うど三昧 皮のきんぴら、べっ甲煮、梅煮
テレビ・雑誌などで、一流料理店の賄いとして、おいしい料理をスタッフたちが食べているのが紹介されますが、あれって本当でしょうか? はやっている店であればあるほど忙しくて、自分たちの賄いを作るのに当てられる時間は少ないものです。ましてや賄いのためだけにいろいろな食材を買い求める余裕は……。
私の賄いにまつわる思い出話をさせていただきます。この道に入って1年目の頃、自分としては一生懸命、賄いを作っていたつもりだったのですが、ある日、おやっさん(料理長)の洗礼を受けました。
その時、私は野菜の皮むきを担当していたのですが、皮をむき終わってざるにたまった皮をゴミ箱に捨てた瞬間、おやっさんが近づいてきました。「おい、今、何した?」ゴミ箱を逆さにされ、中身をすべて出されました。ゴミの中のいくつかを手に取られ、静かに一言だけ、「お前、何にも考えてないな」。そう言って、立ち去りました。おやっさんが手に取ったのは、私が捨てた野菜の皮やヘタ、魚の骨などでした。
おやっさんの指示だったのかどうかわかりませんが、兄弟子の一人がゴミ箱に入っていた野菜のヘタや魚の骨で、私と一緒に賄いを作ってくれました。捨てたもので数品の賄いができました。衝撃でした。
料理屋は高級食材(本当は食材に等級の差などありません)を使っているので、無駄なく材料を使い切らなければなりません。もっと踏み込んで言えば、魚であれ、野菜であれ、命を頂戴している以上は、感謝して、そのすべてを利用し、エネルギー・命の循環に寄与してこそ料理人ということなのかもしれません。
普通は捨てられてしまうような材料をうまく使いこなし、見事な逸品に仕上げるのが名料理人です。魚のあらや野菜くずなどは、手をかけないとおいしく食べられないので、料理人の腕と器量が求められるのです。
「
うどと春菜の酢のもの」、「
うどと木いちごの酢のもの、うどと春菜の酢味噌和え」で、うどは穂先から枝、皮まですべて食べられることをお話ししました。その際にお約束したうどを無駄なく料理する方法を紹介しましょう。
穂先は「
山菜・春菜の天ぷら」でお教えしましたので、今日は皮、枝、そして根元のほうの堅い部分を料理します。先の賄いの話のように、一般的に捨てられてしまう部分をうまく活用するということではなく、この部位だからおいしくできる料理、適材適所の料理といえるでしょう。
菜食主義や食養生でよく使われる言葉に、全体食(正式には「一物全体食(いちぶつぜんたいしょく)」)があります。食材を丸ごと食べるのが健康によいとする考え方です。穀物は精白せず、野菜の皮はむかず、根菜の葉も用いる、小魚を丸ごと食べるなどです。
おやっさんの教え、全体食、最近のフードロス問題、母がいつも言っていた「食べものには捨てるところがない」という言葉は、指し示すところは皆同じなのでしょう。ただ、おいしく料理しなければ、我慢して理屈で食べているのと同じです。自画自賛ですが(笑)、この連載にはそのための工夫と知恵がいっぱいです。おいしく食べて体にも地球にも優しく生きる。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「うどの皮のきんぴら」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・うどは下処理して、太い茎、茎をむいた皮、枝、穂先に分けて料理する。
・うどの茎は表面に密生したうぶ毛全体をガスのじか火で焼いて、水で洗い流して使う。
・「うどのべっ甲煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・うどのべっ甲煮には、皮をむいた枝の部分を用いる。
・煮汁がなくなるまで煮つめて仕上げるが、そのまま30分ほどおくと汁気が少し出てくる。再度、煮つめると味がぼけない。
・「うどの梅煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・うどの梅煮には茎の根元のほうの堅い部分を用いる。この部位は炒めものにも適している。
・出汁にほぐした梅干しを加えてしばらく炊き、酸味と風味を移した後にうどを炊く。
・沸かした煮汁にうどを加えてさっと炊き、鍋ごと冷やして食感を残す。
「うどの皮のきんぴら」(上)
【材料(2〜3人分)】・うどの皮 120g
・ごま油 大さじ1
・日本酒 大さじ1
・きび砂糖 小さじ1強
・薄口醤油 12cc
・一味唐辛子 少々
【作り方】1.うどの茎は長いまま、表面に密生したうぶ毛全体をガスの直火で焼き、水を入れたボウルの中で指でこすり、うぶ毛を洗い流す。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。
2.1を5cmほどの長さに切り、桂むきの要領で2〜3mmくらいの厚みで皮をむく。皮をむいた残りのうどは、うどのべっ甲煮など別の料理に使うとよい。皮を2〜3mm幅のせん切りにする。
3.フライパンを火にかけ、ごま油をひいて、うどの皮を入れ強火で炒める。皮に火が通ったら日本酒ときび砂糖、薄口醤油を加えてからめる。汁気がなくなったら火からおろす。
4.器に盛って一味唐辛子をかけて供する。
「うどのべっ甲煮」(右)
【材料(3〜4人分)】・うどの枝 200g
・出汁 200cc
・日本酒 大さじ3
・塩 0.5g
・みりん 大さじ1
・薄口醤油 小さじ1
・濃口醤油 小さじ1/2
・白いりごま(市販品を軽くいり直す) 少々
【作り方】1.うどの枝は茎から外して、両端から皮をむく。むきにくい場合はまな板の上に横にしてピーラーでむいてもよい。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。3.5cm長さに切りさっと水で洗いざるに上げる。
2.鍋にすべての調味料を入れて火にかける。調味料が混ざったらうどを加える。沸いたら中火にして、時々混ぜながら煮つめていく。鍋肌についた煮汁が焦げないように、固く絞った布巾で拭き取る。煮汁が少なくなってきたら弱火にして、煮汁が完全になくなるまで煮つめる。
3.火からおろして、そのままおく。30分ほどたつと水分がしみ出てくるので、再度、火にかけて煮つめる。器に盛って白いりごまをかけて供する。
「うどの梅煮」(左)
【材料(2〜3人分)】・うど(茎の根側の堅い部分) 90g
・出汁 200cc
・日本酒 大さじ1
・梅干し(中) 2個
・薄口醤油 小さじ1/2
・梅肉 少々
【作り方】1.うどの根元を切り落とし、その真上の堅い部分を用いる。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。5cmほどの長さに切り、桂むきの要領で2〜3mmくらいの厚さで皮をむく。
2.太さに合わせて縦に半分か十字に切って、それぞれを食べやすい大きさに乱切りする。水でさっと洗ってざるに上げる。
3.鍋に出汁を入れ、梅干し(指でつまんで少しつぶしておく)と日本酒を入れて火にかける。沸いたらごく弱火にして5分ほど炊いて、梅干しの酸味と風味を出汁に溶け出させる。クッキングペーパーでこして鍋に戻し、薄口醤油を加えて沸いたらうどを入れる。1〜2分炊いたら火からおろし、鍋ごと氷水で冷やし20分以上味を含ませる。
4.汁気をきって器に盛り、梅肉を少量添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。