わかめと春菜の酢のもの、わかめとねぎの辛子酢味噌かけ
生の新わかめが終わり、塩蔵や乾燥わかめの新ものが出回り始めました。わかめは日本全国で収穫でき、現在、国産わかめのほとんどが養殖ものです。産地は数ありますが、三陸海岸がわかめの生息に適しており、岩手県や宮城県の沿岸部が有名です。他にも伊勢湾や鳴門海峡も産地として知られています。
「
わかめと木の芽のひたし、わかめとうすい豆」でお教えしたように、塩蔵と乾燥はどちらも同じように使えますが、私たちプロは使い分けをする場合もあります。三陸産の塩蔵わかめは炊くと柔らかくなるので煮ものなどに、鳴門産の灰干しわかめや乾燥わかめは色がきれいで食感がよいので酢のものやひたしなどによく用います。
今回は乾燥わかめの新ものを使った酢のものを紹介します。「
九条ねぎの辛み和え」でお話しした、葉先まで食べる「青ねぎ(葉ねぎ)」の一種である万能ねぎと合わせましょう。万能ねぎは九条ねぎの一種です。九条ねぎの品種で葉の太さが違う「九条細ねぎ」と「九条太ねぎ」のうち、九条細ねぎを若採りしたもので、商標登録名は「博多万能ねぎ」です。くせが少なくマイルドな辛みで生でも食べられます。
若採りなのでぬめりが少なく、「
わけぎのぬた和え、酢のもの」のように、茹でた後にぬめりをしごくのではなく、布巾で水気を除く程度にとどめます。ぬめりを除いていないので、ぬた和えにすると水分が出て、食感が悪くなってしまいます。和えるのではなく酢味噌をかけて供します。
わかめとねぎの組み合わせがよくない、と一部のマスコミで話題になったことがあります。わかめに含まれるカルシウムの吸収を、ねぎに含まれるリンや硫化アリルが阻害するというのです。しかし、わかめのカルシウムはそれほど多くなく、わかめ自体にもリンが含まれており、実際のところ大騒ぎするほどの問題ではないと思います。カルシウムは他の食材から摂ればいいだけの話です。
豆腐とわかめ、ねぎは味噌汁の具の代表的な組み合わせです。塩分が多くなりがちな味噌汁に塩分を排除する働きがあるアルギン酸を含むわかめを入れ、わかめのカルシウムをしっかり吸収するためにたんぱく質が豊富な豆腐を組み合わせ、ねぎの風味でおいしくいただく。むしろこっちを話題にしてほしいものですね。
組み合わせを追加するだけで栄養の吸収もアップし、おいしく食べられる。木を見て森を見ずではなく、広い視野で野菜料理をおいしく楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「わかめと春菜の酢のもの」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・塩蔵わかめ、乾燥わかめは水でもどして使うが、もどし過ぎに注意する。食感や風味、旨みが失われるだけでなく、わかめに含まれる水溶性の食物繊維や一部のビタミン群も失われてしまう。
・食べる直前に土佐酢で和える。和えて時間がたつと、具材の食感が失われると同時に水っぽくなり、食味も損なわれる。
・松の実を加えると甘さと食感が加わる。
・「わかめとねぎの辛子酢味噌かけ」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・万能ねぎは根元の白い部分と緑の部分に均一に火が入るように茹でる。
・茹で上がった万能ねぎは水に放さずに塩をふって急冷する。
・食べる直前に酢味噌をかける。時間がたつと、水分が出て味も水っぽくなる。
・酢味噌は酢だけでなく、柑橘の絞り汁も加えることでマイルドな酸味になる。
