根いもの葛煮、ごま酢和え、味噌汁
今日は根いもの料理を紹介しましょう。私は子どもの頃、母が作ってくれる根いもの味噌汁が大好物で、春になると毎日のように作ってとせがんでいました。かつてはそれほど身近な野菜だったのです。今は千葉県柏市以外ではほとんど作られていないようで寂しい限りですが、主に首都圏に出回り、百貨店の食品売り場や品ぞろえの豊富なスーパーマーケットでは手頃な価格で売られています。
根いもは芽いもともいいます。秋に収穫した里いもの親いもをおがくずなどに深く埋めて保温し、出てきた芽の部分が日に当たらないように土をかぶせて軟白栽培したものです。1月頃から4月くらいまで出回ります。
里いもなどの葉柄部分はずいきと呼ばれ、赤、青、白の3種類があり、この連載でも「
赤ずいきの酢炒り、唐辛子炒り」、「
蓮いもの白酢かけ、きゅうり緑酢和え」で取り上げました。根いもはずいきが成長する前の状態のものです。
赤ずいきや蓮いもは時期になると野菜売り場に並びますが、軟白栽培した白ずいきは栽培に手間がかかり収穫量が少ないので、高級食材として料理屋などだけで利用されます。一般に出回ることはないので紹介しませんでしたが、同じ軟白栽培でも根いもは求めやすいので、ぜひお試しください。
根いもは味自体にくせがなく、スポンジ状なので味がしみ込みやすい食材です。下茹でしてあく抜きしたものを酢のものや和えものなどにするとしゃきしゃきした食感が、炊くと柔らかくとろっとした食感が楽しめます。
里いも、根いも、ずいき、いもがら(「
いもがらの煮もの、納豆汁、味噌汁」)と、味わいや楽しみ方が変わります。まさに“随喜”(ずいき。心からありがたく感ずること)ですね。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「根いもの葛煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・「根いものごま酢和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・「根いもの味噌汁」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・根いもはずいきと同様に下茹でをしてあく抜きをする。
・皮をむいたら塩を入れた酢水につけて変色を防ぐ。塩を入れることで柔らかくなり、長いままでも茹でるときに折れない。
・根いもを茹でる際には米のとぎ汁を用いる。苦みやえぐみなどのあくを吸着し、取り除く働きがある。
・根いも自体は淡泊な味なので、炊く場合は旨みの強い濃い出汁を用いる。和えものにする場合も濃い味つけにするか、下炊きした後に和える。
・根いもは加熱の加減で食感が変わる。さっと茹でるとしゃきしゃき食感になり、和えものや酢のものに適する。茹でた後に炊くととろっとした食感になる。
「根いもの葛煮」(左)
【材料(2人分)】・根いも(下茹でして絞る) 40〜50g
・塩 少々
・酢 少々
・米のとぎ汁 適量
・つくし 6本
・そばの実 適量
・揚げ油 適量
・出汁 150〜180cc
・日本酒 小さじ1
・塩 0.2g
・みりん 小さじ1/6
・薄口醤油 小さじ1/2
・水溶き葛(葛粉1:水2の割合。片栗粉でもよい) 20〜25cc
・おろし生姜 適量
【作り方】1.根いもは根元を切り、巻いている葉柄を取り除く。1本ずつ皮をむくが、ずいきと違って皮が薄いので、包丁かピーラーでなるべく薄くむく。皮をむいたものから塩と酢を少量加えた水に5分ほどつける。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
2.大きめの鍋に米のとぎ汁を入れ、火にかける。沸いたら根いもを入れて落とし蓋をして1分30秒~2分茹でる。途中、箸で混ぜて均一に茹でる。茹で上がったら冷水に放し、4〜5分水にさらしてあくを抜く。
3.少し食べてみてあくが抜けていたら、ざるに上げて水気をよく絞る。乾いた布巾の上にそろえて並べ、上からも布巾をかぶせて水分を除く。4cm長さに切る。
4.つくしの下処理をする。つくしは水を替えながら何度か洗って砂などの汚れを落とす。はかまを1つずつ指先でつまんで、茎にそってくるりとむく。指先が黒くなるので調理用手袋をするとよい。鍋に湯を沸かしてつくしを入れ、箸で混ぜて15~20秒茹で、冷水に放してさらす。水にさらす時間はつくしのあくによって変わるので、途中で食べて確認する。ほのかに苦みを感じるくらいがよい。あくが程よく抜けたら、ざるに上げて水気をきる。
5.揚げそばの実を作る。そばの実は160℃の油で揚げて、クッキングペーパーに広げて余分な油を除く。
6.鍋に出汁を入れ、火にかけて調味料を加えたら根いもを入れる。沸いたら弱火にして5分ほど炊く。水溶き葛を加えて混ぜ、粉臭さがなくなるまで30秒ほど炊いたら、つくしも加え10秒ほど炊いて火からおろす。器に根いもを盛り、つくしを上にのせる。揚げそばの実を散らしておろし生姜を添えて供する。
「根いものごま酢和え」(右)
【材料(2人分)】・根いも(下茹でして絞る) 40〜50g
・漬け出汁 約200cc
出汁180cc、塩0.3g、薄口醤油12cc、日本酒5cc
・三つ葉 1/4パック
・みょうが 1/2個
・ごま酢クリーム 適量
作りやすい分量:白ごまペースト(市販品でよい)50g、酢大さじ3、砂糖大さじ3弱
【作り方】1.根いもは「根いもの葛煮」の1〜3と同じように、茹でて水にさらし水分を除き、4cm長さに切る。
2.とろっとした食感が好みなら、「根いもの葛煮」と同じ煮汁で炊く。しゃきしゃきした食感が好みなら、漬け出汁に20分以上漬けて味を含ませる。
3.三つ葉はさっと茹でて冷水に放して水気をきり、2.5cm長さに切る。みょうがは表面の赤い皮をむいて、むいた皮を並べて縦にせん切りする。「
みょうがの切り方、甘酢漬け」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」も参照。
4.根いもの汁気をきり、クッキングペーパーで挟んでさらに汁気を除く。ボウルに入れて三つ葉、みょうがを加えて混ぜる。ごま酢クリームを好みの量加えて和え、器に盛る。
「根いもの味噌汁」
【材料(2人分)】・根いも(下茹でする) 40g
・せり 1/4パック
・油揚げ 1/3枚
・出汁 300cc
・信州味噌(好みの味噌でもよい) 適量
【作り方】1.根いもは「根いもの葛煮」の1〜3と同じように、茹でて水にさらし水分を除き、4cm長さに切る。
2.油揚げは5mm×2.5cmに切る。せりは2cm長さに切る。
3.鍋に出汁を入れて火にかけ、80℃くらいになったら信州味噌を溶き入れ、根いもと油揚げを加える。味噌汁が90℃を超えたくらいでせりを入れ、火からおろして椀に盛る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。