春菜のすき焼き
今日は春野菜を使ったすき焼きを紹介します。すき焼きは「
きのこのすき焼き」、「
ねぎとこんにゃくのすき焼き」などでもお教えしましたが、今日のすき焼きはこれまでと違い、割りしたに入れる日本酒を赤ワインに替えるのがコツです。風味豊かなすき焼きになり、ワインにもよく合います。
今回使った野菜以外でも、たけのこや山菜類、そら豆、セロリ、葉ごぼう、せり、ふきなどを加えてもいいですね。フルーツトマトと新玉ねぎは必ず加えてください。おいしさのポイントです。
トマトには夏野菜のイメージがありますが、冬から春にかけて味が濃くなります。夏のものに比べると甘さは1.5倍になる場合も。最もおいしいフルーツトマトが出るこの期間に堪能しましょう。
フルーツトマトといえば30〜40年前は高知市徳谷(とくたに)地区産のものが有名で、高級料理店が奪い合って使用していました。1970年、徳谷地区の畑に台風により海水が流れ込み、土壌に塩分が残ってしまいました。塩害が生じると諦めかけていた農家ができたトマトを食べてみると、小粒ながらもとても甘いトマトになっていました。これがフルーツトマトの発祥だとされます。徳谷地区のトマトが高く売れたことをきっかけに、日本中でフルーツトマトが作られるようになりました。
トマトは、できるだけ水を与えないで栽培すると濃くて甘いものができます。水を減らしてストレスを与えると、トマトはどうにかして生きようとします。茎や葉だけでなく、実の表面にも毛を生やして、そこから空気中の水分を取り込もうとし、水分の蒸発を抑えるために実の皮を厚くします。
ストレスをかけた木は大きくならず、収穫できるトマトの数も減り、サイズは通常より2回りほど小さくなりますが、糖分を蓄えて甘い、酸味や香りの強いトマトになります。ヘタの反対側にある放射状の白っぽい筋は水の通り道で、筋がくっきりして長いほど甘いトマトである証拠です。
トマトには旨み成分のグルタミン酸が豊富に含まれており、最近の研究ではきのこと同じ旨み成分「グアニル酸」(「
しいたけのフライ三杯酢につけて、焼きしいたけ」参照)が含まれていることもわかってきました。
トマトは水をたっぷり与えて育てると木が大きく育ち、花芽もたくさんつきますが、水っぽい味の薄いトマトになります。これは私たち料理人の世界の弟子育てにも通じるような気がします。パワハラか何か知りませんが、本当に力のある弟子を育てにくい時代になりました。弟子を育てるには厳しさと優しさのバランスが重要ですが、優しさと甘やかしは違います。何が真の愛情なのでしょう? 今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「春菜のすき焼き」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・新玉ねぎは焦げ目がつくくらいに焼く。フルーツトマトは火を通し過ぎない。
・生麩は200℃くらいの高温で一気に表面だけを揚げる。
・すき焼きのような甘辛味には、野菜料理をおいしくする7要素中の1つでもある刺激を加える意味で、スプラウトなど生野菜を加えるのもよい。
「春菜のすき焼き」
【材料(2人分)】・フルーツトマト 1個
・新玉ねぎ 1/2個
・グリーンアスパラガス 2本
・クレソン 適量
・生麩(2㎝×2.5㎝×6cm) 1本
・揚げ油 適量
・サラダ油(ベジタリアンでなければ牛脂を使ってもよい) 適量
・バジルスプラウト(3cm長さに切る) 少々
・すき焼き割りした 60〜70cc
作りやすい分量:出汁130cc、赤ワイン65cc、濃口醤油65cc、砂糖45g
【作り方】1.フルーツトマトは湯むきしてヘタを取り、縦に4つに櫛切りする。
2.新玉ねぎは先と根元を切って皮をむき、縦に4つに櫛切りする。
3.グリーンアスパラガスを茹でる。グリーンアスパラガスはまな板の上に置いて、真ん中から根元までピーラーで皮をむく。皮が堅いものは厚めに、新鮮で柔らかいものはできるだけ薄く皮をむく。グリーンアスパラガスを横にして入るくらいの鍋にたっぷりの湯を沸かす。穂先を持って根元のほうを湯につけ、20~30秒ほどしたら倒すようにして全体を入れ、2~3分茹でる。冷水に放し、冷めたら水気をきる。
4.生麩を揚げる。フライパンに揚げ油を入れて200℃に熱する。生麩を油に入れて表面だけを一気にきつね色に揚げる。全面が同じ状態に揚がるように生麩を油の中で返しながら揚げる。「
生麩のみたらし」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。揚がった生麩を1.5cm厚さに切る。
5.すき焼き割りしたを作る。材料を鍋に入れてひと煮立ちしたら、火からおろして冷ます。日持ちするのでまとめて作り、冷蔵庫で保存する。
6.フライパンを火にかけてサラダ油をひき、新玉ねぎを入れて焦げ目がつくくらいに両面を焼く。生麩、フルーツトマト、グリーンアスパラガスを加えて焼き、油がなじんだら割りしたを注いで強火で一気にからませる。クレソンを加え、食材が割りしたを吸ったら火からおろして器に盛り、バジルスプラウトを添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。