・酢味噌をかけ過ぎると素材の味や香りを感じにくくなる。酢味噌の量は少なめして、その代わりにわかめを土佐酢で下洗いすると素材の味が生きたおいしい酢のものになる。
「わかめと春菜の酢のもの」(左)
【材料(2人分)】・灰干しわかめ(普通の乾燥わかめ、塩蔵わかめでもよい。もどした状態) 70g
・フルーツトマト 1個
・うど 3cm
・油揚げ 1/4枚
・土佐酢 適量
出汁4:薄口醤油1:みりん1:酢1の割合
・松の実(いったもの) 8〜10粒
・ディル 少々
【作り方】1.灰干しわかめは水をたっぷり入れたボウルに入れて、灰を手早く洗い流す。水が濁らなくなるまで何度か水を替えてもみ洗いし、ざるに上げる。普通の乾燥わかめの場合は5分ほど水で戻してざるに上げて水気をきる。塩蔵わかめを使う場合は水につけて塩抜きをする。
2.鍋にたっぷりの湯を沸かし、わかめを入れ2秒ほど茹でたら冷水に放す。冷めたらすぐにざるに上げて水気をきる。
3.わかめをまな板に広げ、真ん中にある茎の部分に沿って包丁を入れて茎を除く。茎は和えものなど、別の料理に使う。茎が気にならない場合はそのまま使ってもよい。
4.うどは茎の部分を使う。厚めに皮をむいて3mm角×3cm長さに切り、水でさっと洗ってクッキングペーパーで水気を除く。フルーツトマトは湯むきしてヘタを除き、縦に6〜8等分する。油揚げはオーブントースターでこんがり焼いて5mm幅×3cm長さに切る。
5.わかめを食べやすい大きさに切ってボウルに入れ、うど、フルーツトマト、油揚げを加えて混ぜる。土佐酢をまぶしかけてざっと洗うように混ぜる。ざるに上げて酢をきり、器に盛る。新しい土佐酢をかけて松の実を散らし、ちぎったディルを添えて供する。
「わかめとねぎの辛子酢味噌かけ」
【材料(2人分)】・灰干しわかめ(普通の乾燥わかめ、塩蔵わかめでもよい。もどした状態) 30〜40g
・万能ねぎ 5〜6本(茹でて20g)
・土佐酢 適量
出汁4:薄口醤油1:みりん1:酢1の割合
・辛子酢味噌 大さじ2弱
玉味噌(白) 30g (作りやすい分量:西京味噌500g、卵黄5個、砂糖30g、日本酒200cc 「
生姜味噌」参照、レモン果汁小さじ1/2 、酢小さじ1/4 、練り辛子5g
・刻み昆布(なければ白板昆布を刻んで使ってもよい) 少々
・揚げ油 適量
【作り方】1.灰干しわかめは「わかめと春菜の酢のもの」の1〜3と同じように処理する。
2.万能ねぎは、洗って根の部分だけを切り落とす。大きめの鍋に湯を沸かし、万能ねぎの先部分を持って根元の白い部分を先に湯につけ、20〜30秒ほど茹でる。白い部分がくたっとしてきたら、全体を40秒ほど茹でる。火の通りが均一になるように落し蓋をするか、途中で1~2度上下を返す。
3.茹で上がった万能ねぎは水に放さず、ざる上げた後に、大きめのバットやまな板に並べて塩(材料外)を薄くふる。根元が下になるようにバットを傾け、扇風機やうちわであおいで冷ます。
4.冷めた万能ねぎを乾いた布巾で包んで水分を除き、3cm長さに切る。
5.辛子酢味噌を作る。ボウルに玉味噌(白)を入れてレモン果汁と酢を加えて混ぜ、練り辛子を加えて混ぜる。
6:揚げ昆布を作る。刻み昆布を160℃の油で揚げ、クッキングペーパーに広げて余分な油を除く。
7.わかめを食べやすい大きさに切ってボウルに入れ、土佐酢をまぶしかけてざっと洗うように混ぜる。ざるに上げて酢をきって器に盛り、万能ねぎはそろえて盛る。上から辛子酢味噌をかけ、揚げ昆布を添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。