豆飯、光琳竹皮弁当(豆飯おにぎり)
今日はうすい豆(うすいえんどうともいう)を使った豆飯をご紹介します。あえてうすい豆と言ったのは、グリーンピースが嫌いな方が非常に多いからです。不人気野菜ランキングでは常に上位に挙がり、パサパサした食感に青臭さ、そして苦みが「まずい」と言われる3大要因だそうです。
これはグリーンピースが嫌いというよりも、冷凍ものや缶詰のグリーンピースが使われた料理を食べて嫌いになったというほうが正しいかもしれません。かつては飲食店の料理の彩りやシュウマイのトッピングなどにもよく使われていましたし、給食で用いられたのも大きな影響があるかもしれません。
うすい豆は関西を中心に食されています。さやと豆はとても淡い黄緑色で、豆にはグリーンピースのようなつやはありません。豆の皮が薄く、甘みが強いのが特徴です。旬の春から初夏にかけて、関西では豆飯や卵とじなど様々な料理に使われ、親しまれています。和歌山県が一大産地ですが、もともとは明治時代にアメリカから現在の大阪府羽曳野市にある碓井(うすい)地区に導入されたもので、その地名が名称の由来となっています。
生のうすい豆を用いた豆飯は大変おいしく、その炊き方にはいくつかあります。初めから豆を一緒に加えて炊くと、飯に豆の香りが移りおいしい豆飯になりますが、豆の色は悪くなります。料理屋は味つけ飯を先に炊いて、炊き上がりに塩ゆでした豆を加えて蒸らします。豆の色はきれいですが、飯に豆の香りが移らず風味はいまいちです。
今回は、風味豊かで豆の色もきれいな豆飯を炊く方法をお教えします。通常の2倍量のうすい豆を用意し、その半量を最初から加えて炊きます。炊き上がったら飯の上面にある色の悪くなった豆を取り出し、代わりに別で塩ゆでしておいた残りの半量の豆と入れ替えて混ぜ、蒸らして供します。飯と一緒に炊いて取り出した豆は残った飯に加えて、翌日おにぎりにすればおいしく召し上がれます。
尾形光琳(おがた・こうりん)は江戸前期の画家で「燕子花図(かきつばたず)屏風」や「風神雷神図屏風」「紅白梅図屏風」などの代表作があり、後に琳派とよばれる画風を確立しました。そんな光琳が嵐山で行われた花見の宴に参加した際の逸話があります。
豪商たちは豪華な金銀螺鈿の重箱を用意し競い合っていましたが、光琳は粗末な竹の皮に包んだ弁当でした。周囲の者は光琳にしては不粋な、といぶかり嘲笑していました。光琳はひとり包みからおにぎりを食べ終えると竹の皮を目の前の川に投げ捨てました。竹の皮をよく見ると、内側に金箔が貼られ金銀で見事な蒔絵が施されており、流れていく様は桜の花と相まって見事な景色だったそうです。
光琳は竹皮を川に流しましたが、私は褌(ふんどし)の川流れ。川に流されたふんどしが途中の杭にひっかかるとなかなか離れないという意味で、「食い(杭)にかかったら離れない」(笑)。豆飯は大好物なので食べ始めると夢中で食べます。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「豆飯、豆飯おにぎり」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・うすい豆は茹でたら、時間をかけて少しずつ水を入れ替えて冷ます。一気に水を替え冷ますと皮にしわがよる。
・米の総量の5〜10%をもち米にすることでもっちりした食感になり、おいしい豆飯となる。パサつかないので、おにぎりにも合う。
「豆飯、豆飯おにぎり」
【材料(2人分)】・米(うるち米90〜95%、もち米5〜10%)3合
・うすい豆 200g
米と一緒に炊くもの100g、塩茹でするもの100g
・昆布出汁 540cc
・塩 9g
・日本酒 大さじ3
・油揚げ 1枚
・生姜(せん切り) 10g
・生姜(みじん切り) 10g
・奈良漬(市販品) 適量
・きゃらぶき(4/11に紹介予定。市販品でもよい) 適量
【作り方】1.炊く30分以上前に米をとぎ、10分ほど水につけた後、ざるに上げておく。
2.うすい豆100gをさやから出してボウルに入れる。塩5g(材料外)をまぶして5〜6分おく。うすい豆が堅そうな場合は重曹(材料外)小さじ1を塩と一緒にまぶしてもよい。
3.鍋に湯を沸かして2のうすい豆を入れる。再度沸いたら、中火にして1分30秒〜2分、柔らかくなるまで茹でる。鍋のまま流し台に持っていき、蛇口より水を少量ずつ注いでゆっくり温度を下げて水を入れ替える。一気に冷やすと皮にしわがよる。
4.うすい豆がつかっている水が水道水と同じくらいの温度になったら、1粒食べてみて塩の抜け具合を確認する。塩辛いようなら、もうしばらく水につけ、程よい塩加減になったらざるに上げて水をきる。
5.昆布出汁(飯の炊き上がりの堅さの好みで量を加減する)に調味料を加え、好みの味にする。
6.油揚げは2枚に開き、みじん切りにする。香ばしさが好みなら、オーブントースターできつね色に焼いて用いる。
7.炊飯器に米と5の出汁、茹でていない残りのうすい豆100g、油揚げを加えてスイッチを入れる。
8.炊き上がったら、飯の上面にある豆を取り出してボウルに入れる。飯をふんわりと混ぜてその半量を豆が入ったボウルに移して混ぜる。残りの飯は4の塩茹でしたうすい豆を混ぜて蓋をし、2分ほどおく。器に盛って生姜のせん切りを添えて供する。
9.8でボウルに入れた豆飯の湯気をとばして冷ます。冷めた豆飯に生姜のみじん切りを混ぜておにぎりにし、奈良漬やきゃらぶきを添える。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。