楽箱という専用の器に盛っています。底に湯を張ることができ、少しでも温かく出せるようにという先人の工夫です。
押して水気を絞った木綿豆腐で作れば、串から落ちることもなく焼きやすいのですが、料理屋は豆腐のおいしさはくずれるような柔らかさにあると考えます。柔らかいままあつあつで出すことに苦心するのですが、絹ごし豆腐を串に差してそのまま焼くと、途中で串から落ちてしまいます。
短冊状に切った絹ごし豆腐を昆布出汁に入れて火にかけ、芯まで温めた後、水気をきります。味噌が滑り落ちないように先に豆腐の表面を焼き、味噌を塗り、焦げ目をつけてから串を打つという方法が考え出されました。
この方法であれば柔らかくあつあつの豆腐田楽を楽しめます。唯一の難点としては昆布出汁で温めるので、豆腐の風味が少し弱まるということです。この問題は解決されないままでしたが、充填豆腐の登場により事態は一変します。
充填豆腐は、昔は保存性を重視した商品という印象が強かったですが、最近は大変おいしいものが多数あります。小さなパックが田楽にちょうど合うサイズなので、パックのまま湯の中に入れて、温めた後に切って使います。
豆腐田楽は木の芽味噌だけでなく、柚子味噌、ふきのとう味噌でもおいしいですし、「
木の芽和え」で紹介した花山椒や実山椒を合わせてもよいでしょう。「
フルーツ酢味噌 刺し身こんにゃくにのせて」の味噌も豆腐に合いますので、一年中楽しめます。
今回の方法はまだ料理屋の大半が気づいていない工夫で、読者の皆さまだけにお教えします。まさにこの連載の題名「プロよりおいしく作れる野菜料理」ですね。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「豆腐田楽4種」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・充填豆腐を温める際、長時間、強火で沸かすと豆腐にスが入る。湯に入れ、再度、沸いたら弱火にして5〜10分温める。
「豆腐田楽4種」
【材料(3人分)】・充填豆腐(小) 2個
・絹揚げ豆腐(絹ごし豆腐で作った揚げ豆腐) 1個
・サラダ油 適量
・玉味噌(白・赤) 各適量
作りやすい分量:
玉味噌(白)(西京味噌500g、卵黄5個、砂糖30g、日本酒200cc)
玉味噌(赤)(赤出汁味噌500g、卵黄10個、砂糖200g、日本酒350cc、みりん100cc)
「
生姜味噌」参照
・木の芽 適量
・柚子こしょう 少々
・ふきのとう 1個
・揚げ油 適量
・花山椒の辛煮 適量
※木の芽味噌(「
木の芽和え」)やふきのとう味噌(「
ふきのとう味噌」)があれば、それを塗って焼けばよい。その際は木の芽やふきのとうは不要。
【作り方】1.木の芽は枝部分を外して葉のみにする。
2.ふきのとうの柔らかい外葉を素揚げにする。フライパンに揚げ油を入れて160℃に熱する。ふきのとうはつぼみを包む外葉を閉じた状態でぬれ布巾で拭いて、汚れを取り除く。一番外の葉が堅いようであれば除き、つぼみのまわりの柔らかい外葉を外す。油に入れてカリッとなるまで素揚げし、クッキングペーパーに広げ余分な油を除く。
3.鍋にたっぷりの湯を沸かし、充填豆腐をパックごと入れ5~10分ほど温める。中まで十分に温まったらトングなどで取り出し、パックからまな板の上に出して3等分する。
4.絹揚げ豆腐を焼く。フライパンを火にかけサラダ油を薄くひいて絹揚げ豆腐を入れる。焦げ目がつくくらい弱火で両面焼いて中まで熱くし、1と同じ大きさに切る。
5.予熱したオーブントースターにアルミホイルを敷き、3と4をのせて表面が乾くくらいに焼く。
6.3には玉味噌(白)を適量のせ、4には玉味噌(赤)をのせる。玉味噌(白)には木の芽と柚子こしょうをそれぞれ添え、玉味噌(赤)にはふきのとうと花山椒の辛煮をそれぞれ添えて供する。家庭では串を刺す必要はない。
「花山椒の辛煮」
※和えものや肉料理に加えてもおいしい
【材料(作りやすい分量)】・花山椒(冷凍保存したものでもよい) 180g(水気を絞って)
・日本酒 100cc
・薄口醤油 小さじ1と1/2
・みりん 小さじ1
【作り方】1.花山椒は4月〜5月の間のごく短期間しか出回らないので、まとめて買い求める。鮮度がよいうちに下処理をして冷凍保存する。
2.花山椒には、山椒の棘やゴミなどが混ざっていることがあるのでよく洗う。大きめのボウル2つに水を用意し、1つに花山椒を入れてすすぐように混ぜ、両手ですくってもう1つのボウルに移す。最初のボウルの底に砂や異物が沈殿している可能性があるので、花山椒だけを手ですくって移すこと。
3.大きめの鍋にたっぷりの湯を沸かし、花山椒を入れる。再度、沸いて15〜20秒ほどしたらざるに上げて冷水につける。そのまま10分ほどさらして、あくと辛みを少し抜いてざるに上げる。小分けして水を少量加えて冷凍保存する。
4.冷凍しておいた花山椒を解凍して水気を絞る。生の花山椒が手に入れば生のほうが香りがよい。生を使う場合も下茹でまでは同じ。鍋に日本酒と調味料を入れて火にかけ、沸いたら花山椒を加える。中火で時々混ぜながら煮つめていき、煮汁が少なくなってきたら弱火にして箸でほぐすように混ぜる。汁気なくなったら火からおろし、鍋ごと氷水で冷やす。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。