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一汁一菜の基本、かぶとなすの漬けものをご家庭で。料亭よりもおいしく作れますよ

2022.05.07

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プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。一覧はこちら>>

小かぶの浅漬け、水なすの浅漬け・昆布押し


小かぶの浅漬け、水なすの浅漬け・昆布押し

日本人の食事における「飯・汁・漬けもの(香のもの)」は、三種の神器ともいえる重要なものです。一汁一菜を極限まで絞り込んだ食事スタイルであると同時に、日本料理はこれを基本に、料理の数を増やして饗応(きょうおう)料理などへ発展させていきました。かつての饗応料理である本膳料理では、「飯に一汁一菜」がベースとなって、それに菜が加わり、一汁三菜、一汁五菜、汁が一品加わって、二汁五菜、二汁七菜、三汁五菜、三汁七菜、三汁十一菜と増えていきました。

この連載では、現在のプロの料理人が肉や魚を使った凝った料理に比べて注力しない「飯」や「汁」の大切さをくり返し述べてきましたが、今日は「漬けもの」についてお話しします。北大路魯山人が次のような主旨のことを書いています。「漬けものの中には、一日や二日では漬からないもの、二か月、三か月、半年もかけて出来上がるものもある。このような丹精こめた漬けものを、薄い小皿にのせて邪魔もののように軽々しく扱うのは、そのうまさ、漬け方の苦心を知らぬ料理職人の浅慮による。」


飯や汁同様、漬けものは料理人の間では軽視されがちで、漬けものは市販品を仕入れるものという暗黙の了解が一部では定着しており、ぬか床さえない料理屋も多くなりました。時代の流れといってしまえばそれまでですが、究極の一汁一菜の「一菜」である漬けものを、おざなりにしてよいわけがありません。

たくあんなどは、保存スペースなどの問題もあり、家庭で漬けることが難しくなったのは事実ですが、せめてぬか漬けや浅漬け、千枚漬けくらいは自分で漬けたおいしいものを食べてほしい。そんな思いもあり、この連載でも「夏野菜のぬか漬け」「ぬか漬けのかくや和え」「即席しば漬け」「白菜の即席漬け」「千枚漬け」「菜花の昆布押し」などを紹介してきました。

塩漬けは最古の保存食のひとつといえるでしょうし、野菜に限らず魚・肉が塩蔵されてきた歴史があります。それが、時代とともに塩蔵だけでなく酢漬け、麹漬け……などと、民族・風土・文化の違いで独自の食文化に発展していきました。日本では、室町時代くらいになると野菜の漬けものも工夫され、独自の風味を持つものとして重宝され、本膳料理などにも取り入れられました。

漬けものは香のものとも呼ばれます。その由来には諸説ありますが、香道に由来するという説があります。香道は香木を焚いてその香りを嗅ぎ分けて(香道では、香りを嗅ぐ事を「聞く」という)使われている香木を言い当てる雅な競技です。途中で鼻の疲れを取る必要があり、ぬか漬けの大根がリセットの役割に用いられました。ぬか漬けの風味は聞香(もんこう)の邪魔をせず、鼻が通ると考えられ、香道にふさわしいように香のものと呼ぶようになりました。それが時代とともに、漬けもの全般を指す言葉として使われるようになったとされます。

今回は小かぶの浅漬けと、これからおいしくなる水なすの漬けもの2種を紹介しましょう。市販品と違い、保存料やアミノ酸が含まれておらず、安心して食べられます。日本の食文化、香のものを、家庭でおいしく作って野菜料理を楽しみましょう。


ちょっとしたコツ


・「小かぶの浅漬け」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。

◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激

小かぶは塩をふってしばらくおき、水気を除いた後に昆布と一緒に漬ける。葉茎は茹でた後に漬けると漬かりやすい。

・好みで野菜料理をおいしくする7要素の1つ、刺激になる赤唐辛子を一緒に漬けてもよい。

・「水なすの浅漬け・昆布押し」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。

◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激

・浅漬け用調味液には酢が含まれているので、翌日になると水なすの色が褐変する。その日に食べる分だけを漬ける

・浅漬け用調味液は日持ちするのでまとめて作り、冷蔵庫で保存するとよい。「長いものわさび漬け」などにも使える。

・昆布押しに使う昆布は、日本酒で湿らせた一般的な昆布でもよいが、白板昆布のほうが柔らかいので水なす全体に接触しやすく、昆布の味がしみやすい







「小かぶの浅漬け」


小かぶの浅漬け、水なすの浅漬け・昆布押し

【材料(4人分)】
・小かぶ 2個(160g)

・かぶの葉茎 2個分(120g)

・塩 適量

・昆布 15〜20g

・赤唐辛子(好みで) 少々

・いりごま(市販品をいり直す) 適量

【作り方】
1.小かぶは葉茎を切り離し、皮をむいて縦6つのくし切りにする。かぶの重量の1.2%の塩をふる。15分ほどおいてクッキングペーパーにはさんで水気を取り除く。葉茎は茹でて水に放し、ざるに上げる。水気を絞ったら重量の1.2%の塩をふる。水分が出たらクッキングペーパーにはさんで取り除く。

2.簡易漬物器に1の小かぶと葉茎、小さめに切った昆布、好みで種を抜いた赤唐辛子を入れる。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」参照。圧をかけて冷蔵庫で半日〜1日(漬かり具合は好みで)保存する。

3.小かぶと葉茎を簡易漬物器から取り出し、葉茎は食べやすいように小口切りにする。器に小かぶを盛って葉茎を添え、いりごまをふる。一緒に漬けた昆布を細いせん切りにして、上にのせて供する。

小かぶの浅漬け、水なすの浅漬け・昆布押し

「水なすの浅漬け」(左)


【材料(4人分)】
・水なす 2個

・浅漬け用調味液
昆布出汁500cc、白醤油300cc、みりん120cc、酢50cc

・練り辛子 少々

【作り方】
1.浅漬け用調味液の材料をボウルに入れ混ぜる。

2.水なすはヘタを切って縦半分にする。ジッパー付き調理用保存袋に入れ、1を適量注ぎ入れて冷蔵庫で半日保存する。急ぐ場合は保存袋の上から水なすを少しもむとよい。

3.水なすを調味液から出して、ヘタがついていた部分に包丁で切れ目を入れ、食べやすい大きさに手で縦に裂く。

4.器に盛って、練り辛子を添えて供する。

「水なすの昆布押し」(右)


【材料(2人分)】
・水なす 1個

・塩 適量

・白板昆布 1枚

・生姜(細めのせん切りにする) 適量

【作り方】
1.水なすはヘタを切って縦半分にする。

2.塩分濃度3%の塩水を作り、1を10〜15分ほど漬け、少ししんなりしたらざるに上げ、乾いた布巾で水分を取り除く。

3.同じ大きさのバットを2枚用意する。バットに白板昆布を敷いて水なすを並べ、上から白板昆布をかぶせ、もう1枚のバットをのせる。輪ゴム数本を束ねて、バットに数か所かけ、重石にする。

4.冷蔵庫に12〜18時間ほど入れて、白板昆布の旨みが水なすにしみたら白板昆布を外す。縦に3つに切って器に盛り、生姜のせん切りを添えて供する。

私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。

六雁(むつかり)

榎園豊治さんプロフィール
銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。

六雁 むつかり

東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:http://www.mutsukari.com

六雁 むつかり 料理長、秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。
文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗
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