きぬさや3種 ひたし、ごま和え、酢のもの
きぬさやを使った料理を3品紹介します。伝統的な日本料理ではきぬさやは青み(料理全体の色バランスをよくする緑色の野菜)として添えられる程度の扱われ方で、主素材になることはまずありません。例を挙げれば「
筑前煮」や「
天井絵おせち」のような用い方です。このような使い方に対して、プロの料理人は誰も疑問を抱きません。そのように教わってきましたし、それが今も一般的ですから。
結婚して、妻が作ってくれる料理にきぬさやを主役にしたものが時々ありました。バター炒めやごま和えなど、簡単な料理ですが驚くほどおいしく、既成概念で凝り固まった私にとっては、頭を殴られたような衝撃だったことを今も覚えています。
それから私の中ではきぬさやの株が急上昇しました。六雁農園で育てた採りたてをシンプルに料理して提供すると、その甘さにお客様は驚かれます。
お客様には、六雁は野菜料理が得意だというイメージがあるので、きぬさやをおいしいと言ってくださいますが、他店で同様のものを出したら、なぜきぬさや?となってしまうでしょう。高額の代金を支払う商品としては力不足というイメージがどこかにあるのでしょう。残念なことです。であれば、家庭で六雁流にきぬさやをおいしく料理して食べましょう。
きぬさやは筋を取り、そのまま用いることが多いと思いますが、今回は切り方を工夫して少し見た目をドレスアップさせ、よりおいしいごちそうにします。
1品目は食感を生かしつつも味がしみやすいせん切りにして、ひたしにします。2品目もせん切りにして春にんじんと合わせ、春らしい彩りと風味のごま和えにします。3品目は色紙形に切った春野菜と合わせてパンチの効いた黒酢で。
きぬさやの名の由来は、収穫する際にさや同士がすれる音がきものの裾などがすれ合う「衣ずれ(きぬずれ)」の音に似ているからともいわれます。そういえば「絹 さや」ってきものの似合う女優さんの名前のようにも聞こえますね(笑)。今日はきぬさや主演3部作の野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「せん切りきぬさやのひたし」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・せん切りにしたきぬさやは食感が残るように茹でる。茹で過ぎると柔らかくなっておいしさが半減する。
・プロは茹でた後、漬け出汁に漬けて味を含ませるが、せっかくの風味が抜けてしまう。茹でたら冷水ではなく冷たい漬け出汁に漬け、すぐに食べる。
・「せん切りきぬさやのごま和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・食べる直前にごま和えの衣で和える。時間が経過すると食感が失われ、水分が出て味のメリハリもなくなる。
・せん切りにしたにんじんは風味と甘みを大切にする。茹でずにごく少量の塩をふってきぬさやと合わせる。
・「色紙きぬさやの酢のもの」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘味 ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・味にパンチのある黒酢を加えて味を引き締める。
・こんにゃくは臭みを抜いたものを使う。
「せん切りきぬさやのひたし」(左)
【材料(2人分)】・きぬさや 60g
・漬け出汁 適量
出汁180cc、塩0.3g、薄口醤油12cc、日本酒5cc
・美味出汁 適量
出汁4:濃口醤油1:日本酒1:みりん0.8の割合
【作り方】1.きぬさやの筋を取る。柔らかいものは内側の筋しか取れないが、念のために両方の筋を取る。
2.絹さやを少しずつずらして重ねて細めのせん切りにする。きぬさやの重ね方については「
野菜のせん打ちかぶら蒸し」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」で紹介している、かぶの重ね方を参照。
3.出汁に調味料を加えて漬け出汁を作り、冷蔵庫でよく冷やしておく。
4.鍋にたっぷりの湯を沸かす。きぬさやをざるに入れて、ざるごと湯につけて茹でる。食感が残るように20秒ほど茹でて湯から上げ、湯を切って3の漬け出汁につける。
5.粗熱が取れたらすぐに汁気をきって器に盛り、美味出汁を好みの量かけて供する。
「せん切りきぬさやのごま和え」(右)
【材料(2人分)】・きぬさや 45g
・にんじん 25g
・塩 少々
・白いりごま(市販品を軽くいり直す) 大さじ2
・出汁 大さじ1
・薄口醤油 小さじ1/2
【作り方】1.きぬさやは筋を取って「せん切りきぬさやのひたし」の2と同じようにせん切りにする。
2.鍋にたっぷりの湯を沸かす。ざるに入れたきぬさやをざるごと湯につけて、食感が残るように20秒ほど茹でる。ざるごと冷水につけて、粗熱が取れたらすぐに引き上げ水気をきり、さらにクッキングペーパーで水分を取り除く。
3.にんじんは刃幅が狭い櫛歯をつけたスライサーでせん切りにして、ボウルに入れる。ごく薄く塩をふって、水分が出たらクッキングペーパーで取り除く。
4.白いりごまを香ばしくいり直してすり鉢でする。「
セロリのごま和え」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真のように、ところどころにごまの粒が残るくらいにすれたら、出汁と薄口醤油を加えてよく混ぜる。
5.きぬさやとにんじんを4に加え、ごま衣をからめて和え、器に盛る。
「色紙きぬさやの酢のもの」(中央)
【材料(2人分)】・きぬさや 30g
・うど 10g
・紅くるり(身の赤い大根) 10g
・白こんにゃく 10g
・黒酢 大さじ1
・ごま油 小さじ1
・薄口醤油 大さじ1と1/3
【作り方】1.きぬさやは筋を取り、1〜1.5cm四方に切る。うど、紅くるりも皮をむいて薄切りにし、1〜1.5cm四方に切る。うどはさっと水で洗い水気をきる。
2.白こんにゃくは薄切りにし、1〜1.5cm四方に切った後、臭みを抜く。水に8%の酢を加えた中にこんにゃくを2分間つける。酢水から上げたこんにゃくを流水でもみ洗いして酢を流す。鍋に湯を沸かし、こんにゃくを入れて1分茹でて水に放し、もみ洗いして酢を完全に抜き、水気をきる。
3.ボウルに黒酢とごま油、薄口醤油を入れて泡立て器でよく混ぜる。きぬさや、うど、紅くるり、白こんにゃくを加えて和えて器に盛る。ボウルに残った合わせ酢を上から少量かけて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。