プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 茶葉の佃煮、碾茶(てんちゃ)飯、冬瓜の赤出汁
今日は八十八夜、「
菜花の昆布押し、わさび漬け和え」でお話ししたように、立春から数えて88日目です。昔から「八十八夜の別れ霜」などといわれ、霜のなくなる安定した気候が訪れる時期で、春から夏へ移る境目として重要な日とされてきました。八十八という字を組み合わせると「米」という字にもなり、農家にとっては大切な日で、稲の種まきの準備を始めます。
また、「夏も近づく八十八夜」と唱歌にうたわれるように、この時期は新茶の茶摘みのシーズンになります。八十八夜の日に摘んだ茶葉は珍重され、「八十八夜に摘んだ新茶を飲むと病気にならない。長生きできる」などという言い伝えもあるほどです。冬に養分を蓄え、春にいち早く芽吹いた茶葉を摘んで作ったのが新茶(一番茶)で、その後に摘まれる茶葉よりも栄養価や旨み成分が多く含まれています。
新茶が出ると、早速、その香りやおいしさを楽しみたくなるのが人間の常ですね。そうなると、昨年の茶はつい後回しになり……。同様の話を「
新海苔雑煮、佃煮」でもしましたね(笑)。
今回は、茶葉を使って佃煮を作ります。「えっ、茶葉で!?」という感じかもしれませんが、茶葉には海苔と同じように旨み成分が豊富に含まれています。出汁を使わなくてもお茶漬けがおいしいのはそのためです。
日本茶の深い味わいは、茶葉に含まれるテアニン、グルタミン酸、アルギニンなどのアミノ酸によるもので、その中でも半分以上を占めるのがお茶特有のアミノ酸として知られるテアニンです。日に当たると渋味成分のカテキンに変化するので、一定期間、被覆(ひふく)栽培をする玉露や抹茶、煎茶では若い芽だけを摘み取った新茶に多く含まれます。
茶葉の佃煮は、一般的には出し殻を再利用して作られますが、それでは旨みも風味も抜けています。そこで昨年の残った新茶を使うと、おいしく風味のよい佃煮ができます。ポイントは旨みが強く、葉が柔らかい玉露や昨年の新茶を用いることです。二番茶以降のものは葉が堅くて旨みが弱く渋みがあります。
今日は碾茶(てんちゃ)飯も紹介します。碾茶は石臼で挽く前の抹茶、つまり抹茶の原料です。被覆栽培の茶葉を蒸したあと、揉まずに乾燥させます。旨みがしっかりとあり、さくさくの食感で、料理やご飯にふりかけてもおいしくいただけます。ネット販売もされているので探してみてください。
今晩はご飯に茶葉の佃煮を添えて、あるいは碾茶をかけて出始めの冬瓜の味噌汁と合わせるのはいかがでしょう。季節を食す風情だけでなく、旨みもたっぷりです。新茶、“新着”で“新茶食”う(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「茶葉の佃煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・茶葉は水でふやかした後に炊く。
・きくらげが食感を加え、生姜が佃煮としての風味を増す。
・茶葉の出し殻と茶葉を半々で合わせてもよい。
・「碾茶飯」は、野菜料理をおいしくする7要素中4要素を取り入れている。
◎旨み 塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・碾茶は香りと食感を生かすため、炊きたてのご飯に食べる直前にふりかける。
・塩分がほしければ、塩少々を一緒にかけてもよい。
・「冬瓜の赤出汁」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・冬瓜は揚げ煮にして用いると、こくが増しておいしい。揚げ煮にするのが面倒な場合は、小さめに切って油で炒めた後に味噌汁に加えるとよい。
・冬瓜の味噌汁は生姜のせん切りを添えてもおいしい。
「茶葉の佃煮」(上)
【材料(作りやすい分量)】・茶葉 15g
・水 45〜50cc
・生きくらげ(乾物をもどしたものでもよい) 20g
・生姜(みじん切り) 10g
・日本酒 大さじ1
・みりん 小さじ1と2/3
・薄口醤油 小さじ1と1/4
・濃口醤油 小さじ1と1/4
【作り方】1.茶葉をボウルに入れ、水を回しかけて10分ほどおいてふやかす。
2.1を鍋に入れてきくらげと生姜、調味料すべてを加えて火にかけ、木べらで混ぜながら水分をとばしていく。
3.汁気が少なくなるに従って、火をだんだん弱め、「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真のような状態になったら、火からおろして鍋底を氷水につけて急冷する。
「碾茶飯」(左)
【材料(作りやすい分量)】・ご飯(炊き立て) 適量
・碾茶(市販品) 適量
・塩(好みで) 少々
【作り方】1.炊き立てのご飯に、碾茶を好みの量かける。塩分がほしければ塩を少々かけてもよい。
「冬瓜の赤出汁」(右)
【材料(2人分)】・冬瓜の揚げ煮(3cm角) 6個
・油揚げ 1/5枚
・出汁 350cc
・信州味噌(好みの味噌でもよい) 適量
【作り方】1.冬瓜は「
冬瓜の揚げ煮」を参照して炊く。
2.油揚げは5mm×2.5cmに切る。
3.鍋に出汁を入れて火にかけ、80℃くらいになったら味噌を溶き入れて、3cm角に切って煮汁で温めた冬瓜と油揚げを加える。味噌汁が90℃を超えたくらいで火からおろし、椀に盛る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